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目からビーム!38 タイムマシンにお願い

 たとえば、正義感と人類愛に燃えるあなたが、タイムマシンに乗って、政治家になる以前の、一画学生であるアドルフ・ヒトラーを殺したとしよう。となれば、ナチスの台頭もなく、ポーランド侵攻もホロコーストも歴史上の記憶から消え、第二次大戦も起こってなかったかもしれない。一人の命と引き換えに何千万人の無辜の民が救われるのである。
だが、そんなあなたを誰が「人類を救った英雄」と称えるだろうか。いや、あなたに与えられる評価は、ただの殺人犯である。そして法の秩序は、あなたの両の手首に冷たい鉄の輪をはめることだろう。
 歴史は、結果から語るしかないのである。そして、歴史には後出しジャンケンはありえない。ナチスを生んだのは時代の空気であり、それを育んだのは大衆の期待感だった。ドイツ大衆の選択は、今から振り返れば間違いであるが、当時は「正しかった」のである。
 来る参議院選を前に、大衆扇動の名人がめきめきと存在感を示し始めている。長引く不況の中、与党への失望、既成野党への不信のすき間をぬうように大衆の耳に届く、この男の演説は熱く高揚感に満ちている。しかし、その政策はどれも非現実的で空疎だ。
最低賃金の大幅引き上げ、公務員の増員、どちらも文在寅政権が先んじてぶち上げ、結果、韓国は今、亡国の淵にあるではないか。さらに、中小企業の賃金不足ぶんは政府が負担するのだとこの男がいう。デフレ脱却まで、一人あたり3万円を支給するというのだが、これこそ財政バラマキ以外の何ものでもない。この男も、彼の甘言に踊る信者も、いまだ社会主義ユートピア幻想の阿片に酔いしれているのだろうか。
「私を総理大臣にしてください!」男の絶叫に呼応する聴衆の歓喜の声が、いつ「ジーク・ハイル」に変わるのか、そらおそろしいものだ。
「未来のヒトラー」を今、裁くことは我々には許されていない。だが、歴史の教訓として、「未来のヒトラー」を育てない、選ばないという選択は許されているはずだ。
「竹島は(韓国に)あげたらいい」と言い放った男の口から、いつ「尖閣は(中国に)あげたらいい」という言葉が飛び出さないかもしれないのだから。

初出・八重山日報

(追記)
ヒトラーは美術学校の受験の受験に失敗しており、正規の画学生だったことはありませんでした。訂正しておきます。

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