見出し画像

新藤兼人監督の「銀心中」は案の定、重苦しかった

新藤兼人監督の「銀心中」を観た。タイトルからして重苦しそうだと思って観たが、案の定、重苦しかった。

戦時中、理髪店を営んでいた夫婦が、「夫が戦死した」という「誤報」をきっかけに、夫婦関係が崩壊し、甥っ子を含め、主な登場人物全員が不幸になる、というなんの救いもないストーリーだ。

この救いのないストーリーの首謀者が、音羽信子演じる女房だ。筋書きの上では、やむを得ない事情があったので、この女房は悪くないと考えてしまうそうになるが、この女房が一番悪いと思った。悪いというのは、愛欲に狂って、分別をなくし、夫婦関係、親族関係をブチ壊したから、という意味である。

愛欲に狂ったと書いたが、この女房はもともと、狂っていたのかもしれない。そこまで言えないとしても、少なくとも、出来の惡い女だと思う。

例えば、仮病を使って仕事をサボった上で、カラダを求めてきた雇い主に悪態をつくというシーンがある。これについて、夫や甥っ子が出征し、ひとりぼっちになり、家も失ったところで、敗戦を迎えたので、一時的に心が荒廃してしまったからだと、好意的に解釈することはできるが、ボクは、これがこの女房の本性だと見る。

と言うのも、この女房には、兄の女房、義姉がいるのだが、これとトコトン仲が悪い。兄がこの義姉と結婚する際、反対したらしく、当初から犬猿の仲が続いている。なぜ結婚に反対したか理由は明らかにされていないが、ボクは、猫っ可愛がりしてくれる兄を他人に取られたくなかったからだ、と推察している。つまり、この女房には近親相姦のケがあるということ、タブーに欲情するタイプだということをほのめかしている、と言いたいわけだ。

いささか牽強付会が過ぎるとは思うが、こうでもしないと、新藤が、この女房と兄夫婦との関係性を、わざわざこのシーンを入れた意図が見出せないので、しかたない。

そうだとすれば、夫が帰還した後、この女房の、甥っ子に対する恋慕の情が盛ることも、甥っ子が拒絶すればするほど、なおさら執着することも、とりあえず理解できる。平たく言えば、「ブレーキの効かない女」なのである。

いきなり話が変わるが、この映画で良かったのは、甥っ子役の長門裕之だ。こんなに自然な芝居をする役者だとは知らなかった。これはどうでも良いことだが、やはり桑田佳祐そっくりである。