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移動が変われば、暮らしも、生きかたも変わる。spodsとbusketがともに描く未来

spodsが取り組んだバスの改造DIY。

未来の可能性をつめこんだ、“移動する新しい場”を作るプロジェクトに、100人を超える人たちがボランティアに来てくれました。

今回紹介する西木戸秀和さん(写真左)もその一人。

西木戸さんは、ワンダートランスポートテクノロジーズという会社の代表で、パートナーの江口晋太朗さん(同右)らと一緒に、個人で貸切バスツアーを簡単に企画できるサービス「busket」(バスケット)を手掛けています。

busketは、「あなたの地元に、イベントに、オリジナルバスツアーを」を掲げ、野外音楽フェスティバルやスポーツ大会、地域イベントといった「移動」が課題になる機会に、個人がバスの配車予約をして、ツアーを企画できるプラットフォームです。

音楽家でもある西木戸さんは、このサービスを通して「移動の苦痛をなくし、会いたい人に会え、会いたい景色に出会える社会にする」と語ります。

私たちは、どんな新しい移動体験ができるのでしょうか。spodsと同じモビリティ領域で活躍するbusketの二人と、未来について語り合いました。

エンターテインメントとテクノロジーの交差点を

――先日は、一緒にバスのDIYをしてくださってありがとうございました。率直に聞きますけど、spodsの取り組み、どう感じましたか?

西木戸:いやあ、最高ですね。

1日24時間しかない中で、移動に対するアプローチは、次の2つになると思っています。1つは速度を上げること。もう1つが移動時間の豊かさを上げることです。

spodsもbusketと同じく、後者にアプローチしていますよね。登らなければいけない階段は多々ありますが、(spodsが)移動する「空間」を変えようとしているのは良いですね。

江口:移動という体験において、さまざまなアプローチが行われています。その中でも、spodsが「クリエイションスタジオ」という言葉を掲げたのは面白いなと思いました。

――移動時間の豊かさを上げる。アプローチは違いますが、busketが目指していることはspodsと近いですよね。西木戸さんは、なぜ「移動」という領域で、バスのビジネスを始めようと思ったのでしょうか?

西木戸:ずっと音楽を続けていたことが大きいですね。もともと僕は福岡県の大牟田市(おおむた)という、「炭鉱」の地域の出身なんです。

漁師の家系で育ったのですが、小学生のときに炭鉱が閉山して、クラスの3分の1が転校したり、閉山の影響でいろいろと事件や事故も多かったりと、地域の様子が一気に様変わりしてしまった、わりと悲しい地域だったんですよね。

――すごい経験をされていますね。

西木戸:今は炭鉱が世界遺産にも登録され、ダークツーリズムの拠点にもなったりしています。そうした幼少期の経験のなか、小さいころの拠り所が音楽だったんです。

音楽を通して世界が広がると、シンプルに色んな場所に行ってみたくなって。「この町を出たい」と思い、気合いと根性で勉強をして、都内の大学に進学しました。

――大学のころはずっと音楽を?

西木戸:そうですね。大学生の頃からDJやバンドをしたり、舞台音楽を作ったりしていました。働いてからも音楽家として活動を続けて、野外フェスの運営などを手伝っていたのですが、どうしても移動中の時間が寂しいなという思いがあって。

そこで、フリーランスを経て、2012年にエンターテインメントとテクノロジーの交差点を作ろうと、会社を作りました。最初は「BANANA」というe-チケットサイトを運営して、(人気フェス)「TAICOCLUB」を主催する安澤太郎さんをサポートしたりしてましたね。

ただ、フェスって遠いところでやったりすることも多くて、移動に時間がかかって移動中は寂しかったりする。それで他の参加者にも「一緒に行こうよ」って声かけて、個人的にバスを手配するようになってみると、だんだん人が集まるようになったんです。

個人で旅行業的なことをやってみたことで、自分がコンテンツを作り続けるだけでなく、色んな場所で新しい移動中の体験が生まれた方がより面白いなと思い、busketにたどり着きました。

busketのWebサイト

――busketの構想は、いつ頃から生まれたんですか。

江口:2016年ころから動き始めて、2018年にようやく「第2種旅行業」の登録を終えました。「海外の募集型企画旅行」以外のすべての旅行契約が取り扱えるようになります。

busketがどのような仕組みかというと、ユーザーからバスツアー企画を起案していただき、弊社が旅行主催者となってツアー商品を販売する。同時にバス会社に対してバスの手配を行う代理店取引をするかたちになります。

――全国のバス会社と取引されています。バス業界と聞くと、勝手ながら古いイメージがあります。新しいサービスとして参入するうえで、どうアプローチしていったのでしょうか?

西木戸:知り合いから紹介してもらい、1社1社電話をして会いに行きましたね。

日本には約4500社の貸切バスの会社があって、約5万台の貸切バスがあるんですが、実働率は48%なんですよ。半分以上の貸切バスが使われていないのが現状です。

ユーザーだけでなく、バス会社にとっても空き在庫が埋まり、新しいチャネルが生まれるというメリットを、飲み食いしながら伝えて。アナログな営業活動でしたね(笑)。

テクノロジーや会社のビジョンの話だけでなくて、顔の見える関係性が作れるか、(新たに取引を始めることで)関わる人が幸せになれるかは重要な要素だと思います。

“ただの「移動」”を豊かな時間に

――2019年4月にサービスを公開されました。反響はどうですか?

西木戸:企画力があり自身がコンテンツを持っているオーガナイザーの方々から、「面白い」「これならできる」というポジティブな声をいただき、これまでに酒造や工場の見学ツアー、食べ歩きツアー、フェスに行くツアーなど多種多様なツアーが生まれています。

一方で、ツアー企画の責任に関する問題や、ツアーの参加者に添乗員資格を持つ人はいるのかと指摘されることもありますね。

江口:ここは、旅行業法の難しさと密接に関連しています。

例えば、旅行業に登録をしていない人や団体が、地域のワイナリーに人を招待したくてツアーを開催したときに、参加費を直接徴収したり、道中で観光地の説明をしたりすることが法的に難しいことがあります。

――旅行業法では、添乗員や通訳案内士が国家資格として規定されていて、さらに旅行会社によってはバスガイドが観光案内をすることがあります。自治体によっては、施設内の案内はいいけれど地域の説明はしてはいけないなど、様々なルールや規制が入り乱れていると聞いています。難しい課題です……。

西木戸:そうなんですよ。本来、イベントや地域の魅力って、それらを大好きな人が一番良く知っているじゃないですか。

これでもだいぶ昔より変わりましたし、既存の旅行業者を否定するつもりはありませんが、地元のプロ達が旗振り役となって、その地域も魅力を余すところなく伝えるツアーの方が面白いし、より自然かなと。

――日帰りのツアーの案内だったら、国土交通省に登録して講習を受ければいい、みたいになると柔軟になりますね。例えば、年間3000円の登録料を払って、それを観光地のトイレの整備費に回していく工夫もできます。

西木戸:そういう建設的で前向きな動きが生まれていくと最高ですよね。

江口:「誰かの価値観や思いのもとに、人は集う」という根源の部分は、どれだけテクノロジーが進化したとしても、ずっと変わらないと思います。

テクノロジーを活用した個人最適化は進む一方ですが、busketはその中でこぼれ落ちてしまったものを大事にしたい。そのための実績と仲間づくりを進めようと思っています。

――今後どのようなツアー企画が生まれたらいいなと思っていますか?

西木戸:Jリーグなどのスポーツコミュニティのコアなサポーターとかが活用してくれると嬉しいですね。

バスを複数台借りて100人くらい移動して、重要なアウェイ戦を観に行く、みたいな。道中で、地域のお祭りやイベントにも参加して、移動している間も良い体験が生まれたら最高ですよね。

――各地にコミュニティができて、地域の方々とツアー参加者との間に交流が生まれると面白いですよね。バスが集まれば、そこに目的地ができる。祭りが生まれる。spodsの目指す世界でもあります。

江口:昔でいう大道芸のテントのような、移動型の都市が生まれるということですよね。

各地域で歴史や民俗学も学びながら議論を深めることは、既存の常識や規制に捉われない価値を生むことにもつながるでしょう。「ツアー」というあり方は、まだまだ可能性が眠っていると思います。

「これが本当のリトリート」 と言えることを

――busketとspodsは、単に企業としてのグロースを求めるのではなく、「どれだけ面白い文化を作れるか」みたいな、企業の新しい価値を定義することも一緒に取り組めたらいいですね。移動が豊かになることで、ローカルでの体験も変わっていくと思います。

江口:いいですね。経済合理性を突き詰めた先にはディストピアしか待っていないので、人が作り出す文化的、社会的価値をどう作れるかを追求したいと日々考えています。

例えば、経済的合理性だけを考えると、新しくマンションを建てた方が利回りは良いけれど、それによって失われるものってあるよねと。そうではなく、築100年の古民家を維持するための技術や経済性を考えるほうが豊かで個性的だし、その地域ならではの魅力が生まれますよね。

そうした、それぞれの土地に眠る歴史や文化の上に私達の生活や暮らしが成り立っていることを踏まえた上で、人と人とが出会い交流すること、人が移動することの意味や意義を追求していきたいですね。

西木戸:移動という観点でも、車が通るための道路ばかりが作られるのではなく、子どもが歩きやすい広場を作ったり、先ほど挙げられていた移動型の都市が集まるコミュニティが生まれたりしたほうが豊かになるとみんな気付いている。だけど方法が分からない。

移動という体験が変われば、暮らしも、生き方も変わっていきます。最終的なかたちはまだ模索している最中ですが、busketとspodsで一緒に取り組んでいけると良いですね。

――例えば、spodsのDIYメンバーには、お坊さんもいます。先日は「テクノ大祓」でコラボしましたが、地方の神社仏閣をめぐるツアーも開催できたらいいですね。

西木戸:フェスを1日やるから、10万円で場所を貸してもらうだけでも、お寺のような場所の状況は変わりそうですよね。

アンビエント(環境音楽)なミュージックを流しながら、読書会をしたり、夕暮れと一緒に抹茶を楽しんだり、ヨガをしてみたり。最高だなあ。

江口:元々お寺って地域のコミュニティの拠点だったり、いろんな人達が集まる憩いの場所だったりした歴史もあります。かつては、そうした精神的な拠り所があったけど、今はあまりそういうところになりえていない。

経済的な偏りがあまりにも都市部に傾いていて、地方にある歴史性を持つものにお金が流れなくなっているので、それが持続可能なかたちになるような仕組みを一緒に作っていきたいですね。

西木戸:「これが本当のリトリート」と言えること、一緒にやりましょう(笑)。

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photo: Eriko Kaji
text: Tomoaki Shoji
edit: Kaori Sasagawa

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