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昭和12年8月の半島人

 昭和12年8月4日の新聞より

 他にも、通州関連記事がいくつかあるが、ここで取り上げたいのはその下の記事 である。『悪どいドンファンぶり 半島出のダンス教師』という怪しげな?見出しが 躍っているのが見えるだろうか。警官殉職を伝える悲壮な記事の次だけに、よけ いに悪目立ちしている。 《半島出身の不良ダンス教師として警視庁内鮮課は数日前から蒲田区××金 星舞踊教授所・金田愛次郎こと金應哲(20)を蒲田署に留置取り調べている》と ある。事件のあらましを説明すると、この金應哲(朝鮮読みはキム・ウンチョル)は 東京蒲田にダンス教室の看板を掲げ、女子医大生をはじめ、カフェの女給、ダ ンサーなどを次々とたぶらかし、金品を巻き上げていたということらしい。要する に「色事師」「すけこまし」「女性の敵」というやつである。内鮮課は当時、特高警 察にあり、独立運動の過激分子、いわゆる不逞鮮人を監視取り調べするセクショ ンであった。その内鮮課の網になぜ「すけこまし」が引っかかったのかは不明で ある。あるいは、これは単なる別件逮捕なのか。 ちなみにこの金應哲は「平安北道」生まれ。同じ朝鮮北部の出身、同じ金姓で ありながら、通州事件の殉職巡査とはえらい違いである。興味深いのは、彼が「金田愛 次郎」と名乗っていたということ。創氏改名令(昭和 15 年)以前に、このように勝 手に日本名を名乗っていた半島人も少なからずいたということである。 さらに、その横にある記事にも注目したい。 『“徴兵令施行せよ”在京の半島人蹶起す』。 記事を要約すると、李元錫(朝鮮読みはイ・ウォンスク)を代表とする朝鮮の内地 留学生真宗信徒が東京築地本願寺で集会を開き、《国家非常時に際しわれら 半島出身者も坐して黙視するに能はず。即時朝鮮に徴兵制を施行されたし》と いう決議をなして嘆願書を衆・貴族両院に提出したというのである。 盧溝橋事件以来、朝鮮人若者の間に日々募る暴支膺懲の激しい熱情は、日 本人のそれを上回るものがあった。支那大陸の歴代王朝の隷属に甘んじていた 歴史的恨みも無縁でなかろう。通州での被害者の約半数は朝鮮人である。彼ら の怒りは頂点に達していた。 翌、昭和 13 年、朝鮮に志願兵制度が導入されると、応募者が殺到、年を追う ごとにその数は増え、最高 50 倍の狭き門となったという。 この時代、内地人だけではなく、半島人もまた熱かったのである。


「悪どいドンファンぶり」という見出しが利いている。色眼鏡に鼻をふくらましたキムくんのムフフな顔。すべてよし。

初出・通州事件アーカイブズ設立基金


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