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テレビはいつまで DRM の夢を見るのか

「「次世代CAS技術」は、コンテンツの権利保護とアクセス制御を実現するために研究開発が進められているもので、「高度な秘匿性」と、安全性の維持・改善が可能になるように「ソフトウェア更新」が可能なものを目指しているとのこと。
「高度な秘匿性」を実現するため、MMT(メディアトランスポート方式)に対応したスクランブル方式を取っており、暗号方式の切り替え機能やメッセージ認証による改ざん検知機能を備え、映像や音声単位でアクセス制御が可能になります。暗号方式の切り替え機能があるので、B-CASのように暗号化が破られても暗号アルゴリズムを変更可能となっているわけです。」
(「暗号化を突破されたB-CASに代わる次世代CAS技術をNHKが公開中 - GIGAZINE」より)

現場の科学者や技術者の方々が気の毒すぎる。こんな不毛なことに付き合わされるとか。知恵の無駄遣いだよ。

実は暗号アルゴリズム自体の強度は全く問題ではない。 DRM の問題の本質については八田真行さんの以下の記事で説明しつくされている。

「理由は簡単で、いかに暗号化したところで、最終的には必ず消費者の手に復号化されたコンテンツが渡るからだ(さもなくば映画は見られないし、音楽も聴けない)。そして、どこかの時点で復号化されたコンテンツが消費者の手元に存在する以上、それをそのまま保存するようクライアント(プレーヤ)をいじってやればDRMは意味を為さなくなる。そうやって保存されたものはもちろん復号化済みなので、改めて暗号化しない限り第三者への流通も可能だからだ。 [...] 公開鍵暗号系を含め、暗号通信の肝というのは結局復号に要する鍵が正当な受け手以外の攻撃者に渡らないということなのだが、DRMの場合は言ってみれば正当な受け手がすなわち攻撃者なのであって、そもそもこの時点でロジックが破綻している」
(「「オープンソースDRM」の不可能性について | SourceForge.JP Magazine」より)

この記事はオープンソース製品について述べているが,基本的には「技術的保護手段」によって守られているコンテンツは皆同じなのだ。

思い出して欲しい。 DVD の暗号方式 CSS (Content Scramble System)がどうやって破られたのかを。 CSS は暗号アルゴリズムが破られたのではなく,単に復号鍵が知られてしまっただけなのだ。鍵を探すのはアルゴリズムを破るよりずっと簡単。そして復号鍵は実はユーザ側(のプレイヤー)が持っている。

愚かなことに日本はこの「できそこない」を著作権法で守ろうとしている。技術的に解除可能なものを法律で守ろうとか,頭が悪いにも程がある。

米国の DMCA (Digital Millennium Copyright Act)は,できた当時は非常に評判が悪く,大きな反対運動が起こったものだが,実はこの法律,数年おきに見直しが行われていて,近年では「技術的保護手段」の解除やリバースエンジニアリングなどは(条件がつくが)違法ではなくなってきている。これが「世界の潮流」なのだ。

EFF、JailbreakやSIMロック解除の合法化を勝ち取る - P2Pとかその辺のお話

言っておくけどこれ,2010年の記事だからね。

テレビは日本は,いつまで DRM の夢を見続けるのだろう。そろそろ起きないと遅刻しますよ(いや,もうしてるけど)。

参考: 監視をコントロールする -- Baldanders.info