「電子書籍ブーム」の終わりは出版「社」の終わりの始まり

個人的にファンである大原ケイさんの記事:

アメリカの電子書籍、“ブーム”は終了 « マガジン航[kɔː]

この記事に関しては後日ちゃんとブログ記事で意見を書こうと思うが,ここでは上の記事の中で私が面白いと思った部分を抜き出してみる。興味のある方は是非リンク元を読んでみてください。

「要するに、あれだけ騒がれてきたEブックだが、アメリカでさえも三割いかないというわけだ。2年前、前年比での成長率が250%という数字が出ていた頃は、IT関連の予想屋が「数年のうちに本の八〜九割がEブックになる」などと言っていたが、IT系のニュースサイトやブログでそう豪語していたライターたちがいかに実際に本を読んでいないか、PV稼ぎに大げさなことをいっていたかわかろうというもの。出版社の中の人たち(たとえば私が仕事上出会う編集者ら)は、三割いかない、という数字にけっこう安堵している。」

「この5年ほど、日本の出版業界関連の人たちが次から次へとアメリカにやってきては、アメリカにおけるEブックがパイオニアとしていちばん進んでいるという考えの元に、その実態を掴もうとしているが、いまとなっては本を買う場合に、紙かEブックかという選択肢のあることがあたりまえに定着したということだろう。」

「アメリカで出版社がつくということは、搾取されないようにエージェントがしっかり印税や版権を管理してくれて、アドバンス(印税の前払い金)という形でまとまったお金をもらえて、出版社が編集、製本、流通、さらにはマーケティングを請負い、数年間(数作)のコミットをしてくれる、ということでもある。

これが日本だと出版社から本を出したところで、副次権などの管理はやっぱり自分でやらないといけないし、初版部数はどんどん少なくなっているし、1冊ごとに違う出版社を探さないといけないし、自分の本がどこでどれだけ売れているのかいないのか、さっぱり知らされないし……。だったら自分でEブックを出しちゃえ、と思うのも無理からぬ気がする。」

「そして日本では、いまここで出版社が自らの価値を著者に示せないなら、ますますコンテンツが集められず、ダメになっていくと思っていいだろう。とくに医学的に何の証明もされていないどころか間違っていて健康を害しそうな健康法の本(アメリカだとすぐに集団訴訟が起こる)、ウラとりもろくにしていなかったり剽窃を含むノンフィクション(これも訴訟になって版元が回収せざるをえなくなる)、著者やテーマが旬だからって誰かが聞き取って書き写しただけのような量産即席本(アメリカでは事前パブをしないと書店に並ばないので売れない)、誤字脱字の簡単な校正だけで急いで出したような即席本(前に同じ)……。そういったコンテンツを量産して自転車操業をしている出版社はそろそろ持たなくなるだろう。」

「その一方で、インディペンデントと呼ばれるアメリカの小さな書店は、これまでもEブック以外の敵(1970年代のモールチェーン店、80〜90年代の大型店、2000年前後のオンライン書店)と戦い抜いてきたので、残っているところは足腰が強いし、この3年ぐらいは全体数も差し引きで少しずつ増えているぐらいだ。しかも「アマゾンは敵」と明確に理解していて、同じ土俵で戦おうとはこれっぽっちも考えていない。とりあえず、Eブックを望む読者に対応して、全米書店協会指定のEブックデバイス(いまはコボ)を置いたりもしているが、積極的に売っていない。むしろアマゾンにできないことを常に実行してサバイバルの道を模索している。自動配本で送られてくる本を並べて「売れないなぁ」などと悠長なことを言っている本屋は一軒もない(そもそも自動配本制度がないので)。」

「アメリカはもともと、みんながみんな本を読むことに期待していないというべきか、読書人口では日本とそんなに変わらないと思われる。でもやっぱり本が好きな人は好きだし、何が面白いのか自分たちで見つけてくるし、ちゃんとそこにお金を使っている。著者は著者で、そういう読者と自らコミュニケーションをとることを厭わないし、本は「モノ」ではなくて、メッセージをやりとりする「ツール」だと割り切っている感じがする。だからこそ自分で納得した上で、紙の本を買うか、Eブックをダウンロードするかを選択しているといっていいだろう。」

この最後の部分は作家さんは大いに肝に銘じるべきだと思う。最近では結城浩さんや藤井太洋さんなどがネット上で良い活動をしておられるが,(大文字の)「読者」と向き合えない作家はこれから淘汰していくと思う。出版「社」はなくなっても出版「者」はなくならない。出版「社」がなくなっても出版「者」は生き残れるよう手を打つべきである。

同じくマガジン航の「「出版者」たちの時代がやってきた」も併せて読むと面白いかも。

(ええい! この編集画面,ホンマになんとかしてよ > note の中の人)