体外離脱と記憶の保管場所

さて体外離脱で部屋の散策をするのは慣れてきたがそろそろ外に出てみよう。そう思い玄関に向かうと何故か小太りのハゲかけたおじさんが立ち塞がり真剣な目で叫ぶ。「出るなっ。出たら、大変なことになるぞーっ。」他人が出たことにビビりつつ無視してドアを開けると、外も見慣れた近所の風景。ただ、人の気配が全くしない。いても怖いんだが、意のままにできる世界にしては平凡で刺激が足りない。そう考えながら散歩すると、足元に隣の駐車場に住み着いていた三匹の猫がすりよってきた。ぎこちない動きで、よく見るとぬいぐるみでできている。だんだん世界の画質が荒くなってゆき、いつのまにか通常のよくわからない夢の世界に落ちてしまって今回は終了。翌朝、やはり身体中倦怠感でいっぱいで、仕事も集中できず発注ミスをやらかした。しばらく控えようと思った。

しかし癖になってしまったのか当たり前のようにしょっちゅう体外離脱してしまう。少しまずいと思いはじめたある日、鏡の自分が話しかけてきた。不意打ちすぎて心臓が飛び跳ねそのまま目が覚めた。目が覚めてもしばらく心臓がバクバクで、滅茶苦茶気味が悪い。夢とはいえ自分の顔をした鏡の向こうの誰かは魔物にしか見えなかった。と、当初怯えていた自分の心を解きほぐすかのように鏡の自分(以後m)は熱心にコミュニケーションを取ってきたので何故かその後仲良くなる。相談事をしても的確にアドバイスをくれて実生活の役に立つこともあった。驚いたのが、失せ物探しのスキル。mはどんなに探しても見つからないものの場所を言い当てるのがうまかった。「いや、そこ探したってば何回も。」「いーから起きたら見てみな。」あった…。1年前に失くして諦めきれずずーっと探してたはずだったのに。

mはメモリーカードを保管するような役割をしていて、聞けば殆どの記憶の引き出しをあけてくれた。映像は3d映画館のような場所で見せてもらえた。半信半疑だが2歳の頃見た若い父の顔の映像には感動した。幼稚園の頃一生懸命捏ねた粘土のケーキ、子供の頃はケーキに見えてたんだろうが実際はグジャグジャのだんごで笑った。だが、お願いしても頑としてあけてくれない引き出しもあり、私も危険なんだろうと引き下がった。mは優しかった。私のようで私ではないけれど近い存在になっていった。

続く
#明晰夢 #不思議 #夢

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