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spodsのバスが完成間近。 ともに学び合う「移動する遊び場」ができるまで

未来の可能性を詰めこんで始動した既存バスのDIY。プロや素人が混ざり合って、大人も子どもも一緒になって進めています。

GW中のDIY追い込み作業に参加したライターの阿部さんから現場ルポが届きました。

参加者は、どんなことをしているの?
そもそもspodsは、どんな思いで始まったプロジェクトなの?

“移動する新しい場”を作る「移動型クリエイションスタジオ」spods(スポッズ)。代表のyokoさんのインタビューも交えながら、プロジェクト誕生の物語を紹介します。

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「魔法のバスに乗って」という曲がある。

spods(スポッズ)の工場を訪れ、そこに集う人々と言葉を交わした帰り道、久しぶりに大好きなそのが頭の中に流れてきた。

5月の10連休のうち、spodsの工場を2度訪れて、作業のお手伝いに参加した。DIY経験はほぼゼロ。手を動かして何かを作った経験といえば、せいぜい無印良品のスタッキングシェルフくらい。基本、不器用。

そんな私が令和早々、なぜ自宅から遠く離れた工場で、ペンキを塗り、コンクリートを練り上げ、電動工具のヘッドにペーパーヤスリをつけてせっせと研磨作業をしているのか。

それはもうシンプルに「面白そう!」だったから。spodsとはどんなプロジェクトなのか。このバスはどこへ向かうのか。作業を通じてただ知りたいと思ったのだ。

バス改造というエンタメ体験

参加1日目、風通しのよいガレージには20人ほどの参加者が集まっていた。

私も含め、初めての人が多かったため、現場を仕切るspods代表のyokoさんという女性が概要を説明してくれた。

「spodsのバスは2台あります。福祉車両車として使われていた大きめのほうが1号車。それよりやや小さめで、キャンピングカー仕様になっているものが2号車。この2台体制で、いろんなところに出かけて行きたいと思っています」

バス改造の経験がある人など、当たり前だが、そうそういない。3月から本格的に始まったDIY作業は、ほぼ素人だけでここまで進めてきたのだそう。

とはいえ、一部の作業はプロの手を借りる必要性があるとの判断で、この日は家具職人や大工の方々も加わって作業が進んでいた。

もともとあった内装はすべて剥がされ、新たにタイルを貼ったり、床と壁をフローリングのような木材でぐるりと囲んだりする作業を進めているという。

「今日は内装と外装を手分けしてやってもらえたら。DIYが得意だったり、木工をやったことがある人はいますか?」

誰も手を挙げない。どうやら今日は、私を含め初心者が集まったようだ。隣にいた大月さんという男性が助け舟を出した。

「じゃあ、図工の成績が5だった人は?」
「あ、それなら……(笑)」と3人の手が挙がる

この一言で場の空気がほぐれ、ざっくりとチームが分けられた。図工が3だった私は1号車へ。車内の壁面に養生テープとビニールシートを貼り、ペンキを塗る作業だ。

「水と塗料が1:9の割合って言ってたけど、どっちが1?」
「ここ、塗っていいとこ、ダメなとこ?」
「何これ、養生テープとビニールシートが一体型になってる!」
「電動で動かせる紙ヤスリとか、初めて見た…」

一作業ごとに、疑問と驚きが湧き上がる初心者チーム。

DIY経験がほぼなく、一日中PCに向かっていることが多い私にとっては、新鮮な体験だった。真剣に作業を進めているプロの方々には申し訳ないが、「友達がお店をオープンさせるっていうから、お手伝いに来たよ~」といった感覚に近いかもしれない。ああいうの、ワクワクしません? 

休憩時に、DIYの参加者が自由に書き込める感想ノートを見せてもらった。

「普段できないことを体験できて楽しかった!」
さまざまなバックグラウンドの人との共同DIYは刺激的でした」
作るって、大人になるとなかなかしてない。創作意欲が湧きました」
「目の前の作業に集中するマインドフルネス的作業で頭のスイッチを切り替えられました」

普段の生活と、バス改造という非日常。そのギャップを多くの人が単純に、というか本能的に楽しんでいるようだった。そのあたりの心情は、以前のルポでも丁寧に掘り下げられている。

参加者の職種もさまざまだ。私のようなフリーランスのライターもいれば、カメラマン、イラストレーター、編集者、Webデザイナー、経営コンサルタント、総合電機メーカー社員、大学生、PR、パラレルワーカーまで。すでに100人を超える人たちがこの風通しのよい工場に、入れ代わり立ち代わり訪れている。

プロの大工の目にspodsはどう映る?

2回目の参加日。連休後半で、内装作業が中心なこともあり、参加者は10人弱と少なめ。

1号車は、本職の大工さんを中心に、フローリングの取り付け作業が進行していた。

フリーランスの大工でさまざまな現場に関わるウエムラさんは、今日が初参加。

spodsが建設業者向けのマッチングサイト「SUSTINA」で大工さんを募集したところ、「バス改造ってやったことがないし、面白そうだなぁと思って」とこのプロジェクトに申し込んでくれたのだという。

プロの目に、このバス改造プロジェクトはどう映っているのだろう?

「このプロジェクトの第一印象? …ダイナミックだなぁ、って(笑)」

え、それは結構、無茶ってことですか?

「いや、無茶とは思いません。僕が今まで関わってきた現場とはまったく違って、それがダイナミックで面白い。バス改造なんて今回が初めてですから。普段は住宅のリフォームなんかをやってるんですが、こういう(移動体の)『場所』の形もあるんだなって」

ネットの世界はもう息苦しいから

本職の人に「ダイナミック」と言わせるこの大胆なプロジェクト、そもそもどんな意図で、誰が中心となって発進したのだろう?

休憩時、yokoさんに話を聞いてみた。

「誰が中心となって進めているのか、表に出さないようにしています。人ではなくて、spodsというプロジェクトの活動自体に焦点を当てたいから」

「どういう意味があって、なんの問いを投げるのか、に目が行くようにしたい。だから、アノニマス(匿名)誰がやっているのかわからないくらいでいいんです

彼女を含め、spodsの中心メンバーは全員、それぞれの本業を持ちながら、プロジェクトに参加しているという。とはいえ、最初の設計図を描いたのはyokoさんたち創業メンバーだ。

「好奇心が刺激される、新しい遊びが生まれる環境をデザインしたい」とyokoさんは語る。

「私、以前は、ソニーでPlayStationを作っていたんです。数年前にソニーを卒業した後、教育系のスタートアップの立ち上げや支援を経て、起業することになったのですが、『PlayStationのような遊び場をつくりたい』という思いがまずあったんです」

「私にとってPlayStationは、ユーザーとして遊ぶものであると同時に、創るものだったのですが、創る側では、どれだけゲームクリエイターさんに、このプラットフォームで創りたいと思ってもらえる環境をご提供できるか、という課題に向き合っていました。それと同じ発想ですね」

「楽しいを起点に、新しいモノコトが生まれる部室みたいな環境。大人も子どもも関係なく、好奇心が刺激される出会いや道具、モノコトでいっぱいの遊び場であり学び場」を作りたかったのだという。

yokoさんは情報工学部の出身。中学生の頃から独学でWebサイトを制作し、90年代には、インターネットという広大な遊び場に夢中になった。

「まだGoogleもなかった。パソコン通信とかの時代でしたね。当時は音楽ファン向けのWebサイトを作っていたのですが、好きなアーティストが全国ツアーをやると、自分が行けない地方公演の内容とか気になるじゃないですか? だから全国のファンがライブレポを投稿できるツールとか、そういうのを黙々と作っていましたね」

インターネットが大好きだったんです。思い返せば、大学での勉強より何より、一番濃密に学べたのは、この自分でサービスを創った経験。学校の決められたカリキュラムでなく、自分の“好き”を起点に、実践で社会に向けて何かを創る経験ほど、身に付く学びはありませんでした」

けれども自由なネットの世界は、現在はGAFA(Google、Apple,、Facebook、Amazonの4社。頭文字を取って称される)に代表されるグローバルIT企業の台頭や独占が進んだことで、大きく変容してしまった。

「最近、ネットの世界も様変わりしましたよね。SNSにしても一般化が進み、実名制が高くなって、息苦しいし、狭くなった。以前のように、自由で広大な遊び場のようには、感じられなくなってきてしまった」

自由で、混沌としていて、新しい何かが渦巻いている。楽しく刺激的だったあの世界は、今どこにあるのだろう?

「今は、リアルな場に、面白い試みや新しい挑戦をしている人たちがたくさんいますよね。暮らしや仕事、現代社会のあり方を問い、実践を通じてアップデートしていこうと活動する人たちがコミュニティを作っている」

ネット黎明期にネットに集まっていたような、個性的で、新しい時代を創っていこうとする人たちが、リアルな場に集まっているように感じてます」

「彼らに出会うと、今までまったく知らなかったこと、見つけられなかった視点をもらえる。情報空間上のコミュニティは、特定の関心領域について深く話し合うことには向いているんですが、もっとフィジカルな部分で大きな構造の変化が問われている時代だと思うから」

大人のための自由な遊び場を

ソニーに新卒入社してからの約15年間、「一日24時間のうち、24時間仕事のことを頭のどこかで考えていた」と、仕事中心の人生を送っていたyokoさん。

そんな彼女が、「大人のための学びの場を」と考えるようになった背景には、自身の闘病経験も影響している。

32歳のとき、乳がんが見つかったのだ。

「発見時には結構進行していて、3年くらいフルで抗がん剤治療を受けました。最初の3ヵ月は病室でも仕事してたんですよ。ちょうどPlayStation4の初期の企画が始まった頃で、新しいプラットフォームのコンセプトを定めるためのプロジェクトを担当していました」

「『自分がいなければプロジェクトが困ったことになる』と真剣に思ってたから。過信してたんですよね」

だが、彼女の治療は最低でも1~2年かかることが判明。ようやく、仕事に対して諦めがついたという。

「仕方ない。じゃあせめてインプットの時間にしよう、と割り切りました。それで抗がん剤治療を続けながら、一人で世界のあちこちを旅したんです」

「抗がん剤を打ったら、すぐ南米に飛ぶ、みたいな。副作用もまあまあ強く出たんですけど、それでも昔から移動好きの旅行好きで、好奇心中毒だったから、むしろ大手を振って休むぞ!って」

あまりにタフなエピソードだが、各国をまわって見えてきたのは、アートが身近にある人々の暮らしだった。

年齢問わず、子どもも老人も、街中でライブを披露する姿。街で電車で広場で、即興で自由にパフォーマンスする人々。人々の心や街に溶け込むアートの存在を実感したという。


世界の今、日本の未来

ソニーを経て、教育系スタートアップに転職したyokoさん。

「それまでは、何千人単位のチームで、1つのグローバルプロダクトをつくる仕事をやり続けてきたので、人生の後半戦は、もっと小規模でも次の世代のため、より良い社会をつくるために、自分があったら良いなと思うもので、直接的に貢献できる仕事にシフトしたいなぁ、と思って」とふり返る。

その後、「どこで働いてもいい」という会社の制度を使い、フィンランド、エストニア、台湾、隠岐の島など、世界各国の「学び直し」の現場に足を運んだ。

各地を巡り、世界の今が見えたことで、日本の未来も見えてきた。

「今の日本って、島国で人口も減っているとはいえ、まだ内需もそれなりにあるじゃないですか。微妙なところで成り立っちゃってる分、ドラスティックな変革が難しい。このまま事なかれ主義で、空気を読み合って波風立てず生きていこう、という閉じた意識が強いですよね」

「だからといって、この悪い状況を次世代にそのまま放り出していいとは思えない。だからこそ、面白い人たち、社会のアップデートに挑戦している人たちが集まり、直接会いに行けるような場を作ってみたくなったんです」

次の時代は、人々のリアルな対話や五感を使ったコミュニケーションが鍵になる。yokoさんはそう指摘する。

「より豊かな社会のあり方を追い求める人たちとのリアルな交流。対話はもちろん、その場が体現する空気、ともに感じる香りや音、味、間合い。五感のセンサーのすべてを使った濃密なコミュニケーションの先に、次の時代をつくる新しいモノコトのヒントがあると思う」

だからこそ、実践式の学びの場、宿り木としてspodsを使ってもらいたい」とyokoさんは語った。

「集まった人が繋がり、一緒に探求しているうちに、新しいモノコトを自然に創りたくなってしまう。そんな場を作れたら、それは次の時代を生み出す最高の学び場にもなるはずだ、と信じています」

spodsのアイデアの源泉はここにある。

誰のものでもなく、みんなのspods

「大人がもっと自由に動き、遊び、学べる応援の場をつくりたい。だから、このバス改造DIYに一日でも関わってくださった人には、『バスが完成したら、どうぞ使ってください』とお伝えしています」

「みなさんがそれぞれ楽しい企画を立てて、バスを使って出かけた先で、出会いや発見をどんどん積み上げていってもらえたら。そこから生まれた物語や生き様を発信してもらえば、『こんな面白いことやってるんだ!』とコミュニティの広がりにつながっていく。そんな風に面白い使い方や課題が見つかっていけばいいな、と思っています」

「だから、spodsは誰のものでもないんです」。yokoさんは語った。

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18時、私は一足先に現場を後にした。工場のすぐ近くにあるバス停から路線バスに乗り込み、最寄り駅まで向かう。ガラガラの車内で、目についた席に座る。

バスの座席ってよく見ると、本当に最低限のコンパクトな面積しかないんだな、と今まで気にもとめなかったことを考える。

A地点からB地点へと、効率よく人を運ぶ移動体。私にとってバスはそれだけの味気ない乗り物だった。今日までは。

でもspodsはそれだけじゃない。休憩時、参加者からいろんなアイデアが飛び出てきた。

「私、水墨画教室に通っているんですけど、先生たちが前衛アートっぽくライブドローイングとかもするんですよ。スニーカーの足裏に墨をつけて、バンバン描いたりとか。それをギャラリーの中じゃなくて、どこかの田んぼとか野外で、大勢でやったら面白そう」

「地方でのファッションショーとか、移動型美術館とかもいいですよね。1号車の車内をギャラリーにして、2号車はスタッフの控室にしたり。1号車のルーフが気持ちいいので、あの上でヨガレッスンもできるかも」

人と人、人とモノ、人と土地、人と体験。
いろんなものを繋ぎ、彩りながら、spodsは進んでいくのだろう。きっと。

移り変わる景色を車窓から眺めながら、あの曲の最後のフレーズを口ずさむ。

「僕らは魔法のバスに乗って どこか遠くまで」

魔法のような化学反応を起こすバスが、もうすぐできあがる。

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spods、バスの改造DIYはじめます。もっと自由に動き、アイデアと創造を運びだすために。
見たことのないバスをDIYでつくる。 デザイナー森澤有人さんが語る「モノづくり」の本質 【spods creator's talk】

photo: Yuko Kawashima, Eriko Kaji, Nobuhiko Ohtsuki 
text: Hanae Abe
edit: Neko Sasagawa

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