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「モノづくり」の道具をバスで学校に持ってったら、子どもが夢中になった話

「移動」によって、学びの場はどう変わるのか。

8月4日、真夏の早朝。親子連れで賑わう広尾に、spodsの2台のバスが到着した。

今回の目的は、「新しい学びを共創する」をテーマに掲げるイベント「Learn X Creation(ラーン・バイ・クリエイション)」でのワークショップの場を創ること。

「移動型クリエイションスタジオ」のspodsは、「建築の民主化」掲げ、自分たちの手で家づくりする建築家集団「HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)」とコラボレーション。

モニュメント・フォトブース作りやクラフトワークショップなどを通じて、子どもたちに「創る楽しみ」を体験してもらう“新しい場”を企画した。当日の様子をレポートする。

木材フレームで巨大モニュメントづくり

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聖心女子大学にある聖心グローバルプラザ前の広場に駐車したバス1号車の横では、廃棄木材を使ってモニュメント・フォトブースをつくるワークショップを開催。

このワークショショップは、spodsと「kopro(コプロ)」が共同で企画した。koproは「HandiHouse project」創業メンバーのひとり荒木さんが、日本でいちばん自由な学校「きのくに子どもの村学園」の元教員・須藤さんと「建築×教育」に特化して立ち上げた実験的ユニットだ。

会場の入り口という気軽さもあり、通りかかった親子連れがモニュメントに目を留めて続々と近づいてくる。

「やってみる?」「うん」の一言で、すぐに作業はスタート。

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長さ40cmほどの細長い木材同士を直角に合わせてネジで締め、これを4本を組み合わせてフレームをつくる。手慣れた人なら5分もかからない作業だろう。だが、この日の参加者は、ネジ締めに使う工具「インパクトドライバー」自体を見るのも触るのも初めてという小学生がほとんど。

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「なんか意外と難しい!」「これ(インパクトドライバーが)全然動いてくれない~」と最初は悪戦苦闘する子どもたち。

しかし、インパクトドライバーをうまく使うコツをプロに教えてもらうと、2本目には早くもコツを掴んでいく。1本ごとに上達する手応えを感じ、「もっとやりたい」と志願する器用な子もいた。

スタッフは安全管理には目を配り、モノづくりのコツを一人ひとりに直接伝えるが、作業には最低限の手出ししかしない。子どもたちに「自分で創る」体験を積んでもらい、その楽しさを実感してもらうことが目的だからだ。
子どもたちが完成させたフレーム同士を繋げていく。

最初のうちは足元に一段しかなかったフレームの連なりは、どんどん増えて縦にも横にも広がり、巨大なモニュメントに姿を変えていく。

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子どもたちは「積み木材」でどう遊ぶ?

その向かい側のスペースには、八王子の山林から伐採した木材で「積み木材」を組み立てたジャングルジムにも秘密基地にも見えるオブジェがそびえていた。

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この積み木材は、子どもの発想と創造的な遊びによって、住まいをつくり変える楽しさを体感してもらおうと「kopro 60プロジェクト」が考案した建築学習材だという。

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積み木を組み立てるように細長い木材を組み替えれば、ベッドやソファ、ハシゴができる。自分のイメージに合わせて空間が作り変えられるユニークなプロジェクトだ。

子どもの身体スケールに合わせて設計されていて、小さい子も大きい子もそれぞれのサイズで楽しめるのが特徴だ。

「なんだかわからないけど楽しそうなものがあるぞ?」と直感で見て取った子どもたちがわらわらと集まってくる。

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カマキリも遊びに来た。

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内部に入り込む子、てっぺんまで、よじ登っていく子...…。大人はつい「これって何だろう? どんな用途で?」と目的や使い方を考えてしまうが、子どもは違う。男の子も女の子も、目の前に現れた不思議な木の塊に、思うがままに自由に向き合う姿が印象的だった。

木のキャンバスに自然塗料で絵を描こう

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そのすぐ隣りには、ドイツ生まれの自然塗料「HiLaRi」のペイントで絵を描くコーナーが用意されている。「HiLaRi」は粘土をベースに天然資源のみで作られた塗料で、安全性が高く通気性にも優れているため、室内塗料にも最適だそう。

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積み木材の小口に好きな色を塗る男の子、大きな木のキャンバスに自由に色を走らせる姉妹、生まれて初めて絵筆を握ったにも関わらず、没入して40分近く絵を描き続ける幼児の姿もあった。

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積み木材を組み上げて、自分の体より大きなものをつくる作業の一部をやってみる。好きな色を選び、どこに何の色を置くかを考えながら塗る。

正解の形はない。
自分の手を動かして何かを「つくる」こと。

その自由な学びから、子どもたちが学び取ることはきっと多いはずだ。

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「HandiHouse project」から生まれた「建築×教育」の実験的ユニット「kopro(コプロ)」のメンバーや当日のスタッフのみなさん。

移動型ケアサロン「CAREBUS」でフラワーワークショップ

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バスの傍らには、みんなでバスを改造したDIYの写真を飾った。

バス2号車では、spods代表の磯部洋子さんが中心となって企画したクラフトワークショップを開催。「CAREBUS★FLOWER」と名付けられたその企画は、フェルト生地を使って花のコサージュをつくるワークショップだ。

32歳で乳がんを経験した洋子さん。休職や抗がん剤治療を経て、多くのがん患者が直面する不便や不安を身を持って知った彼女は今、治療中の人々をサポートする医療ケアのプロジェクト「CAREBUS」(ケアバス)を進めている。このワークショップもその一環だ。

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参加者はバラ、ラナンキュラス、ダリアの手作りキットから好きなものを選び、その場でコサージュをつくることができる。あらかじめチャコペンでつけられた輪郭線になぞってフェルト生地を切り、ところどころ接着剤で貼り付けながら、花びらを形作っていく。手芸のスキルは一切不要だ。

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最初に参加したのは、コサージュのかわいらしさに惹かれた小学生の女の子とその母親のペア。スタッフに指導してもらいながら、2号車の車内でダリアのコサージュを完成させた。

ワークショップの合間に、洋子さんは参加者にCAREBUSの取り組みを説明する。

「もともとは、がん患者さんの気分転換やサポートのためのファッションアイテムとして作ったものですが、もちろん一般の方も使えます。一緒にコサージュを作りながら、このCAREBUSがどんな活動をして、どんなケア支援をしているのか、お話します。参加費の半分はコサージュの材料費で、残りを全国の病院などで医療ケアサロンを展開する活動費にしていくコンセプトです」

ワークショップで作った作品を寄贈してくれた人には、材料費をキャッシュバックする仕組みだ。

完成したコサージュは今後、ワークショップ会場や病院などで支援グッズとして販売し、治療で働けないがん患者をサポートする支援活動につなげていくという。

筆者も実際にラナンキュラスのコサージュを作ってみた。簡単そうに見えたが、花びらを巻きつける作業は意外と集中力がいる。巻きがゆるいと、すぐに形が崩れてしまうのだ。

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洋子さんは「スーパーに生産者の顔写真と名前つきで売られている野菜がありますよね。あんな風に、今後は『この人が作りました』と写真付きでクラフト作品を販売できればいいな、と思っています」と展望を語った。

「でも、やっぱり作っていくうちに愛着が湧くんでしょうね。ほとんどの参加者さんが自分で持ち帰ってしまうんですけど、それも支援につながりますから(笑)」

「創る」楽しみは体験しないとわからない

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一日じっくりと3つのワークショップに参加して、ひとつ感じたことがある。

それは「ものを創る」の楽しさは、言葉で説明しても伝わらないだろう、ということだ。

木の内部にネジがめり込んでいく感触、インパクトドライバーを制御するときの力加減。筆になじむ自然塗料のなめらかさ。フェルト生地を裁ちばさみで切るときのシャキシャキという小気味良い音…。

その楽しさが伝わるのは、すでにそれを体感で知る人たちにだけだ。

「創る」側にまわって、ああだこうだと試行錯誤してみないことには、私たちはどうしたって「創る」楽しさをわかることはできないのだ。

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受け手、観客、消費者…。

私たちはいつの間にか、サービスの受け手に慣れてしまったのかもしれない。そんな風にあらかじめ用意された心地よい席からいったん立ち上がり、自分の頭で考えて手と頭を動かしてみよう。その先にはきっと、一生かけても開けきれないほどの「楽しみ」の扉が待っているはずだから。

バスを100人以上の仲間とDIYしたように、これからもspodsとの出会いが、「創る」楽しさ知る最初の一歩になることもあるはずだ。

真夏のあの日に見た、子どもたちの目のきらめきが心に残っている。

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さあ、自由に動きだそう。アイデアと創造を運びだそう。

Text: Hanae Abe
Photo: Yoichi Sato, Neko Sasagawa
Edit: Neko Sasagawa

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