見たことのないバスをDIYでつくる。 デザイナー森澤有人さんが語る「モノづくり」の本質 【spods creator's talk】

3月から始まったバスのDIY改造。気づけば100人を超える人たちが参加してくれている。spodsのプロジェクトをともに楽しんでくれる仲間たちに感謝するばかりだ。

「うわあ、すごい」「かっこいい!」

初めて工場に足を運び、spodsのバスを目の当たりにした人たちからは、いつも驚きの声が上がる。見たことのないバスの吸引力、そのデザインの力を実感する瞬間でもある。

spodsのプロジェクトはいま、2台のバスを起点に始まっている。

このバスは、一体誰がデザインしたのか。
このバスで、どんな新しい場が生まれるだろうか。

バスのデザインは、森澤有人(もりさわゆうじん)さんが手がけている。デザイナーでありながらDIYの現場で目を光らせ、つねに考え、手足を動かしてくれる心強い存在だ。

「最強になりたいだけ」と話す、有人さんの生き方を紐解きながら、spodsバスのデザインやモノづくりの本質、移動体の可能性について聞いた。

プロダクトデザイナーに飽きてきた

16歳で単身渡米し高校に進学。フィラデルフィアの芸術大学でデザインを学んだ有人さん。ニューヨークの著名なデザイン会社では、化粧品パッケージやインテリア、家具などのデザイン、ディレクションをした経歴を持つ。

現在は、大手電機メーカーで働きながら、パソコンやスピーカーなどの新商品のプロダクトデザインをリード。自らの会社も経営し、様々なモノのデザイン、ディレクションを手がける。

このスタイリッシュな扇風機や美しい曲線の化粧品ボトルは、有人さんの手がけたプロダクトの一例だ。

まさに第一線のプロダクトデザイナーのひとりだが、有人さんは、そんな自身について「いまは自分の職業がよくわからない」と明かした。

「もともとはプロダクトデザイナーなんですけど、もう何十年もやっているから単純にデザインだけする事に飽きてきて(笑)。そもそもモノを自分で作ることが好きで、手を動かすことが楽しくて」

いまの現在地を、「真の意味でのデザイナー像を目指している」と表現する。

仕事では、表のデザインだけでなく、企画段階から内側のエンジニアリング(工学)までモノづくりに関わることが多い。行き詰まって持ち込まれるケースもよくあるという。

「単純に見栄え良くするのは簡単なんですよ。少し考えれば誰でもできる。デザイナーというとなんとなくスタイルやビジュアルになってしまうけど、本当はもっと本質的なモノのありかたを考える人

難しい依頼にも動じることはない。「逆にその方が美味しい。やれることがあるから」と飄々と語る。

なぜそこにあるのか。本質からちゃんと考える。当たり前のようでなかなかやれていない。なぜそこに生まれたがっているのかまで考えて、そのモノに合った姿を作っていく。ちゃんとコストに合ったモノを作れるか、ちゃんと伝えたいことを伝えられるカタチになっているか考えることが重要」

問いと向き合いデザインで解決する。有人さんのやることは変わらない。

授業を聞かなかった少年に訪れた人生の転機

有人さんは、写真家だった父親の影響で、子どもの頃はカメラマンを目指していたのだという。じつは日本の中学時代は「成績がめっちゃ悪かった」と明かしてくれた。

「授業なんて何も聞いてない。一切勉強しない。部活はサボる。どっちかっていうと目立たない子だった」

有人少年の転機は、中学2年のとき。母と小学生の弟と行ったアメリカで、現地の家庭にホームステイしたことだった。

「弟と一緒にアメリカに連れていかれて、母に、『じゃあ、あなたたちここの家で。私は別の家だからバイバーイ』って(笑)」

「は、何?って状態で弟と置いていかれて、英語が通じない状態でその家族と過ごしたんです。しばらくして、同い年の子どもの目がキラキラしていて。こんなに目キラキラさせて何楽しそうにしてんの? って思った」

「終わった後に、『ああいうところだったら勉強したかったな』って言ったら、『行ってくればいいじゃん』って。完全に自主的に行動させるために連れていかれたの(笑)」

その頃からカメラを手にたくさんの写真を撮るようになり、モノばかり撮っていることに気づく。風景でもなく人物でもなく、モノのディテールばかり目に入るのだ。

父の同僚にその話をすると、「デザイナー」という職業を教えてくれた。

作品をゴミ箱に捨てられ、プロダクトデザイナーに

有人少年はその後、16歳で単身渡米し高校に進学。そのままアメリカの芸術大学に入り、プロダクトデザインの道に進んだ。

「グラフィックデザイン志望で大学を受けて、1年間は進路決めなくていいんで、いろんなことをやってみた。モノをつくるのが好きだからプロダクトデザインの授業を受けて。プロダクトデザイン科だけが、僕の作品をゴミ箱に捨てたんですよ」

有人さんが通ったのは、シンプルで機能的な美しさを特徴とするドイツの総合芸術学校、バウハウス直系の学校だった。

「こんなものを作ったら、本当に無駄でしかない。プロダクトデザイナーはゴミを作る職業ではありませんって」

「プロダクトデザイン志望が60人いたんだけど、すでに問いが始まっていて。ゴミ箱に捨てられた瞬間に、泣きながら辞めるヤツと、ふざけんなよこのやろうってヤツが10人くらい。その10人の中にいたってだけ(笑)」

プロダクトデザイナーとしての有人さんの第一歩は、ここから始まった。

spodsのバス、絵を描くだけの話のはずだった

spodsバスをデザインすることになったのは、旧知の創業メンバーに相談されたから。最初はバスのデザイン画を描くだけで、2カ月で終わる話だった。

「絵を描くだけの話だった。なんで俺が作ってるんだ」と有人さんは笑う。

DIYの現場では、自分の経験を生かして作業を進めながら、時には特装車などを手がける車のプロと相談して、進め方を判断していく。

自ら手を動かして、DIYの現場をリードしてくれている。

あるときには、バスの内壁にカラーチップをあてながら内装の色を決めていく。

有人さんの愛車ディフェンダーには、たくさんの工具が積まれている。

有人さんがバスをデザインをするにあたり、最初に頭に浮かんだのは、「どうせ作るんだったら、見たことのないものにしなきゃいけない」ということだった。

「やっぱ外見と中身ガラッと変えてあげたりしたほうが、外見たときに『お!』っと思うし、中見たときに『おお! こんな風になってんだ』って次々に驚かせるようにしたいなと」

人々の想像を超えて「おお!」を生み出すために、バスでは使わない素材も試している。たとえば、内装の床に取り入れたタイル貼りもそのひとつだという。

家の内装で使われる素材でも、バスに入れただけで新しくなる。ちょっとしたアイディアと使い方次第で、空間が広がる。

spodsのバスは、なぜあの2色になったのか

一際目を引く、ネイビーグレーと蛍光色の配色。一度見たら忘れられないバスの色は、どうやって生まれたのだろう。

「カラーリングも、普通にやっちゃうと自然にマッチした色という話になるんですけど、逆にテントウ虫だって赤いし、花も咲いているし」

都会にいても、森の中に行っても、spodsが存在しながら、そこまで目立たない。差し色とグレーみたいな」

デザインするときは、バスの中ではなく、さまざまな移動体が集まったなかで、バスがその中心にいる様子を想像したという。

中心に佇む存在として、ふさわしい移動体の姿――。

「バスの写真を何枚も見ましたよ。いろんな写真をみて、なんかありがちな色とか外したようでもこっち行くんだとか、色々考えた上で、俺たち何色なんだろう? って」

「存在するために、若干の違和感を入れるのが大事で。ほんの少し。言葉で表しづらいんですけど、そのほんのちょっとが辻くんと僕は同じだった」

辻くんとは、デザイナーの辻哲郎さんのこと。spodsでは、バスを有人さんが手がけ、ロゴなどのブランド構築を辻さんが担っている。

2018年の年末。同じタイミングで披露した有人さんのバスのデザインと、辻さんのブランドのキーカラーはほぼ同じ。バスの下線の位置まで同じだったという。

もちろん会話は一切していない。奇跡のような本当の話である。

移動体をデザインするということ

とはいえ、車という“移動体”のデザインは、動かない“モノ”のデザインとは一味違う部分もあったようだ。ホテルなどの建築物を除いて、有人さんがデザインを手がけた一番大きなモノが、spodsのバスになる。

「あれだけ長尺なモノが走る。今のバスって構造が簡略化されてて、コストダウンも含めて、ボディ自体がフレームになっていて、歪むようにデザインされているんですよ」

「歪みのあるモノの中(内側)のデザインってしたことないから相当面白い。(運転中の車は)ずっと揺れてるから、ガチっと固められないの。ある程度フレキシブルに動けるように、中は中だけで完結させて、遊びを作ってあげる」

「ガチって部屋を作るのは簡単なんだけど、ずっと揺れるものに、デッキ材をどう取りつけるのか。隠しちゃえばできる。でも中を外からも全部見せた状態で、どれだけできるか」

内装を仕上げている最中だが、当初と変わった部分もあるのだろうか。

「もう相当違いますよ。全然違う。内装を剥がさないとどうなっているかわからないから。通常は細かい部分は設計者に任せるんだけど、俺やんの?って(笑)」

「最初は、この通りにならないってある程度は予想してたけど、そこまで細かく考えてなかった。運良く全部ツールは自分の家に揃ってるから、レーザー計測したり平行とったりしながらやってる。そもそも車の中で平衡は取れないんだけど...」

DIYは、自分のリズムを刻むクリエィティブな時間

プロダクトをデザインをするうえで、DIYする時間はどんな意味を持つのだろう。

「自分が作るものを誰よりも知ることは必要だと思うし、若手にもよくいってる。自分が作るのに知らないって作れるわけないじゃん」

「例えば、このICレコーダーを作ってくださいっていわれたら、ちょっと今の機種もらって、とにかくバラす。知る。知り尽くす。この部品無駄じゃない? とか、そういうメモを残しながら、デザインする」

目の前の作業に集中する。自分のペースで進める。現場で手を動かしながらバスを作るDIYは、クリエイティブなアイデアの源泉でもある。

一番自分がデザインを思いつくのは、何か作業をしているとき。単純作業のときに一番思いつく」

「メトロノームみたいに、手順を踏んだ作業はちゃんと自分のリズムを刻んでくれるから。ネジを打ってるときに、急に思いついて、お!なるほどと思ったり(笑)」

ときには、筆者のようなDIY初心者にも工具の使い方を教えてくれる。

「知らなくて当然。自分もそうやって覚えたの。僕も誰からも習ってないんですよ。強いていえば父に習った。父もDIYが大好きで、一緒に天城に家を建てたんですよ」

「大学行ってから、両親が『土地買ったから』っていって。ハーフビルドだったんだけど、大黒柱だけ建ててもらって、屋根はりとか壁張りとか、お風呂作ったりトイレ作ったり、全部自分たちで」

自分の作りたいものを自分で作れる。見たことのないものを作る。こういう原体験が、世界との向き合い方を変えるのだと気づかされる。

個がどれだけ群に優って最強であるか、証明したい

ここで有人さんのこぼれ話を披露したい。有人さんがなぜフロントランナーになれたのか、よくわかるエピソードだ。

「アメリカに留学して、高校入って、そこの先輩がいたんですよ。その人が勉強できるスポーツできる、なんでもできる人だったの。かっこよくてねー」

「とにかく憧れで、俺もなんでもできる人間になりたいなって。それの延長線上がいま。何いわれても対応できる人間になりたい欲が、高校からずっと今まで続いてる

「高校生のまま意識が止まってるの。とにかく最強になりたい(笑)

最強になりたい。そのシンプルな強い思いに、思わず「『ジャンプ』じゃないですか!」と突っ込んでしまった。すると一層深い答えが返ってきた。

個で勝つ。個がどれだけ群に優って最強であるか、試したいし、証明したいだけなんだよ

「遥かに凌ぐパワーを一人だったら手に入れられるっていうのを知らしめる。一人になるってそういうこと。誰にも負けねえって意識がどれだけあるかが勝負」

移動体の未来、変わるものと変わらないもの

果たして、有人さんが自分のために移動体をデザインするとしたら、どんなものを作りたいのだろう。聞いてみた。

「俺は、みんなが考えているようなでかいものはいらなくて。ほんとミニマムでいいと思う。いくらでも走るスクーターとか欲しい。給油なし充電なし

もともと運転が好きな有人さんは、自動運転も少し距離を置いて見つめている。

「乗り物自体を楽しむ人間からすると、自動運転とかマジやめてくれみたいな。俺は運転したいんだから。ガソリンはとっといてね(笑)」

日産とルノーが開発した電動2人乗りシティコミューター「NISSAN New Mobility Concept」に発表当初から注目しているそうだ。

「原チャリな感じの車、すごくいい。あれが欲しい。ナンバーほしい。横浜から出られないんでしょ? 調べ尽くしたけど、輸入できない(笑)」

日本におけるモビリティの未来は、“モノ”ではなく“場のあり方”を疑問に挙げる。

「移動体っていうけど、こんな国土狭いところでどうするの? 禁止の場所の方が多いのに。どこいけるの? 自分の家を持たずに車で暮らすって今流行り始めているけど、それ考える前に、場所作ろうよって」

「もうちょっと道路が自由にならないと楽しめないよね。駐車スペースの問題だってあるし、そこをしっかりできてればもっと楽しめる」

今後、もし車を改造して自分の部屋を造ってみたいと思った人がいたら、「まず剥がそう」とアドバイスするという。

考える前に、剥がしてみたほうがいい。知らない現実が待っているから。どうしていいかわからないものは全部外しちゃえ(笑)。バラした後に考えればいい。失敗しないと何がダメかわかんないから。DIYの基本」

最後までやりきる。トラブルこそ面白い

2カ月の予定だったプロジェクトに、どうしてここまでコミットしてくれるのか。

僕のモットーは、始めたことは最後までやりきる」と有人さん。

「ものづくりもそう。失敗したっていいわけじゃないですか。死ぬわけじゃないし」

「失敗しようが成功しようが、最後まで、みんなが納得するまでやる。じゃないと生まれてくるものに失礼だし、受け取る人に自信をもって託せなくなる」

有人さんにとってspodsとは何か、おそるおそる聞いてみた。

トラブル」と間髪入れずに一言。そして「トラブルこそ面白い(笑)」と加えてくれた。

ああ、バスの完成が楽しみだ。

.........
関連記事》spods、バスの改造DIYはじめます。もっと自由に動き、アイデアと創造を運びだすために。

photo: Eriko Kaji, Yuko Kawashima, Yujin Morisawa
text: Neko Sasagawa

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