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小説「ヘブンズトリップ」_13話

 俺らよりも怪しいのはお前らだろう。
 そんなことは口に出すわけにはいかなかった。
 誠司と名乗った同じ年の青年は地元の高校生で、一緒にいた連中はバンドメンバーだと説明してくれた。全員年上で一番上は二十二歳の大学生だと教えてくれた。外見はひどいけどみんな優しくいい人たちだと言う。
 「大学生も高校生もそんなに変わんないよ」
 「どこで知り合ったの?」
 「ライブハウスで」
 俺はライブハウスなんて入ったこともない。
 「ここで何してたの?」
 「ちょっと休憩、これから東京のライブハウスにオーディション受けに行くんだ」
 「えっ、すごいな受かったらデビユーできるの?」
 「まあ、そんな簡単にはいかないだろうけど」
 誠司君は星が出はじめた西の空を仰いだ。
 「あれっ? 誠司くん学校は?」
 「自主休校ってとこかな」
 つまりサボったってことだ。
 「君たちも似たようなものだろう。どこに向かってるの?」
 「亜蘭山に」
 「探し物?」
 誠司君は体をねじって顔を向けて聞いてきた。
 「まあ、そんなところだね」
 さっきの誠司君のマネをするように言い返した。
袋に入れたままのペットボトルのお茶は夜風にさらされてキンキンに冷えていた。
  
 誠司君のバンドメンバーは車で休んでいるみたいだった。史彦も車から出てこないのでまだ眠っているのだろう。
 けっこう時間が経ってからバンの後ろに積まれた荷物は楽器やアンプだと誠司君が教えてくれたころだった。
 俺たちが通ってきた方向から車が来るのが見えた。
 不自然にもその車は赤ランプのみ点灯させて、サイレンは鳴らしていない。
俺より先にそのことを認識したのは誠司君のほうだった。
 「まずい。警察だ」
 「えっ、なんで? ばれたのかな」
 「店の店員が通報したのかも」
 どうしよう? すぐ最悪の事態を想像してしまい、取り乱した。でも誠司君は冷静に対処してくれた。
 「早く、ここを出たほうがいい。急いで車に戻って。捕まって身元がばれたらいろいろまずいんだろ」
 「うん。君たちはどうするつもり?」
 返事をしながら俺は車に駆けだしていた。
 「こうゆうのぼくたちは慣れてるから。ぼくたちが職務質問を受けるから平気だよ。急いで」
 車の助手席に乗りこんだら史彦はすでに起きていて、運転席のシートを倒したままで、ラジオに耳を傾けていた。
 「どうした?」
 肩で息をした俺の様子に違和感を感じてすぐに身を起こした。
 「警察だ。すぐそこまできてる。急いで車出せ」
 「マジかよ」
 史彦がすぐに状況を理解してくれて助かった。
 直接警官に見られてるわけではないのに、緊張から何度もつばを飲みこんだ。史彦もさっきまで眠っていたとは思えないほど真剣にハンドルを切って、車を進行方向にUターンさせた。
 車が国道に戻るときに店の前にバックから駐車されたバンの窓からVサインをする誠司君の姿をとらえた。
 「あ・り・が・と・う」
 俺はゆっくりと口を動かして伝えた。
 史彦は「誰?」という表情をしていた。
車のエンジン音が響き、史彦が右折するために車を右にねじらせたタイミングでパトカーがコンビニの駐車場に乗りこんできた。
 間一髪。バックミラーに映る赤いランプがどんどん小さくなっていく。 
 まだ安心はできないけど誠司君がおとりになって俺たちをかばってくれた。
 彼らがうまくあの状況を切りぬけてくれることを願ってる。焦った気持ちが解放されてしぼんでいくにつれて、申し訳ない気持がつのっていく。 
 誠司君。いい人だったな。
 自分の目標や夢がちゃんとある人は優しくできる。そんな印象を受けた。
 
 「何か、話してたのか?」
 「えっ?」
 「バンに乗ってた連中に何かされたか?」
 「いや、何もされてないよ」
 「バンドなんだって」
 「えっ?」
 俺はだいたいのことしか史彦に伝えなかった。

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