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MaaS時代に、移動や暮らしはどう変わる? 「カーナビのレジェンド」と語り合ったこと。

「モビリティは道具。本当にいいサービスを」

「カーナビのレジェンド」と呼ばれる今井武さんはそう語る。

今井さんは、自動車メーカーの本田技研工業(以下ホンダ)で長年「カーナビ」の開発をリード。東日本大震災の際には、独自の通信ナビをもとに「通行実績情報マップ」を公開。被災地の道路情報が、ライフラインの確保や復興支援の活動を支えたとして、2011年度のグッドデザイン大賞を受賞している。

翌年、“車の電気屋”として初めて役員待遇参事に認定。ホンダを定年退職した後も、ライフワークである安心で楽しく豊かなモビリティ社会を目指したサービス開発や、防災に関する取り組みを推進している。

いま、「MaaS」(マース)で、人々の移動が変わろうとしている。

自動車業界に未来はあるのか?   必要とされるサービスは? 誰が自動運転車に乗るのか。 そして、私たちの移動や暮らしはどう変わるのかーー。

spodsのDIYを推進してくれる今井さんは、モビリティの未来をどう見つめるのか。これまでの歩みを聞いた前編に続いて、MaaSの可能性について語り合った。

MaaS:"Mobility as a service(サービスとしての移動)"の略。自動車や、バスや電車などの公共交通も含めて、個々の移動のニーズに応じ、それぞれの特徴を生かした異なるモードの交通サービスを、スムーズかつシームレスに実現すること。カーシェアリングやライドシェア、オンライン配車サービスなどもMaaSの一端を担うサービスである。

自動車業界は、Maasをどう見ているのか


――「MaaS」という言葉も、最近よく聞かれるようになりました。「100年に一度の大変革期」ともいわれていますが、自動車業界は今後どう変わっていくと思いますか。

サービスをずっとやってきた人間としては、車だけを売る時代はもうないよね、というのはわかりますね。(ユーザーが)車を通してどう自己実現ができるか、どういう生活体験ができるか、ということに向き合う時代になってくると思います。

ただ、やっぱり車は自分の能力を倍加する装置でもあるじゃないですか。

――足の拡張ですね。

そういう意味で、優れたサービスや社会にとって価値のあるサービスが、(車と)結びつくといいものができるんだっていう思いはありますよね。

――いま、自動車業界の変化について、どんなところに注目していますか?

CASE(ケース)とMaaSの領域ですよね。この2つが、ここ2年くらいで世界的な潮流になりました。

CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス/シェアリングのみを指す場合もある)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語。

――ここ2年なんですね。

自動車業界にずっといたわけですけど、(アメリカ発の配車サービス)Uberとか(アメリカ電気自動車大手の)テスラとか、そんなものが成功するわけがないとタカをくくっていたんですよね。

自動車の経験もない会社が、電気自動車を作って成功するわけがないと。Uberも、みんなの車で乗り合うなんて、アメリカでそんな文化はありえないと。

でも、あっという間にGMの時価総額を抜いて(笑)

Googleのかわいい自動運転車Waymoも走り始めました。こんなの走るわけないじゃんと思っていたのに、あっという間にそうなっちゃいましたよね。ダイソンまでが、お掃除しながら走る電気自動車をつくり始めたと(笑)。

だからトヨタ自動車(以下トヨタ)もいっていますが「100年に一度の大変革期」というのは、その通りだなと。

ただ、CASEというのは、基本的には技術用語で、テクノロジーの単語。MaaSというのは、やっぱり「サービス」です。


自動車メーカーは、サービス業になれるのか


――MaaS時代に、自動車メーカーもサービスと向き合う時代になる。

向き合わないといけない。

今まで自動車業界の頂点というのは、自動車メーカーだったんです。その下にメーカーがあって、その下にはまた部品メーカーがいて、ピラミッド構造の頂点にいたわけですよ(笑)。

ものすごく稼ぎだすわけですよね。トヨタ(の売上高)が約30兆円。ホンダがその半分の約15兆円。いま日本の国家予算が約101兆円で、2社だけでその半分くらい稼ぎだす企業になっているわけです。

ところが、(MaaSにおける)サービスという観点になると、もっと無限に稼ぎ出せる可能性もある。移動だけではない新しい価値を提供できる可能性があるからです。いいサービスを作りあげるサービサーが頂点になる構図になってきたそこの覇権争いをどうするんだ、という話になってきます。

――自動車メーカーも、製造業ではなく、サービス業への転換が必要になる。

やっぱりサービスを考えたときに、お客さまにとって喜ばれる、社会にとって価値があるものが絶対に残る、というのがベースになる思っています。

最近、トヨタが発表した(モビリティサービス専用次世代電気自動車)イーパレット(e-Palette)も見すえていることですが、今後日本では(高齢者が増えていくので)、移動困難者がどうしても増えてくる。

地域活性化の面でも、運転できない人もいるし、免許を返納しないといけないお年寄りも増えていくので、そのための移動の手段として自動運転やサービスというのは必要だ、となっていますよね。

ーー今井さんの目には、イーパレットはどんな風に写りましたか?

発表されたときに、トヨタのひとつの大きな解だなと思いましたね。やる必然がよくわかりましたから。

もしやらなかったら、電機メーカーがみんな作っちゃうわけです。電気自動車って本当に部品点数も少ないから、そんなにノウハウもいらない。

――エンジンもいらない。

そうそう。自動車メーカーがこの市場を全部取られちゃうと、潰れますよって話なんですよね。

あと、自動車メーカーって、(車を販売する)ディーラーがあるじゃないですか。ディーラーをちゃんと支えないといけない。そこで暮らしている人たちのおかげで、成り立っているものものすごくあるから。

――アメリカの自動運転車テスラはネットで買えるようになりました。試乗の機会も必要もなくなるのかもしれません。

少し前に、日本でも電機メーカーが全部直販になって、ネットで販売できるようになりましたよね。あれと同じことが自動車業界にも起こるかもしれません。

Maasで私たちの暮らしはどう変わる?

――Maasの時代に、街はどんな風に変わると思いますか? どんな風景になると楽しいでしょうか。

公園が増えるんでしょうね。公園に集う人が増えて、その周りにいろんなMaaS車両にぎわって。人の行動が変わってくるんじゃないでしょうか。

――都市計画も変わってきますよね。

新宿や渋谷などの都心は、鉄道をもとに土地が開発されて、そこに人口が集まっています。

そうじゃなくて、地方にMaaS車両がいっぱい集まるすごく素敵な広場ができあがれば、そこを中心に、街や文化が広がってくる可能性がありますよね。いいじゃないですか。

――例えば、これまでの駐車場スペースはどうなっていくでしょう?

MaaS車両がある限り、どこかに駐車しないといけないんだけど、そこは都市計画と一緒に空き地や空き家のスペースを使ってやっていくんでしょうね。

――もしかしたら道の駅がすごく変わって、もっと魅力的な場になる可能性もありますよね。

いま、ディーラー(販売店)を道の駅化しようって話をしてるんですよ。

最近ディーラーの人たちに講演するときも「車売る時代じゃなくて、サービスを売る時代になってきている」とお話しています。

例えば、ディーラーは、MaaS車両をもっといっぱい用意してMaaS車両のメンテナンスをするとか、MaaS車両を仕入れて、その地域用にカスタマイズするとか。

いまspodsが工場でやっていることを、ディーラーがやることになるかもしれない(笑)。そういうところに、ディーラーに残された道があるんじゃないかと思いますね。

――ディーラーは地域に根ざしています。その地域の特性を生かした道の駅が増えるのはワクワクしますね。

道の駅って色々な人が来てくれるじゃないですか。ディーラーも、車を買ってくれる人だけをお客さんにするんじゃなくて、色んな人が集まる場所になるといいですよね。

毎日のように、おばあちゃんが育てた野菜を持って来てくれたら、野菜を作ることが生きがいになりますよね。ディーラーの道の駅化は推進されるといいと思います。街の中心になるといいな。

――ディーラーは国道のいい場所にあって、休憩所やお手洗いがあります。夏祭りをしたり地方の工芸品を売ったり、魅力的な公園やギャラリーのような目的地になりますよね。

酔っ払ってもいいしね(笑)。


自分で運転する? 自動運転車に乗る?

――車には運転する人がいますが、自動運転車は、誰が一番使うことになると思いますか?

色々なところで議論しているんですけど、普通のコンシューマー向けの車は、使い分けられればいいんじゃないの?って思うんです。

ーー使い分ける?

要するに、自動運転モードと自分が運転できるモードが切り替えられればいい。

――ああ、いいですね。普段乗らなくても、ちょっと運転したくなったりしますね。

そうそう。全然乗らないとヘタになっちゃうから。

自動運転車は、1000万円とか2000万円とか、まだまだコストは高いと思うので、少し先の話になっちゃいますけどね。

――個人が使う車と、自動運転車は、用途が異なりますよね。

イーパレットは、必要としている地域に、必要としているサービサーが、自動運転を使ってやるモデルですよね。

(車のサイズも)数種類あるそうで、用途によってサイズも変わりますよね。

街づくりという意味では、移動困難者はすごく便利になるし、すごくいいと思います。

――一般の人が、自動運転車を呼びたくなったら、何で呼ぶと思います?

アプリですかね。(東南アジアの配車サービス大手の)GrabとかUberとかもそうですよね。あとは巡回してくると思います。昔の「富山の薬売り」のように、「今日この時間に、ここに来る」みたいな。

――巡回型のミニバスのようなかたちですね。家から停車スポットまでのいわゆる「ラストワンマイル」は徒歩になりますか?

いま「ラストワンマイル」じゃなくて、「ファーストワンマイル」という言葉で考えようよって話しているんです。

実は、最初の一歩を、家の中にいないで、ちゃんと動きたくなるものを作っていこう、というのが大事なんです。

それも免許がなくても乗れる。運転したくなくても乗れるものを作りたいよね。そうやって色々と考えています。


MaaS時代の街づくり

――MaaSの時代に、サービスのインフラ構築の予算をどこが負担するのか、という議論はどう思いますか。

ある委員をやっていて、MaaSの自動運転を生活者視点で考えて、それを普及するための課題について議論しています。

実際、自動運転車ってまだ高いじゃないですか。イーパレットだって最初はきっと高くなると想定されますよね。要するに、経済合理性は全くないわけないですよ。

――確かに。

やっぱり、軽自動車が経済合理性あるよねと。本当にその通りです。

じゃあどうするか、という話をしたときに、たとえば移動健診車とか移動行政車とかの話になりますよね。

ーー行政の取り組みは、多くの人のニーズがあるものですね。

実はヨーロッパでは、自動運転といっても必ず最低一人は乗ってなきゃいけない、という規制ができそうなんですよ。運転者はいなくても、何らかのサポートする人はいなきゃいけないのでは、という議論がされているんです。

ーー自動運転車とはいえ、サポートする人が乗る必要があるかもしれない。

最近、海外のMaaS事例を使って事業計画を立てているんですけど、結局、完全自動運転でなければ人件費が必要になるんですよ。

そうすると、稼働率を上げることと固定費を下げることが絶対に必要になります。

車体価格なら、仮に1000万だったら5年で償却すればなんとかなる、という話もあるけど、人件費はそういうわけにはいかないですよね。

――なるほど、行政側の人なのかサービサーのスタッフなのか。今後の都市計画やビジョンにも関わってきますね。


MaaSの時代に、自動車メーカーが目指すこと

ーー各自動車メーカーも、MaaSの動きをリードしていきたいと。

そうですね。(ソフトバンクとトヨタが共同出資した移動サービス会社)MONETテクノロジーズに、ホンダも出資して資本提携しましたよね。日野自動車も入っています。

最近は、マツダやスズキなど国内自動車メーカー5社も出資する方針を固めたと報じられていますよね。


――自動車メーカーはサービサーになれると思いますか?

なれるでしょう。なるしかない。spodsのようなクリエイティビティや多様性のある人たちと組む事によっていいものが創生できると思います。

そして一個ずつ素敵なものをつくることに大きな意味はないかもしれない。でも素敵な生活の変化をつくりたいですよね。

――車のカスタマイズのニーズはあるでしょうか?

MaaSを考えたときには、容易にカスタマイズができることはマストですね。いかに部品をユニット化し、容易にカスタマイズできる内装素材にしていくか。

さっきも話しましたが、採算性を考えると、いかに稼働率を上げるかが重要になります。眠っている時間を有効活用したいわけだし、ナイトタイムエコノミーにも使ってもらいたい。そういったことで(多用途に)回していくのが必然になってくるはずです。

――出身の自動車メーカーに期待することありますか?

かっこいい車をつくり続けて欲しいですね。

用途によって変わってくるじゃないですか。だから自分にとってかっこいいとか、そういう話になってしまいますが、乗りたくなる車をつくって欲しいですね。

動けばいいとか、みんなで乗ればいい、という話じゃない。自己表現のためのモビリティも、作り続けられたらいいなと。

――やっぱり、自分の好きな車に乗る、運転する喜びもありますよね。

そういう喜びは絶対あって、僕は、一台は絶対持っていたいですね。

自分のアイデンティティを出す車として、「なぜこの車を買ったんですか?」に答えられる一台があるといい。

稼働率悪いですよ(笑)。でも一台は持っていたいですね。

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photo: Eriko Kaji
text: Neko Sasagawa

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