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インクルーシブスポーツとは?横浜市スポーツ協会に聞くインクルーシブスポーツの取り組み

こんにちは。スポーツビジネス向上委員会の衣笠です。
 
2024年4月1日から内閣府より制定された「障害者差別解消法」により、事業者による合理的配慮が義務化されました。スポーツ業界においても障がい者、健常者といった隔たりをなくしてスポーツを楽しむ「インクルーシブスポーツ」が注目を浴びています。しかし、言葉だけがひとり歩きしており、内容までは周知されていないように感じます。
 
そこで今回はいち早くインクルーシブスポーツの推進に取り組まれている、横浜市スポーツ協会の青井様に推進の背景や、取り組み内容についてインタビューをさせていただきました。
 
誰もが手を取り合う共生社会の実現には、インクルーシブスポーツの考え方は非常に重要になると思います。ぜひご一読ください。



横浜市スポーツ協会の事業の歩み

1929年に前身の横浜体育協会が設立されてから今日に至るまで、横浜市スポーツ協会は横浜市民の明るく豊かな生活実現に向けて、スポーツの普及と競技スポーツの振興、市民の健康づくりなど、95年にわたり様々な活動を進めてきました。
 
時代の変化、流れに合わせて様々な取り組みを推進していく中、現在の横浜市スポーツ協会は「競技スポーツの推進事業」「生涯スポーツ推進事業」「スポーツ人材の養成・育成・活用事業」「スポーツ施設管理・運営」など主に8つの事業を大きな柱としています。その中のひとつが「インクルーシブスポーツ推進事業」です。

横浜市スポーツ協会のインクルーシブ推進事業

インクルーシブスポーツとは?

インクルーシブスポーツというと、まだまだ新しい言葉であるためすぐにピンと来る人は多くはないかもしれません。そもそもインクルーシブスポーツとはどういったものなのか? もしくはインクルーシブスポーツと聞いても、人によってイメージするものが違う場合もあるかと思います。その中で、横浜市スポーツ協会は「インクルーシブスポーツ」をどのように定義しているのでしょうか。

「インクルーシブスポーツとは、何事も包み込むという意味のインクルージョン(inclusion)という言葉から派生しています。いわゆる障がい者と健常者のスポーツが分かれていたり、あるいは障がいのある人や外国籍の人が除外されてしまっているのが現状だと思うのですが、障がいの有無、国籍、性別、年齢など問わず、誰もが参加できて一緒に楽しむことができるスポーツがインクルーシブスポーツであると、私たちは考えています」

そう話すのは横浜市スポーツ協会スポーツ事業部地域連携課長の青井純子さん。横浜市スポーツ協会では以前より横浜市リハビリテーション事業団と協力してパラスポーツの普及・推進に取り組んでおり、また障がいのある子どもたちが身近な地域でスポーツ活動に参加できる環境を作ることを目的に、横浜こどもスポーツ基金が2013年に創設されるなど、横浜市はもともと障がい者とパラスポーツに対する意識が高かった。しかしながら、多様性や共生社会がキーワードとなっているこれからの時代、「それだけではなくもっとその先、インクルージョンとして障がいの有無などに関係なく誰もが一緒にスポーツができることが大事なんだという考えになりました」と青井さん。インクルーシブスポーツという言葉自体がまだまだ聞きなれなかった2017年度から、インクルーシブスポーツ担当課長を設置。横浜市スポーツ協会は全国でもトップを切る早さでインクルーシブスポーツの推進に取り組み始めました。

横浜市スポーツ協会 スポーツ事業部地域連携課長の青井純子さん

インクルーシブスポーツの取り組み

インクルーシブスポーツ推進事業の中でも、象徴的なイベントとして2020年から毎年開催されているのが「インクルーシブスポーツフェスタ」。2023年はかけっこ、サッカー、車いすバスケ、障がい者フライングディスク、チアダンス、モルック、VRスポーツなど、パラスポーツやニュースポーツも含めて様々なコンテンツが三ツ沢公園で実施されました。

「事業の大きな軸の一つであるスポーツフェスタもそうですし、横浜市リハビリテーション事業団が運営している障害者スポーツ文化センター横浜ラポールやラポール上大岡、スポーツ推進委員、また横浜特有のさわやかスポーツ普及委員会など地域で活躍している皆さんと、それこそごちゃ混ぜになりながらイベントを作りあげられるのがインクルーシブスポーツ事業の一つの良いところだと思っています」

インクルーシブスポーツフェスタ2023
インクルーシブスポーツフェスタのイベント内容

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が重視される時代へと移り変わっていく中、最近では青井さんのもとに横浜市の各区、各団体から取り組みへの相談が多く寄せられているという。そうした状況を好機と捉え、地域での取り組みだからこそさらに多くの人たちや団体と密に連携を取りながら規模を一層拡大していける、そして「いろいろな人たちと一緒になって取り組むことで広がりが見えてくる」と青井さんは語ります。
 
「1つの団体ではできることが限られているから、私たちだけでやったとしても面白くはないと思います。ですが、地域で活躍している団体が得意なこと、例えば横浜ラポールさんは車いすレーサーを持っているので体験をお願いするなど、インクルーシブスポーツ事業ではそれぞれの団体が持っている能力・特徴を生かしながら一緒にイベントを作りあげていくことができた一つの良い事例だと思います。いろいろな団体と一緒に取り組むことで受け入れられる人数、種目、会場など選択肢が増えていくことが地域連携の利点。団体間のイベントを通じてお互いを知るきっかけができたのも良かったと思っています」

インクルーシブスポーツの「一歩先をゆく」横浜市スポーツ協会のユニークな取り組み

また、インクルーシブスポーツフェスタのみならず、青井さんのユニークな取り組みの一つに「横浜ゆるスポーツ協会」があります。これは「スポーツ弱者を、世界からなくす」をテーマに多種多様な“ゆるスポーツ”を生み出してきた「世界ゆるスポーツ協会」のはじめての地域支部として2017年に発足。例えば、激しく動かすと大声で泣き出してしまう特殊なボールを使ったバスケットボールである「ベビーバスケ」など、運動神経に関係なく誰もが楽しめる新たなスポーツの分野を普及・推進してきました。

世界ゆるスポーツ協会
ゆるスポーツ=老若男女健障
ゆるスポーツ5原則

このように、これからの時代にいち早くマッチした事業に邁進している横浜市スポーツ協会ですが、一方で先述したようにインクルーシブスポーツはまだまだ新しい言葉であり、広く世間一般に浸透しているものではありません。課題や改善点も残されています。
 
「やはり、通常のイベントと比べるとまだまだ参加人数が少ないと思います。障がいのある人も健常者も誰でも参加できますよと伝えても、『私が参加してもいいのかな』と皆さんは感じていらっしゃる様子でした。また、私どもで様々に考えたつもりでしたが、実際に車いすの人や外国籍の人が参加しづらい部分が見え隠れしていた部分もありました」
 
そうした反省から、具体的な解決策として考えているのが「運営側がもっとインクルージョンになること」。これは前任者からのアドバイスでもあり、青井さんは「見ている視点がそれぞれに違うから、気づきの観点も違ってくると思います。運営する側にも例えば外国籍の人、車いすの人などがいれば、もっと多くの人たちに届きやすい、参加しやすいイベントになったかもしれません」と話します。

横浜市スポーツ協会が見据える「インクルーシブ」の未来

それら改善点も踏まえ、青井さんが見据える横浜市の未来は「インクルーシブスポーツが日常的な一場面」になること――。
 
「パラスポーツとはまた違う、誰でも気軽に参加できるインクルーシブスポーツというワードを一人でも多くの人に耳慣れていただきたいと思っています。例えば横浜市の各18区よりももっと細分化された町内で体験会などが行われ、あそこに行けば毎月第何曜日にやっているよね、というくらいに日常化していくことが私たちの最終ゴール。そこに向けて、まずはインクルーシブスポーツって何だろうというところを知ってもらうフェスタなどのイベントも大事にしつつ、もう一方の裾野的な部分で各区、各町内で体験や知ってもらうための工夫を着々とやっていきたいと思っています」
 
そして、横浜市スポーツ協会と同じく現在インクルーシブスポーツの推進事業に取り組んでいる、あるいは将来取りみたいと考えている団体、企業、チームに向けて、青井さんは次のようなメッセージを送りました。
 
「この事業はインクルーシブというくらいですから、色々な人の多様なニーズを取り入れて進めていくものです。その意味で言いますと、一団体ではできないこともすごく多いので、私たちの取り組みに何か少しでも面白い、興味あるなと思う部分がありましたら、ぜひご一緒しませんか。そこからどういったことができるのか、一緒に考えていけたらと思っています」


横浜市スポーツ協会ではスポーツイベントだけでなく、情報を発信する公式ウェブサイトにおいてもアクセシビリティ方針を定め、障がいの有無や年齢に関わらず同じように利用できるサイト作りにも対応するなど、誰も取り残さない社会へ向けての歩みを進めています。
 
横浜市スポーツ協会が取り組む新たなスポーツの可能性は、あらゆる多様性を認め合い、誰もが手を取り合う共生社会の実現に向けた大きな架け橋となりそうです。今回インタビューにご協力いただき改めてありがとうございます。

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