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スーパーテラショック定跡が本当に強いのか検証してみた

今、将棋の最先端を行っている人力定跡がある。それがsuimon_fan氏が公開しているs-book_blackという定跡なのだがこれがめちゃくちゃ強い。
s-book_blackは先手必勝という仮設のもとに作成された先手番専用定跡で
なんと現在のNNUE最強クラスの水匠に8割勝つらしい
筆者もこのs-book_blackを入れた水匠と定跡なしのNNUE系ソフトで短時間対局をちょくちょくさせているがs-book側が7~8割勝つ。
s-bookは今プロで流行りの相掛かり▲96歩の変化を中心に横歩取り、雁木、振り飛車などの後手の有力な手段を全力で潰している(ように見える。)
これはどういうことか。何も考えず相掛かり▲96歩の対策を考えるためにソフトが示した最善手を追うとほとんどの場合s-bookにハメられて負け筋に陥るのだ。頑張って探せば先手がダメになる変化が見つかるのかもしれないが約40万局面登録されている局面の中から後手よし、もしくは千日手になる変化を見つけるのは人力だと骨折り損のくたびれ儲けになる可能性が高そうだ。

s-book対策のスーパーテラショック定跡

そんな中、筆者は気になる文書を見つけた。
https://drive.google.com/file/d/1L9-mgwM3S3xTx890uPIdsvhGzHxSdnxz/view
これは去年11月に行われた電竜戦(コンピュータ将棋の大会)のみざうら王チームのアピール文書である。筆者はソフト開発者ではないのでこの文書の6割くらいは怪文書に見えるのだが最後のページを見ると先手で8割勝つs-bookにスーパーテラショック定跡が勝ち越している。
棋譜がないので先手がダメになる変化なのか、それとも先手がわずかにいいがコンピュータ的に勝ちづらいのか真相はわからないがこれでs-bookがダメとなると人力での定跡生成は厳しいのかなと筆者は思う。

 スーパーテラショック定跡に登録されている定跡を考察

現在、スーパーテラショック定跡はコンピュータ将棋関係者にしか配布されていないようなので筆者は本当にスーパーテラショック定跡が強いのかピンと来ていない。ということで考察をしてみようと思う。
みざうら王のアピール文書によるとスーパーテラショック定跡は去年の電竜戦時点では29手まで定跡と書かれている。
ただその29手目の局面がどの局面を示しているのかわからない。
そこで電竜戦のやねうら王を見ながら考察する。

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画像はこの大会で2連覇を成し遂げたGCT電竜とやねうら王の一戦
本譜はここで▲76歩だったがスーパーテラショック定跡、s-book共に▲16歩を推奨している。
スーパーテラショック定跡はそこで△75歩。7筋の位を取って先手の角を使いにくくする自然な手だ。ここからスーパーテラショック定跡の読み筋通りに進めるとこの局面になることが想定される。

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この局面で後手は①△14歩②△73銀③△85飛が有力。
ここからfloodgateの棋譜を見ながらスーパーテラショック定跡が切れる29手目の局面の予想を立ててみる。

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上から①△14歩、②△73銀、③△85飛の後の局面。全て29手目だ。
筆者はこの3つの局面ののうち、どれかがスーパーテラショック定跡に搭載されている局面と予想する。
なお、本記事では29手目▲15歩を局面A、29手目▲87歩を局面B、29手目▲38銀を局面Cとする。

指定局面で自己対局

指定局面の予想ができたのでこの3つの局面から自己対局をしてみる。
今回検証に使うソフトはお馴染み、水匠BURNINGBRIDGESの2つのソフトを使用する。
なぜBURNINGBRIDGESを使うかだが、過去電竜戦で優勝経験があり、短時間の対局に強い(と思う)からだ。
検証のルールは8コア8スレッドで1手5秒、1局面を10戦、投了値1500という条件で水匠とBURNIGBRIDGESの両方を使い、検証する。
引き分けはfloodgateと同じ256手とする。
先手のs-book側は水匠/YO7.00で固定。
s-bookは2月21日に公開された最新版を使用する。

検証結果

上記のルールで対局させた結果こうなった。

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電竜戦が行われた去年11月よりs-bookの精度が上がっており、3局面全て先手(s-book側)が勝ち越したが水匠、BURNINGBRIDGES共に局面C(29手目▲38銀)の勝率が低かった。
特にBURNINGBRIDGESは健闘していたので対局数を増やして再検証してみたい。
以上のことから去年の11月時点では29手目▲38銀(下図)までがスーパーテラショック定跡だったのではないかと筆者は推測する。
外部棋譜を一切与えずに完全自力採掘でs-book_blackにいい勝負をしていることを考えるとやはりスーパーテラショック定跡は優秀そうだ。

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今年5月に行われる世界コンピュータ将棋選手権では間違いなくs-book_blackを搭載したソフトがあるだろう。
対するスーパーテラショック定跡側も定跡の精度が上がっていると思うのでどうなるか楽しみだ。
将棋の真理を巡る攻防、人力定跡の最高峰がスーパーテラショック定跡を打ち破れるのか注目したい。

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