short story series『と、私も前々から考えていた』くつ下 case03

作・草場あい子

僕の世界は狭い。

僕はいつも制服をきっちり着て、授業を静かに受ける。

でも僕は優等生ではない。成績は中の中。運動も得意ではない。

ただ規定の髪型、規定の制服を校則通りに着て、丈の長さがくるぶしの上までの規定の白いくつ下を履いているだけ。担任の先生はそんな僕を模範という。ただ校則を守っているだけなのに。

僕には取り柄がない。誇れることは何も。趣味もないし好きなことも特にない。だからなにか始めようとする。でも長続きしない。

だから校則を守る。取り柄がなくても生きて行けるから。

僕は考える。自分の取り柄を。この世界から出た時に困らないように。でもいつの間にか外を眺めてしまう。人とか鳥とか車とか。見てて飽きない。だから見てるといつの間にか時間が過ぎている。そして今日もまた取り柄を見つけだす前に今日が終わる。

明日もまた規定の制服を校則通りに着て、規定のくつ下を履いて学校へ行くだろう。そして考えて、いつの間にか時間が過ぎるだろう。

これが僕の世界だから。

朝が来る。規定の制服を校則通りに着て、くつ下を履く。でもひとつだけいつもと違う。くつ下。丈がくるぶしまでない白いくつ下。多分みんな気づかないだろう。けど、自分は知ってる。自分がいつもと違うこと。だから自分の中でなにか変わるような気がして。僕は今日僕の世界を少し変えてみた。

2018年11月21日

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