見出し画像

これから始まる海のシーズンに向けて。


DIYメンバーのGパーから譲り受けたディンギーを名古屋港ヨットトレーニングセンターに導入し、メンバーでディンギーによるセーリングを楽しめるようにすることにしました。

ディンギーを導入するにあたって、メンバー、そしてこれからディンギーでのセーリング始めたいと考えている皆さんに、安全に楽しむための僕たちの考え方をお伝えしておきます。

まずディンギーという船の特徴から説明します。
僕たちが普段セーリングしているカッターボートはもともと船が沈没してしまうときに避難するために設計された救命ボートです。
浮力が高く安定した船体が特徴のため、船員養成や海洋教育の様々な場面で使用されている信頼性の高い船です。
対してこれから導入するディンギーという船は、海上での独立した航海を想定して作られたものではなく、「スポーツ」のために作られた船です。

風を使って帆走するという点では全く同じ乗り物ですが、その設計の考え方が違うため性能、特性などが大きく異なります。

「カッターよりディンギーの方が一人で動かせるし、軽くて速そうだから自由に楽しみたい!」という気持ちは十分に理解していますし、実際ディンギーは素晴らしいマリンスポーツです。
これからお伝えしていくことは僕たちの海上における安全への考え方です。
脅かすつもりはないのですが、毎年海難事故が増える7・8月のオンシーズン前に、大切な事としてしっかりとお伝えしていきたいと思っています。


1)ディンギーは独立しての航行が想定されている乗り物ではありません。
セーリングは風さえあれば自由に海上を楽しむことができる技術です。
しかし、風がなくなった、または風が船に対して強すぎる場合、セーリング技術が未熟な場合は航行することができなくなり、元の場所に帰ってくることができなることがあります。
そのためディンギーを楽しむ基本として、ディンギーを楽しむ殆どのヨットクラブで以下の規定がスタンダードとして設けられています。
①航行海域の設定
②救助艇による常時監視
③出艇の管理、帰港の確認
④出艇の可否判断(個人ではなく運営として規定を元に判断を行う)

2)ディンギーは転覆する乗り物です。
スポーツとして楽しむためにディンギーのスピード性能は高められ、クルーザーヨットなど違い転覆することが想定された乗り物です。
これを例えると、クルーザーヨットが海の上のキャンピングカーならディンギーはスポーツ自転車といったところでしょうか。
自転車も乗れる様になるまでは転んだりするように、うまく操船できない初心者の頃はミスによりひっくり返ることが当たり前。
そのためディンギーでは「沈する」という言葉が使われ、転覆しているという意識は薄れます。
しかし、転覆は転覆で、海外ではディンギーの「沈」は「capsizing」(転覆)と表現されます。
船から人が海に落ちもし船から離れた場合、それは漂流です。
または船に巻き込まれ怪我を負う、ロープに絡まり命を落とす事故も起こっています。
一人では船を起こせなくなってしまった場合も危険なことには代わりません。


3)ディンギーでの海上のトラブルは命に直結します。
ディンギーはその軽さと小ささ、性能から手軽にセーリングを楽しめることが魅力です。
小ささ、軽さを求めると船は小さくなり、波への耐候性、浮力なども小さくなり、セーリングだけでも体力をかなり消耗します。
海上では船が大きいほど安全性が高まるのは、皆さんも簡単に想像できると思いますが、もし小さなトラブルで自力で航行できなくなった場合、すぐにそのトラブルは大きなトラブルにつながり、体力は激しく消耗します。
自力航行できない船は漂流状態です。
この時どのように助けを呼ぶのでしょうか。携帯電話で連絡して駆けつけてくれれば間に合うという考えは、トラブルが起きた半ばパニック状態の船上、または海中にいる事を考えれば難しいでしょう。実際にお守りとして持っていった携帯電話を海上でのトラブルの際、落としてしまうケースをよく見かけます。


以上の三点は名古屋港ではクリアになっており、海域を決め、救助艇は常に監視できる状態であることを条件にディンギーは出艇を許可されています。

メンバーに向けて、定期的に実技、座学、オンラインを通してディンギーについての講座を行う予定でいます。「体で覚えろ」というタイプではないので、しっかり座学を行います。

・セーリングの基本
・船の艤装
・安全について
・海上でのトラブルの対処法
・ロープワーク講座
・気象・海象についての基本


今まで僕たちはカッターのセーリングを行ってきました。カッターはオールで漕ぎ独立して航行できるように設計されています。
初めて乗っても簡単に転覆したりするような船ではありません。
その安全性から多くの人がセーリングや海の魅力に気づいてももらえるきっかけになれることを目指してきました。
カッターからディンギーに興味を持ち、始めたいと言われたり、実際に始めた人に対して、海に出る魅力が伝わって嬉しいという気持ちから、ディンギーの安全に関しては特に何も言ってきませんでしたし、これからも個人で楽しむ分には僕たちは何もいうことはありません。

しかし、仲間がディンギーを始めるにあたって、僕たちは無責任な態度をとりたくない、そして始めるならばしっかりとサポートをしたい。
それが僕たちインストラクターとしてのとるべき姿勢だと感じています。
今回特に、僕たちと一緒に海に出る皆さんには僕たちの考えをお伝えしておかなければならないと思いこの文章を書きました。
これからも一緒に安全に海を楽しんでいきましょう。




あなたのサポートのおかげで僕たちが修理している船のペンキ一缶、刷毛一つ、ロープ一巻きが買えます。ありがとう!!