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"日本にアートの新しいマーケットを切り拓く"アーティストと教育者2つの顔で活躍する椿 昇さん

今までの日本のアート界のあり方に問題意識を持ち、固定概念を覆す新たなプロジェクトとして卒業制作展を「アートフェア化」させ、若手アーティストが「アートで食べていける仕組み作り」で注目を集めている椿さん。
常に新しい事件を起こし続けることができるクリエイティビティの源について、お話を伺いました。

椿 昇(つばき のぼる)さんプロフィール                                 
出身地:
京都府京都市
活動地域:関西エリア
経歴:京都市立芸術大学美術専攻科修了。
1980 年代から、美術と社会の関係を問い直す作品を発表している。
2001年の横浜トリエンナーレで発表した全長50 メートルの巨大なバッタ(椿昇+室井尚「インセクト・ワールド- 飛蝗」)が知られている。
2003年水戸美術館にて9.11以後の世界をテーマに「国連少年展」。2009年、京都国立近代美術館で個展「椿昇 2004-2009 <20042009>
:GOLD/WHITE/BLACK」
2012年、霧島アートの森(鹿児島)にて「椿昇展“PREHISTORIC_PH”」を開催。小豆島「醤の郷+坂手港プロジェクト」エリアディレクター。
同2016年「小豆島未来プロジェクト」、青森トリエンナーレ
現在の職業および活動:京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科教授。
「アーティストフェアKYOTO」のディレクターを務める。
座右の銘:理性は悲観的に。しかしながら行動(意志)は楽観的に



江戸時代みたいに、町衆が「好きやで」って勝手に作品を買っていくようになったらいいなと思います


記者 椿さんは現代美術家でありながら京都造形芸術大学で教員をされ、近年では美術工芸学科に「基礎美術コース」を新設されて、精力的に若いアーティストの育成をされていらっしゃいますね。どういった想いで取りくまれているのでしょうか?

椿昇さん (以下、椿 敬称略) 美術工芸の分野は日本中で若い人が来ないですよ。美術と工芸というだけでおじさんやおばさんのお金持ちのシニアのものでしょというイメージがあって、若い人は漫画や映画やアニメ、情報デザインやITなどのホットな分野に行くんですよ。若い人が行きたいところではなくなってしまった。

世界に目を転じるとアートは最先端だし、アーティストはヒーローで莫大な富を得ているし、世界的に超かっこいい分野です。アジアでもそう。でも日本だけは美術というだけでガクッと人気がなくて、地方大学の美術工芸科なんてほんまに人が来ない。その圧倒的なギャップに、「なんでこんなことになっているの?」と腹が立ったんです。

これは、ほとんど僕らの業界に責任があると思います。美術の教員が努力しなくて、今までの既得権益の世界に迎合していたから。世界がガラッと変わったのにその変わった世界を見てなかったから、システム自体が古くなって劣化していってしまった。
僕は、それはまずいだろうと思って、美術工芸の学科長になってからシステムを改変していきました。

その中で一番大きかったのは、卒業制作展をアートフェアに変えて、どんどん人を招待して学校の中で展覧会して即売会を始めたんですね。これが軌道に乗ってきて、去年は卒業制作展で800万も売れました。富裕層を連れて行ってギャラリーツアーをして、一晩で500万売れて。
京都でマーケットができて、新しいコレクターが増え始め、東京からもいっぱい人が来てくれるようになり5年間続いてやっています。
それによって学生たちが絵を描き続けられるようになったんですよ。

週末だけではなくて、絶対毎日描き続けないといけないから。描き続けるだけではなく、さばけないとついていけないから。そういう構造作って、絵だけで食べていけるようになってきている。

記者 それはすばらしい貢献ですね!

椿 今までのギャラリーに行くというシステムではなく、江戸時代みたいに、町衆が「好きやで」って勝手に作品を買っていくようになったらいいなと思います。

それでも日本画と工芸が定員を割って弱まっているので、強化するために「基礎美術」といって室町の文化を教えるコースをつくりました。日本の文化というのはほとんど室町文化からできているんです。禅が確立され、そこでお茶や立花や住空間やお能もそうです。今もニューヨークに行って、お茶やお能を披露できたら「ブラボー日本人!」と言われる。

650年前に生まれたものが今でも最先端なんです。すごいコンテンツなので、それに着目してそれをもう一度再生したいと思っています。650年続いているものを消すわけにいかないですよね。

記者 なぜ海外では人気があるのに、日本ではそんなに人気がないのでしょうか?

椿 世界の情報が全然日本に伝わっていないんですね。
ニューヨークやロンドンでは、日本のコンテンポラリー工芸がヒットしていてみんなほしがっているのに、メディアが伝えていないんですよ。日本の高校生も知らなくて、陶芸なんて古いと思っている。
一般的にステレオタイプ的に、その世界を古いと思いこんだ瞬間に革命が起こっています。よく掘り下げて物事を観ないと流されてしまう。

実は世界で一番美術館に行くのは日本人で、世界で一番作品を買わないのも日本人ですね。ほとんどポストカードしか買わなくなっているので、内需が0に近い。

まずは内需が大事です。近代の良い作品が海外に流出してしまって、自ら自分の首を絞めてしまっている。
若い子の作品はいっぱい良いものがあるから売れるようにしたいので、買い手を育てたいですね。

僕がまず始めたのは、学生のところに行ってアトリエに転がっている作品を買い漁りはじめたんです。先生に隠して置いてあるものの方がいい作品だったりするんですよ。ごみ箱から拾って買うこともあります(笑)。

記者 今の時代の若者や学生に伝えたいことは何ですか?

椿 どんなになっても絶対やっていけるからくよくよするな。おっさんがどうこう言おうが、ほっとき。自分がやりたいこと、今いいと思うやりたいことやりな。絶対に次の世界を創れるから。歴史見てみ。応仁の乱起きても戦後、爆儲けできるし。そうやって人類生き延びてきたから。
一番よくないのはそれで不安になったり、心病んだり、ホルモンバランスを崩すことです。

アートは、究極生き延びること。サバイバル。その時に固定概念に縛られていたら生き延びることできないから。アートはそれを解除する仕事。「大丈夫」ノープロブレム。

どんなことがあっても精神的な健康を保つことが大事です。精神的な健康がないとホルモンバランスが崩れて体に影響が出るので。
僕はできるだけ交感神経を使わずに副交感神経だけで生きている。スイッチ入れる時も交感神経入れず、禅の瞑想状態で仕事するので、脈拍とか心拍数も安定していると思います。

記者 なかなかできることではないと思いますが、椿さん自身はどのように身に付けられたのですか?

椿 昔、大学の時に7年くらい鬱になって自律神経を壊してひどい状態になってしまい、自分で適応するために開発していきました。自律訓練法とか一切効かなかったから、自分でトレーニングしてできるようになった。
すべて諦めて、どうでもいいやとなってから、そこから勝手にできるようになりました。自分が頑張らないのに仕事ができるようになって、サーフィンで力入れずに波に乗っているような感じですね。


いろんなものに対して「分かっていない状態に戻せるか」ということがすごく大事


記者 アーティストとして、日常から心がけていることは何ですか?

椿
 分かっていると思うから不自由になるんです。アートの見方は、本来分かっていない状態が一番ピュアな状態です。中途半端に知識が入ってくると全部見えなくなる。

いろんなものに対して「分かっていない状態に戻せるか」というのがすごく大事で、認識の問題です。

分かろうとすると見えないものが逃げていくんですよ。分かっていない状態にすると分かっているものが寄ってくるんです。そういう状態に保っておくのがアーティストの仕事。

世阿弥が「初心忘れじ」と言っているのは、始めた時のピュアな気持ちを忘れるなということではなくて、どの段階においても今の自分を放せ(ほかせ)って言った。それは70歳になっても権威や実績を0ベースに戻して、常に自分自身に対してクーデターを起こせっていうことですね。それは並みのことではないです。

記者 AIが活躍する時代に人間に必要なこと、アートの可能性についてどうお考えですか?

椿 未来のチームを考えたら、その中にAIがいてもいいと思う。AIとも対等な関係で一緒に楽しく仕事できると思います。未来に不安はないですね。

AL(人工生命)はシンプルな構造で、AI(人工知能)は複雑なものです。両方を行ったり来たりしながら、AIに自分のクセをインプットして、僕が作品をつくるという行為を代理させられないかなと。3Dプリンターで作って作品として発表して、果たしてそれでも作品と呼べるのか?ということです。
AIを活用して、基本は楽をして好きなことをしていきたいです。

みんな、頑張らないとできないと思い込んでいるんですね。「どうして頑張ってしまうのか?」そういうことを考えたほうがいいです。
みんな自らに掴まっている。僕らの中にバグが入っているということです。

記者 先程おしゃっていた、「固定概念を解除する」ということですね。

椿 そう、生命は強い種や賢い種ではなく、柔軟な種が生き残っています。朝言ったことを夕方変えくらいの柔軟性が必要だと思っています。

記者 椿さん、今日は大変貴重なお話をありがとうござました!


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椿さんに関する情報はこちら

●京都造形芸術大学HP 教員紹介

●「アーティストフェアKYOTO」紹介ページ


【編集後記】
インタビューを担当した菅、吉村です。
インタビュー中、椿さんはフラットな姿勢で率直に京都弁でお話をされ、真剣な内容の中でも始終笑いのたえない場でした。普段から、年齢性別問わず対等にチームプレーを楽しんでいらっしゃるとお話されていましたが、多くのアーティストから慕われているお人柄を感じることができました。
椿さんのお話を通して、アートの在り方に対しても、ご自身に対しても、常に枠にとらわれることない「固定概念を壊していく生き方」が、アートそのものを体現されていると感じ、とても感銘を受けました。
日本のアート界に事件を起こし続ける椿さんの活動に、今後も目が離せません!


この記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36


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