「AIでの高画質化」について思うこと

スペラです。

普段から読んでくださっている方からすると、タイトルを見て「えっ、急にどうしたの!?」ですよね。

今まで書いたことはありませんでしたが、特撮・映画好きから派生して画質や映像に関する興味やこだわりが異常なのです。将来仕事に活かすか・活かせるかはわかりませんが。

先日、Twitterに投稿された中国のファンがAIで高画質化したという「ウルトラマンA」の動画が話題になっていたのですが、個人的には色々と気になる点がありまして。

これに対する返信を投稿者の方からいただいたのですが、軽く解説しようと思ったら長文になってしまったので、「だったらnoteに投稿した方が早いじゃん!」と。

専門用語はできるだけ避けたつもりですが、かなり難しいと思うので興味がある方だけ読んでいただければ結構です。

専門家ではないので、間違っている箇所があったら申し訳ございません。一応円谷プロ作品基準で解説していますが、圧倒的に東映作品の方が詳しいので、そのあたりもご理解いただければと思います。


「A」の動画では綺麗な映像を評価する声が多い一方で、「見えてはいけないものが見えてしまわないか」という意見もありました。

確かに特に特撮作品だと「見えてはいけないものが見えてしまう」という問題もあるのですが、「A」に使用された16mmフィルムには現在のデジタル放送以上の画質で記録されています。なので、元のフィルムにはピアノ線などもすべて映り込んでいるはずです。

リマスターの際にピアノ線は残すべきか消すべきかはファンの間でも度々議論が起こります。

なお、主に映画で使われる35mmフィルムだと4K以上の画質で記録されています。


当時の放送やDVDの画質が悪いのは、フィルムをビデオに変換する作業(テレシネ)を高画質で行うことができなかったからです。

現在は基本的にテレシネではなく1コマずつスキャンを行っており、4K以上でのスキャンもできるようになっています。


高画質化には大きく分けて「フィルムを高解像度スキャン→補正」と「ビデオをデジタル処理」の2種類があります。円谷プロ作品では前者を「HD Remaster 2.0」、後者を「HD Remaster 2.0V」としています。

「ウルトラマンティガ」「~ダイナ」「~ガイア」や「特捜戦隊デカレンジャー」などはフィルム撮影ですが、撮影素材をテレシネしてから編集していたので、Blu-ray化の際は後者の方法で高画質化されました。「電光超人グリッドマン」や初期の平成仮面ライダーシリーズも元からビデオ撮影なので後者ですね。

これらの作品は主に映像の輪郭を強調するという方法で高画質化されていると思うのですが、カットによっては俳優の肌の凹凸などが目立ってしまったり、主に引きのカットでは輪郭がきつすぎてかなり不自然になってしまっています。


その点ではDVDなどの低解像度の映像をAIで高画質化すれば、AIがうまくピアノ線などを見逃して処理してくれることもあるかもしれません。

ただ、あくまでAIが勝手に推測で処理しているだけなので、正確であるという根拠も不正確であるという根拠もありません

サンシャイン池崎の画像をぼかしてReminiで高解像度した結果 : くまニュース

こちらの記事ではネタとして扱われていますが、作品に出演している俳優の顔が変わってしまったら、それはどうなのかな…と。

さらに言ってしまうと、この技術が犯罪捜査などに使われた場合、かえって捜査が難航してしまうのではないかと思っています。

刑事ドラマなどで「防犯カメラの映像から容疑者の顔を高画質化する」というシーンが時々ありますが、実際の捜査では行われておらず、あそこまで綺麗に高画質化するのは技術が進歩しても難しいとされています。

AI技術で実際にそれを行った場合、AIが誤った処理をしてしまうことは十分に考えられます。

1968年に発生した三億円事件の犯人が見つからないまま時効を迎えてしまった大きな原因は、目撃者の曖昧な記憶から作られたモンタージュ写真が公開され、世間が「これが犯人だ」と信じ込んでしまったことだとされています。

AIが誤った処理をした画像を世間が信じ込んでしまったら、同様のことが起こりかねないのではないでしょうか。


ウルトラシリーズは「パワード」あたりまではフィルム撮影・フィルム編集だったと思うので、元のフィルムが残っているはずです(「G」のBlu-rayは諸事情でデジタル処理でした)。

なのでフィルムに記録されている情報をそのまま引き出すことができれば、それが最も自然で正確な映像だと思います。

ただ、フィルムは経年によって退色・劣化してしまうので、多少デジタルでの補正は必要になります。


要するに、「元のフィルムがあるなら、AI処理よりもフィルムスキャン」ということです。

スーパー戦隊シリーズにはフィルム撮影・フィルム編集の作品で現時点でHD化されていない作品が多数ありますが、HD化の際にはAI処理ではなくフィルムをスキャンしていただきたいです(ここで言っても仕方ないのですが)。

ビデオ撮影だったり、元のフィルムが残っていない場合はこの技術が役に立つかもしれませんが、「高画質」と「自然さ・正確さ」を両立するのは今のところ(おそらく今後も)困難だと思います。

AIでの高画質化の技術そのものは否定しませんが、必ずしも正確ではないことは知っておくべきかな、という話でした。

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