short story series『と、私も前々から考えていた』くつ下 case05

作・堀愛子

吉田君は黒縁のめがねかけてて、こめかみの髪の毛を少し耳にかけている。
たしか図書委員をしてて、部活は野球部。
隣のクラス。
あたしの中学校は全クラスで60人ぐらいで結構小規模な学校だから、吉田君のこともすぐに見つけられる。
一回だけ話したことあるけど、ほんと友達挟んでの会話だし話したうちには入らないかもしれない。
吉田君は人より話す声が小さい。低い声。誰かと喋ってるの見てたら、少し髪の毛クシャってするときある。
好きなわけじゃないけど、なんとなく、吉田君は人より変だったらいいのにと思う。

週一の、学年で集まる集会がある。
その時も決まって、吉田君が斜め前に並んでいるのを目で追う。
またクシャってしてた。
そしたら見つけた。
吉田君の、変なところ。
あし。
つま先を折り曲げている。
上履きを履いてるからいつもは分かんないけど、集会の時は脱がないといけない。
吉田君のつま先、なんで折り曲げてるんだ。
気になる。
あ。
吉田君のくつ下には穴が開いていて、
しかも両足親指に。

めがねの奥の目の色とか、
球拾いする姿とか、本のページめくる手とか、そんなのより、
もっと。
吉田君がちょっと好き。

2018年11月23日

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