明晰夢及び体外離脱の話

小学生の時から金縛り体質だった。学校の図書館においてあった「実録恐怖体験」のように息ができなくなったり重さを感じるということはなく、爆音の幻聴と出そうとしても出ない声、ぐるぐる回る何者かの気配が妙にリアルだったが、なんとなく心霊現象ではない気がしていた。怖いことは怖い。目を開ければ部屋に置いていたぬいぐるみや人形が手を伸ばしてくる幻視があってそのまま気を失ったこともあった。

中学に上がり、母親が過干渉ぎみになった。私のことを隅から隅まで知りたい母は部屋を荒らしつくし隠していた日記や小説を開いて机の上に出したり居間に置くように言ってきたりしたので、思春期の私はプレッシャーを感じていた。この頃から金縛り中の幻視に押入れの隙間やドアの影、天井の隅からこちらを伺う母が登場するようになった。

高校生になり、相変わらず週の半分は金縛るのであきあきしてきた。どうやらさとるの化け物みたいに心に思い描くものが出てきている。どうしても怖いので恐怖=母が出てきてしまうが、なんとか別のものを想像して母が出ないようにできないか。
耳年増の処女だった当時の私はスケベ心の塊だった。しかもBLにはまっていた。恐怖に打ち勝つのはエロ!そう思いジャンプを握りしめ布団に潜り、その夜見事にヒソカ×ゴンが出現した。明晰夢の幕開けである。
自在に夢を操れるようになるのにそう時間はかからなかった。ただ、京極堂が関口君を口説いている所を私の母がじとーっと眺めているなどするカオスな状況も多かった。母はどうしたって完全に消えてくれない。

この頃ネットで体外離脱の存在を知る。金縛りにあっている時にいつものように妄想から夢を展開するのではなく、目をあけ恐怖に負けず体から飛び出すことでまるで幽体離脱したかのような感覚になれるそうだ。何それ面白そう!

しかしそう簡単にはいかない。金縛り前に入眠時幻覚があり、ここで大音響や謎の気配と戦うのだがいつもエロに逃げていたため怖くてなかなか目が開けられないのだ。しかもこの頃には幻触のコントロールが磨かれまくっていて、全身エクスタシーの術が使えるようになっていたので知的好奇心がエロの誘惑に負けて結局戦わずに夜が明ける。結局目が開けられるまでに3年ほどかかった。

目をあけてから部屋を見渡すと、the自分の部屋というかんじの時もあればダリの絵みたいにぐずぐずになっている時もあり、作画が安定していなかった。実際に目をあけているのではなく、目を瞑ったまま意識がある状態でリアルな自分の部屋という夢を見ているのだと思う。体の外に出るのもなかなか難儀した。常識が邪魔するのか、体からゴムで幽体が縛り付けられている感じというか、5センチは出れてもすぐに戻される。頭上に光を想像し、それに身を移すイメージで抜ける方法なども試したが無理。最終的にはローリング法と呼ばれる、ゴロゴロゴロー!と回転しながら体の外に飛び出す方法でようやく成功した。

手を見る。これが夢だなんて信じられない、リアルすぎるいつもの自分の手。歩くとやはりまだゴムで体に引っ張られている感じはあるが踏ん張って前に進む。鏡台で自分の顔を確認すると、願望なのか5割り増しの美人になっていた。そりゃないだろと思うといつもの自分にもどってしまった。本体を振り返ると本体も正に自分。本体を意識した途端ゴムの力が強くなり、体に戻されてしまった。そのまま目が覚めると体が敷布団に張り付いたみたいに重く、異常に疲れていた。

続く
#明晰夢 #不思議 #夢

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