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第117回歯科医師国家試験の総括

令和6年3月発表

令和6年1月に試験があり、3月15日に発表された第117回歯科医師国家試験。過去10年間65%以下が多かった合格率は66.1%とかなり高い水準になりましたが、これは来年以降も続いていくものなのでしょうか。
今回は117回がどういう回だったのかを私なりに総括していきます。

私は予備校ではないので、詳細な1問1問の正答率や領域の振り分けなどのデータを持ち合わせていません。あくまで公に公表されてるデータを基に、自分が持っている情報を上乗せして書いております。自分の情報は、裏を取ったり色々と正確性を検証しておりますが、絶対に正確である、という保証はできません。また、主観的な解釈が入ってる所もあります。

オリジナル図表の無許可転載は厳禁です。このサイトへのリンクを設定するしないは関係ありませんのでご注意ください。このnoteも当初は無料で全文を公開する予定でしたが、前回のnoteの表を無許可でSNSに転載した人達が複数いましたので、無料で全文公開するのを断念しました。
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全体の結果

合格率の推移

合格率の推移を以下に図表で示します。

歯科医師国家試験合格率推移

全体の合格率は、116の63.5%と比較して2.6%上昇し66.1%となりました。66%以上となると、11年前の106以来となります。近い合格率となると直近では113の65.6%となります。

現役生の合格率は国公立、私立ともに116から大きく上昇しました。特に国公立は前回の80.9%から88.6%と7.7%も上昇しました。私立は前回より3.3%上昇しました。

一方、浪人の合格率は前回の42.2%から2.4%低下して再び40%を割りました。そのため、合格率が上昇したのは現役によるもので、浪人は厳しい戦いとなりました。

合格率推移(図)

現役国公立を基準として現役私立と全体の合格率の差分を取った数字を示します。こういった差分はあまりお勧めできるものではないのですが、ちょっとした参考程度に捉えてください。

合格率差分

114~116で接近した国公立現役と私立現役の差が9.8%と再び開きました。また、国公立現役と全体の合格率の差は22.5%と111、112と同レベルになっています。私立現役の合格率が上がっているにも関わらず、国公立現役との差が開いたということは、今回の国家試験の難易度、合格基準が国公立現役にかなり有利なものだっと言えるかと思います。

111から115まで続いた出題基準では思考力が問われるようになり、単なる暗記では解けない問題が増えました。最初は思考力の高い国公立の学生の合格率の上昇に寄与しました。
しかし、新しい出題基準での116、117では平易な問題が多くなりました。特に117では過去問の焼き直し的な問題が散見されました。焼き直し問題をあの過去問の類似問題だ、とわかった人とわからなかった人で明暗がわかれた可能性があります。
浪人生は116ではある程度合格率を上げたものの、117では逆に下がってしまいました。浪人生、私立の成績下位層は物事を体系的にみることができず、過去問を少しいじっただけで対応できなくなる人が多いです。117での過去問の焼き直し出題は、ある程度物事を体系的に見ることができる国公立現役、私立現役の成績中位以上には有利に働き、浪人生には不利だった可能性があります。
こういった出題が今後も続くのなら、浪人生は苦戦を強いられる可能性があります。成績がある程度よい学生は、あの問題と類似なら答えはあれだな、とすぐわかりますが、底辺層は類似問題かどうかすら判断出来ません。これは本当にそうなんです。

合格基準

116から新しい合格基準が採用され、3つあった領域がA、Bの2つになりました。以前は保存小児矯正の領域Bのボーダーが高く、口外補綴の領域Cは補綴の難易度が高く点数がとれないため口外でミスるとボーダーに届かないといった事があり得ましたが、新しい領域の区分では全て領域Bに統合されたため、苦手な分野が足を引っ張って落ちるといったリスクは少なくなりました。

116も117も115以前と比べると問題はかなり平易になったという評判です。領域Bは116では68.9%必要でしたが、117では67.0%でした。領域Aは116では65.6%必要でしたが、117では63.8%でした。両領域でボーダーが低下しており、これが合格率の向上に繋がったと考えられます。

117合格基準
116合格基準

採点除外、削除問題数

採点除外、削除問題については、以下に117と116について示します。

117削除問題
116削除問題

問題数をまとめると
112 17問 (必修9問)
113 12問 (必修4問)
114 20問 (必修14問)
115 19問 (必修9問)
116 15問 (必修6問)
117 12問(必修3問)

116までは、一般臨実の不適当な問題は全削除、必修は、「問題として適切ではあるが、必修問題として適切ではない」ため、正答者はそのまま採点、不正解者は除外という扱いが多かったのですが、117A-86では全て選べで答えが2パターン、A-39では3つ選べの問題で答えが4つあったため、4パターンを正解としており、過去と少し異なる対応がされている問題があります。

必修問題は正答率が8割必要で、削除問題で分母が減るため、114のような14問も不適切な問題があると大問題になります。その点今回は3問ということであまり揉める事がなく良かったと思います。今後も必修についてはできるだけ削除がない出題を心掛けていただきたいと思います。

118でも117と同様の平易な難易度が設定された場合、採点除外、削除は少ないと予想されます。問題を難しくしようとすると設定に無理が出て削除になりやすくなる傾向があります。

男女差

合格率の性差は毎年発表されています。合格率をみれば一目瞭然ですが、女性の方が大体10%ほど合格率が良い結果が維持されています。現役と浪人の比率が公開されていませんが、おそらく浪人、特に多浪は圧倒的に男性の方が多いであろう事も、男性の合格率が低い結果に影響しているでしょう。

女性の受験者数は年々増加していましたが、117では男性がほぼ横ばいなのに対して女性は減少しました。原因がよくわからないので、来年以降も動向を観察する必要がありそうです。
合格者の男女比は55:45がここ4年ほど維持されており、女性の入学者の増加を踏まえると、50:50に徐々に近づいていくと考えられます。

男女別合格者推移の推移

浪人

浪人の全体の合格率はトータルで40%程度しかありません。そしてどの浪人にも40%のチャンスがあるわけではありません。多浪になればなるほど合格率が下がるのはデータを見れば一目瞭然です。40%を越えているのは1浪の58.5%、2浪の41.3%だけで3浪は3人に1人、4、5浪では4人に1人しか合格していません。

117卒業年次別結果

浪人の合格率の推移をみてみると、やはり最も受験者数が多い受験回数2回(1浪)の合格率が116から大きく低下しているのがわかります。今回の平易で過去問の焼き直しが多かった国試で点数を伸ばせなかった人は、今後もある程度同様な難易度が2年は続くとすると、来年再来年も厳しいかもしれません。

117ではいつもは10%ぐらいしか合格率がない受験回数6回(5浪)まで若干チャンスがあったことが分かります。ただし、これが来年も続くかはわかりません。毎年の傾向から考えるとなんとかいけそうな合格率は受験回数5回(4浪)まででしょう。受験回数3回(2浪)までは現実的な合格率、4回、5回は辛うじて生きる望みがある程度、受験回数6回からはクモの糸と言っていいでしょう。
後述しますが、多浪生のドロップアウト人数を算出すると、案外ドロップアウトしていません。諦めなければいつか願いがかなうとでも思っているのでしょうか?唯一の希望であるクモの糸すら切れているかもしれないんですよ。

追記:9浪以上は全国で4名しか受かっていませんが、そのうち3名は13浪、10浪、10浪という情報があります。

浪人の合格率推移

受験者数、合格者数

受験者数、合格者数の推移を以下に示します。

受験者数、合格者数推移

合格者数は2060人であり、2000人枠(仮説)が今年も維持されました。合格者数2000人枠(仮説)は107回からでこれで11年連続となります。当然ですが、厚労省は合格者数を2000人にするとは公表していません。そのため来年こそは減る、減らないという憶測が飛び交います。

出願者数は3568人であり、これは表に示した110からでは最も少ない人数です。その割に合格者数は2060人と115よりも100人ほど増えています。出願者を分母とした合格率は10年間53.2~55.6%と2.5%ぐらいの極めて狭い範囲で推移していましたが、117では57.7%と今までの傾向を大きく逸脱しています。これからも今年は救済年であった可能性が考えられます。

出願者数ベース合格率

出願者数はマッチング結果で大体予想ができます。参加者数から少し減らした数が出願者数になります。ただ、どれだけ減るかは年によって違いますので正確な予想は難しいです。今年は参加者数と出願者数はほぼ同じでした。

令和4年度と5年度では140名も参加者数が減りました。来年も3500人程度が維持されるようなら合格者数2000人枠は維持ではないかと予想します。

マッチング結果

国公立現役の受験者数の推移をみてみると、国公立は大体620~640人の受験者数で安定しています。今年も616名とほぼ予想通りの受験者数でした。留年休学者率が低い事、多くの大学で6年生のほぼ全員が卒業であることが原因であると考えられます。

受験者数

私立現役は国公立現役と違って毎年変動が大きいので予想が難しいです。117では出願者数は116とほぼ同等だったのに受験者数は56人増加しました。

国家試験の合格率を表向き良くするため、私立大学は卒業者数を制限しています。出願後に留年などで人数を絞るのが最もメジャーです。出願者数と受験者数の差について以下に示します。

110を除くと、出願者数の70%~77%ぐらいが国家試験を受験しています。116は73.52%と比較的厳しい卒業判定だったため、117では溜まった留年生を放出しないといけなくなった大学が多くなったと考えられます。甘く卒業させた+救済年の相乗効果が今年の合格者数なのかもしれません。

浪人の受験者数ですが、116で不合格だった数を117の予想受験者として設定し、実際の受験者数と比較したのが以下の表となります。

浪人受験者数

受験可能回数2回(1浪)の受験者数が予想よりも遙かに増えているのは、後述しますが、卒業させるが国試を受験させないという裏から卒業させるシステムを採用している大学が複数あるためです。そのため、この階層では未受験者数がわかりません。
2浪からは未受験者数を算出していますが、あまりドロップアウトしていないのがわかります。受験可能回数6回(5浪)以上は合格率がかなり低くなる事を提示しましたが、あまりドロップアウトしていません。700人ぐらいの中で50人ぐらいドロップアウトしています。これは毎年大体同じぐらいの傾向です。

115を受験して不合格になった9浪以上が全国で98人いるはずでしたが、実際に受験したのは87人と11人未受験となっています。さすがに9浪以上となると諦める人も少し多くなるようです。

117を不合格になったのは1057人で、去年より100名ほど減少しました。国試未受験卒業組がプラスされて、ドロップアウト組がマイナスされることで、大体毎年この人数よりも少し多い数が次の国試を受験します。そのため、117の浪人は1070人ぐらいの受験者数になりそうです。

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