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店舗開発のお仕事8:内装工事監修② (コンストラクションマネジメント)

前回の『店舗開発のお仕事7』で、大型物件のコンストラクションマネジメントについて説明しました。
 今回は2多店舗展開時におけるコンストラクションマネジメントです。


1:多店舗展開時におけるコンストラクションマネジメント

 多店舗展開を加速して行く段階で、店舗毎の工事費の変動幅(バラツキ)をコントロールするためのコンストラクションマネジメントです。
内装工事費のバラツキは、出店地域、出店場所(1F/空中階)など様々な要因で発生します。
同業態を同時期に、ほぼ同じ坪数で複数店舗東京に出店しても、設備を入れた内装工事の坪単価が坪あたり5万円~10万円違う、といった事態が起こります。店舗によって内装投資額が大きく差がでてしまう事態を避けるために、必要なコンストラクションマネジメントがあります。

1-1:多店舗展開時のコンストラクションマネジメントの目的

① 店舗毎の工事費の変動幅(バラツキ)をコントロールし、投資回収金額・
 期間を揃える。

なぜ、金額に開きが出るのか、理由を以下に記載します。

1-2:「多店舗化=店舗の標準化」の考え方

多店舗展開時に店舗毎の内装工事費の変動幅(バラツキ)を抑える
店舗を展開して行く際、業態毎に、家賃・売上・内装工事費は坪あたり〇円という指標を作ります。その上で、想定売上に対する事業計画書を策定し、固定比率や減価償却費用を算出し事業計画書を策定します。

仮に20坪の立ち飲み居酒屋を展開する、とした場合、平面プランに対し
内装・設備に対し項目を設定し標準化を進めます。
① 地型によるゾーニングパターンを決める
② 客席と厨房比率(厨房は:全体坪数×〇% 等)を決める
③ カウンター・テーブル席比率を決める
④ 坪数に対する客席比率を決める
⑤ 客席や厨房の床・壁・天井の仕上げを決める(意匠のマニュアル化)
⑥ メニュー決定に伴う厨房機器のパターン化
⑦ 厨房機器パターン毎の金額
⑧ 電気・給排水・空調・給排気・ガス等の設備容量設定
⑨ 看板 
          *以上は事例です、項目は業態に依って変わります
このように店舗構築に必要な項目を標準化することで、
坪あたり〇〇万円の内装工事の大枠を設定します。

本来は、内装・厨房機器・設備工事全部ひっくるめて、
坪数×〇〇万円=内装工事投資額
と決めたいところですが、決定した物件の状況によって、金額の変動幅がでてしまう、という実情があります。
内装工事に変動幅ができる理由は、ⅰ物件状況の違いⅱ工事業者の金額(首都圏・地方の内装工事単価含む)の違いです。
             ⅰとⅱについては後ほど詳細を記載します。

そのため以下の手順で、内装・厨房機器・設備工事の基本金額を決めます。その上で、物件毎の変動金額を出し、総コストを算出します。
基本金額の設定
1)基本金額=(内装・厨房機器・設備工事費)の坪単価
 
・多展開前の出店の見積りを精査し、内装・設備・厨房機器等の坪単価の
  算出する。
 ・内装業者毎のそれぞれの算出した坪単価を比較し、特徴を把握する。
 ・メーカー上代のある商品は取引業者の仕切り価格をチェックしておく。
 
2)変動費の算出
 
・物件の調査段階で、標準外の内装・設備工事等が通常外の工事が発生し
  ないか確認する。発生する場合は、金額を算出総投資コストを確認。
  ➡総投資コストが、開業後自社にスキームに乗るか事前に確認する。
 
3)総投資コストの算出
総コスト算出=基本金額(内装・厨房機器・設備工事)+変動金額

物件の地形や引渡し条件(エアコン・設備残置)によっては、基本金額が下がることもあります。そのため、出店コストを管理する店舗開発は
事業計画上出店可能な、出店総コスト範囲(変動幅)と基本金額・物件毎の変動金額の変動幅を把握しておくことが重要です。

1-3:物件状況の違いで内装工事費用に金額の幅が生まれる理由

ⅰ:物件状況の違い
1)物件の周囲をマンションが取り囲み、臭気対策のため排気用ファンを10
  階の屋上に設置、屋上までダクトを上げるために足場を組む
2)床の不陸や、逆梁のため床上げ工事が必要
3)天井が4mほどあり、室内の空気調和のために高所用エアコンの設置
  注)空気調和
4)物件がマンションの1F部分のため工事時間が9時~17時と制限される
  土日の工事ができないため、工事期間が掛かる
5)オフィスビルの商業フロアため、音の出る工事は夜間22時以降~の指定
  されるため、夜間割り増し工事費用が掛かる
上記は一例ですが、物件(建物)の状況によって、ビルの管理会社からの指示や近隣トラブルを避けるための工事、設備の機能性向上のための工事など、通常外の工事をせざるを得ない場合があります。

 店舗物件の全体数に対して飲食物件数は少ないため、多店舗展開を行う場合、商圏(立地)・家賃・店舗坪数が条件を満たしていれば、上記挙げたような工事条件が合っても、余程工事費が増額しない場合以外は出店していくことが多い状況です。
 一方で、毎年の出店数が伸び既存店舗が50店舗、100店舗、150店舗増えて行く段階では、予実管理の中で既存店舗を分析して行きます。
その場合、目的変数に売上や利益をおいた場合、店舗内装や立地を説明変数とし重回帰分析を行い、影響度を確認します。その結果、社内的に商圏(立地)がCランク物件では、設備投資負担が大きい物件は出店を見送る、や A業態は出店可能でも、B業態は出店を見送るといった判断になる場合があります。

参考、以下の note で予実管理について記載しています。

1-4:内装工事費用に金額の幅が生まれる理由

ⅱ:工事業者の金額
 工事業者の金額とは、工事業者の規模や特殊性、地域性によって同じ図面で見積りしても許容範囲を超えて金額が違う、ことです。

1)工事業者の規模による金額の違い
『店舗開発のお仕事6:設計・内装工事①』に記載した通り、内装会社には大きく2種類の免許があります。

免許の保有割合は、一般建設業免許の工事業者が多く、特定建設業免許の内装会社の割合が少ない業界です。
また工事免許を持っている会社でも一人親方の会社もあり、社員2,3人~1000人以上のプライム市場上場内装会社まで様々な規模の会社があります。
 上場内装会社は安定感がありデベロッパーとも組み大きな仕事もしますが、業務分担制が進み工数が掛かるため内装工事費用は高めなことが多く、発注者の与信調査も厳しいため、小規模店舗事業者が工事発注するにはハードルが高い状況です。
 一方で多店舗展開を加速させていく段階では、一人親方や小規模内装会社では対応できない状況もあり、一定規模の内装会社に発注することをお勧めします。

2)特殊性のある内装会社
 友人、知人に紹介して貰ったら、芸術性の高い内装工事会社で高額だった。稀にこのような例があります。
 社員規模はさほど大きく無いことが多く、芸術性のある意匠造形物や高級な家具を得意とする内装会社(首都圏に多い)です。ハイブランド店舗やホテルのレストラン・バー、大使館などを対象に工事を行っています。
 専門的な話では、バーカウンターのピアノ塗装の塗りが素晴らしいや、バーズアイメープルの珠杢(木目の模様)が素晴らしく、高級家具(特注品)の出来栄えが良い、等といった評価を得ています。
仕事の技術水準は一級ですが、一般的な店舗の展開を支える内装会社としては金額面が難しいでしょう。
内装会社を紹介して頂いた場合は、これまでの仕事の内容や工事の参考金額を確認をお勧めします。

3)地域性による違い
 最低賃金が一番高いのは東京ですが、内装費は首都圏(大都市圏)の方が安くなる傾向があります。理由は首都圏(大都市圏)の方が競合(競争)が多いためです。都内から多店舗展開を進めて行く場合には、首都圏からドミナント展開を始め、地方の政令都市圏に展開する方法が一般的です。
 例えば、広島市(人口119万人)岡山市(人口70万人)で、両市とも政令市政都市ですが、ゆめタウンなどのSCを展開する(株)イズミが拠点を構える広島市と天満屋を中心に街が展開する岡山市では内装業の流通も違うことが考えられ、不測の事態をさけるためには事前調査と準備をお勧めします。
*上記は路面店舗を想定しており、デベロッパー物件への出店は考慮外です

以上が、内装工事費が想定外に変動する2つの理由(ⅰ物件状況の違いとⅱ工事業者の金額)です。
店舗開発担当としては、自社店舗の展開を担う中で、A店舗に比べてB店舗は2倍の内装工事費が掛かった、という結果は避けるべき事態です。
そのため、出店時の自社の状況に合う内装会社を工事単価を把握しながら、使い分けて行くことが必要です。

いきなり年間50店舗以上の出店はしないと思いますので、以下の段階を踏むと良いと思います。

1-5:店舗展開の段階的考え方

① 店舗開業時から数店舗
 信頼できる内装会社さんに指名で仕事をお願いする。内装会社に縁が無い場合は、同業者仲間・友人・知人の紹介など口コミの紹介が安心です。
この時、自社店舗に必要な設備や効率良く動ける店舗配置(ゾーニング)を内装会社と一緒に考えるなど、多店舗展開までの間に知見をストックしておくことが必要です。

②ドミナント式に出店エリアを拡大する時期:ローカルチェーン段階
 チェーンストアの定義は、11店舗以上の直営店で経営を行い、出店依頼が来たら全国を出店先として検討できる。の2つ要項があります。
チェーンストアとして一程度の土台ができたら、東京の城西地区・城南地区で行っていた店舗展開を城北地区や多摩地区のドミナントに広げていく、な
どの段階で、内装工事業者を増やしていくと良いです。
 内装工事業者を増やしていく段階で、工事適正金額の確認のために適切な入札を行っていきます。
 この時、どの物件も『入札』を行うと内装業者と単発の付き合いばかりになり、緊急の際に助けてくれる業者さんが育たない状況を生むことがありますので、注意が必要です。
 適宜、工事入札を行いながら内装業者を育てて行くことも店舗開発の業務としては重要です。

③ナショナルチェーンへ成長する段階
 この段階では、自社の状況によって内装会社を使い分けることが必要です。拠点が東京のみである場合は、全国に支社を持つ内装会社を工事業者に加え店舗出店の生産性を上げて行く方が良い場合もあります。また、東京・大阪・九州などの拠点がある場合は地域にドミナント的に展開する内装会社を工事業者に加えて、効率よく店舗を構築していく方法がベストでしょう。

 私は会社員時代、一人で最大年間で67店舗の新店を開業させました。1ヵ月に13店舗開業した月があります。
店舗開業には大きく以下の3つの段階に分かれており、それぞれのタームで業務が発生します。自社の店舗開発の人数や分業の状況に合わせて、内装会社への工事依頼をどのようにコントロールして行くか、考えて行くことをお勧めします。

1:商圏・物件調査段階では、2年後開業物件の出店打診案件もあります。
一貫型店舗開発として、最大で65件くらいの物件を同時期に抱えていました。  


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