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『町じゅうのゴミ捨て場にパンダ』上演台本

はねるつみき・その3『町じゅうのゴミ捨て場にパンダ』

脚本:常住奈緒(はねるつみき)演出・上演台本:安保泰我(冗談だからね。)

【登場人物】
なひこ:ストリートチルドレン。パンダを密かに飼っている。
拓斗:なひこの同級生。稜の弟。にゃのことが好きじゃない。
孝成:なひこ・拓斗の同級生。家が貧乏。
委員長(権田):孝成の同級生。学級委員長。孝成のことが好き。

にゃ:稜の婚約者。
稜:拓斗の兄で、にゃの婚約者。ゴミ収集員。

サワラダ:なひこたちの通う中学校にやってきた教育実習生。
金子:なひこたちの担任。テニス部の顧問。

パンダ:ある日、突然ゴミ捨て場に捨てられていたパンダ。


【凡例】
・本稿は、演出家による、編集(加筆・修正)が施されています。

・音楽と明記されているものは、あくまでも想定していたもので、実際に使用したかについては定かではありません。


【エピグラフ】

何もおかしいところは無い 全く当然のことばかり
むしろ異常なのはおまえ自身 むしろ環境とはおまえ自身

それすら知らずに サン・グラスをかけて やたら喚くだけとは

おまえが退屈なのは

おまえが退屈なのは当然 おまえが退屈なのは当然 おまえが退屈なのは当然
おまえが退屈なのは当然 おまえが退屈なのは当然

INU「メリーゴーランド」 町田町蔵



【   】

 いつもの花まる学習会王子小劇場、もしくはG/PIT。

 しかし、ロビーで受付を済まし、劇場内へと足を踏み入れると、

 そこは、ゴミ捨て場(あるいは出来損ないのキャッツシアター)。

 大量のゴミ袋が劇場内を埋め尽くしている。かといって不潔な印象は受けない。むしろ白銀の世界。それに色を灯すように鮮やかな照明(パンダ柄の明 かりをミラーボールに反射させ蔓延らせたい)と、底抜けに明るいミュージ カルナンバーが場内をご機嫌に彩っている。

 舞台の真ん中に、パンダの目元のような形の大きな浮島。その周囲に幾つか の浮標(大きさにバラつきがある)があって、登場人物たちはその浮標を飛 び移って移動する。また浮標にはそれぞれ音がついていて、その場所を踏み しめると鳴るようになっている。

 開演時間。

 音楽。/ ゆのもきゅ「インドア系ならトラックメイカー」

 音楽、高鳴って。

 夜が更けていくように、暗転。



【 〇 】

 パンダ、舞台ではないところに、じんわりと浮かび上がる。

パンダ「さびしい。今日もわかってもらえなかったから。そして、明日もわかってもらえないから。毎日、目の前にあるのは、さみしさが怒りに変わってしまった人たちの戦争です。さみしさで刺す君、さみしさで刺される君。あたしは何にもできないから、ただのゴミクズ。……君のためになれないのがさびしい。このままじゃあたしまで刺し違えてしまう。君を傷つける前にあたしたちはみんなで、線路に身を投げたの」

 その瞬間、上から何かが降ってきて、地面に叩きつけられる。
 ものすごい音と共に、光射し、地面をかき鳴らす。
 その音がいつまでも響いている。


【 ① 】

 やがて段々と夜が明けて。

 翌朝、町のゴミ捨て場。
 朝靄が、かかっていて、辺りははっきりしない。

 ゴミ収集員(稜)が、ゴミを回収に来る。
 そこで、蠢く何かを見つける。……ストリート・チルドレン(なひこ)だ。
 前日に出されたのであろう、ゴミ袋を枕にして、眠っている。

稜「君、そこに住むのはやめてくれない? 君。……汚いよお。…よくこんなとこで寝れんな。」

 何も返答がない。

稜「おーい、ゴミ、回収させてくれよお。おーい。……君ごと回収しちゃうぞ。」

 むしろ寝息が一層激しくなる。

稜「……ゴミみてえなやつばっかだな。」

 稜、曜日を誤って捨てられている、粗大ごみの角材が目に入る。
 それを手に取り、ストレートチルドレンを目掛けて、振り上げる。
 そんな時、ゴミ袋を掻きだし、パンダが這い出てくる。

稜「………うわあああああ、ああああ!!!! うわ! パンダ! パンダ?! え、パンダ! え!?」

 稜、逃げかえってゆく。

サワラダ「今朝、町じゅうのゴミ捨て場に、パンダが捨てられていた。それはほんとにみんなびっくりして、朝から夕方まですべてのワイドショーが、この町とパンダについて取り上げてたけど、そこまで広がりのある問題じゃなかったみたいで、広がりってか、計画的な犯行だとか、社会問題に通じる話だとか、テロとか、なんかそういうノリじゃなかったらしくて、感想を求められたコメンテーター困ってて超どもっててかわいそうだった。パンダもパンダで、パンダが好きな人に見つかり次第拾われていったから、町じゅうのゴミ捨て場のパンダはあっという間に姿を消して、それに比例してパンダの話題は上がらなくなった。えー、パンダ、ゴミ捨て場に捨てられるなんて、超かわいそうな思いしたのに、そのムードすぐ終わっちゃってめっちゃかわいそう。って、みんな思った。」

パンダ「(ハッと驚いて、)町じゅうのゴミ捨て場にパンダ?」


【 ② 】

 集合住宅の前。そこには拓斗と孝成が暮らしている。
 なひこは、いつもこの時間、ここで拓斗と孝成を待っている。

なひこ「おい!、……おいって!」
拓斗「(遠くから)ちょっと待って!」
なひこ「おい! てめえ! 遅いな! そこじゃん! お前ってそこだよな! そののろさがさあ! のろさが全てのネックだよな! なんかさ! 今のさ! 私がお前を待ってるっていう! お前が私を待たせてるっていうさ! この時間がお前の人間性のさ! まさに全てを表してるよな! 別にいいんだよ私は! でもお前ってそうじゃん? なんか勿体無いよねそういうところ! いやいいんだけどさお前の人生だから! でも遅いよね! こんなに遅いとさ! むしろちょっと才能なのかもね! 短所もいくならとことんなのかもね! でもそいよね! てめーってそうだよね! おい!」

 パンダを背負った拓斗が現れる。

拓斗「いやめっちゃ重いんだよ、」
なひこ「てめえ男だろうがよ」
拓斗「いや男とか女とか関係ないだろ、時代遅れかよ」
なひこ「は? 男とか力あるだろ当たり前に。ばかじゃん?」
拓斗「いや明らかにお前のほうが体重重いんだから俺より力あんだろ」

 なひこ、拓斗をカバドンする。

拓斗「(大きくよろけて、)まじでなんでそういうことするわけ」
なひこ「なんでそういうこというわけまじで!?」
拓斗「なんで人のことそうやってさーカバドンすんの?」
なひこ「は?」
拓斗「え、なんなの? なんで今カバドンした?」
なひこ「は?」
拓斗「(舌打ち)え、マジで嫌い。ちょっとお前まじで嫌いだわ」
なひこ「ねえ、ここ置いて」

 拓斗がパンダを地面に置く。

なひこ「わー、パンダだ! 可愛いー!」
拓斗「……どうすんのこれ?」
なひこ「パンダってなに食うのかな」
拓斗「笹だろ普通に。」
なひこ「ああ笹か! 笹ってどこに生えてんの?」
拓斗「えっ飼うの?」
なひこ「飼うだろ、当たり前だろ」
拓斗「いやいや、本気? 」
なひこ「本気だよ」
拓斗「笹なんてこの辺生えてないよ?」
なひこ「あのさあ! 生き物が捨てられたっていう、これを見過ごせるのか君は」
拓斗「いい奴ぶんな」
なひこ「ぶってねーし、いい奴だし」

 孝成が走ってやってくる。

孝成「おはよう! (パンダを見て)うわなんこれ? え、パンダ?」
なひこ「おっせーな」
孝成「少し寝坊したごめん 先行っててよかったのに」
拓斗「いや、」
孝成「ねえ、なにこれ?」
なひこ「見りゃわかるだろ」
孝成「え? (よく見る)うわ! 本物じゃん! どうしたの? これ」
拓斗「あっちのゴミ捨て場に落ちてた」
孝成「どういうこと?」
拓斗「落ちてたんだよ」
孝成「パンダが? なんで?」
なひこ「わからん、捨てられてた」
孝成「えええ。なんで拾ったの」
なひこ「飼うんだよ。捨てられてたからな」
孝成「飼うの!?」
なひこ「そう」
孝成「めっちゃイイじゃん」
なひこ「だろ?」
拓斗「いやいや」
なひこ「ここら辺を、なんか飼える感じにしたいんだよね、葉っぱとか敷いてさ」
孝成「やろやろ」
なひこ「最高お前」
孝成「よっしゃじゃあやるか」
なひこ「私あっちから葉っぱ持ってくるわ」
拓斗「ねえ朝練は?」
なひこ「知るかよマジ」
拓斗「え、マジで言ってる?」
孝成「緊急事態だぞお前」
なひこ「そうだろうがよ」
拓斗「サボんの? 朝練」
なひこ「うっせーなつまんねー男だな この状況、状況だろうがよ」
拓斗「俺サボりとかごめんだぞ」
孝成「えー拓斗も手伝ってよ」
拓斗「勝手にやってろよ。(上の方へ)にーちゃん!」
なひこ「おいっ隠せ!」
拓斗「(上を向いて)にーちゃーん!」
稜「(上の方から)なに?」
拓斗「ちょ車出して!」
稜「車—?」
拓斗「朝練遅刻しそうー!」
稜「いや無理! パパパ、パンダの呪いがあ!」
拓斗「頼むって!」
稜「無理なもんは無理ー」
拓斗「え! ちょっと! にーちゃん!」

 稜、部屋へと戻る。

拓斗「おい!」
なひこ「朝練は諦めるだな」
拓斗「殺すぞまじで」
なひこ「うっせー、このザーメン」
拓斗「は!? チッ あんだよ!(カバドン)」
なひこ「(倒れこむ)」
拓斗「…いやお前だかんな!」
孝成「ちょっとちょっと」
拓斗「俺は朝練行くからな!」
孝成「あっパンダうんこしてる!」
拓斗「知らねーよ!」


 拓斗、学校へと急ぐ。

なひこ「…クッソ! 死ね!」
孝成「どうするこれ?」
なひこ「飼うに決まってんだろ!」
孝成「だよなー」
なひこ「絶対あいつも手伝わせてやる お前も手伝え」
孝成「おう」
なひこ「早く葉っぱ拾ってこいよ」
孝成「あ、うん」

 孝成、葉っぱを探して草むらへといなくなる。

なひこ「むっかつく! 全員死ね!」

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