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『町じゅうのゴミ捨て場にパンダ』第一稿

・本稿は、演出家による改訂が行われる前の、いわゆる初稿と呼ばれる、演者・関係者にだけ配布された台本です。上演時に使用されたもの、公演時に販売されたものとは異なります。

【登場人物】
なひこ:ストリートチルドレン。パンダを密かに飼っている。
拓斗:なひこの同級生。稜の弟。にゃのことが好きじゃない。
孝成:なひこ・拓斗の同級生。家が貧乏。
委員長(権田):孝成の同級生。学級委員長。孝成のことが好き。
にゃ:稜の婚約者。
稜:拓斗の兄で、にゃの婚約者。ゴミ収集員。
サワラダ:なひこたちの通う中学校にやってきた教育実習生。
金子:なひこたちの担任。テニス部の顧問。
パンダ:ある日、突然ゴミ捨て場に捨てられていたパンダ。




パンダ「さみしい。今日もわかってもらえなかったから。そして、明日もわかってもらえないから。毎日、目の前にあるのは、さみしさが怒りに変わってしまった人たちの戦争です。さみしさで刺す君、さみしさで刺される君。本当はわかりあいたいだけなのにどうして傷つけあっちゃうんだろう。なんかがおかしいって気づきながら、あたし臆病で何にもできないから、ただのゴミクズ。……君のためになれないのがさびしい。このままじゃあたしまで刺し違える。君を傷つける前にあたしたちはみんなで、線路に身を投げたの」

 段々と夜が明けて。朝。
 町のゴミ捨て場。靄がかっていて、辺りははっきりしていない。

 稜が、ゴミを回収に来る。
 そこで、蠢く何かを見つける。……パンダだ。

稜「……んんん!? うおおお? んんん? うおああ!」

 稜、慌てて逃げ帰っていく。

にゃ「次の日、パンダが、町じゅうのゴミ捨て場に、捨てられていた。それはほんとにみんなびっくりして、朝から夕方まですべてのワイドショーが、この町とパンダについて取り上げてたけど、そこまで広がりのある問題じゃなかったみたいで、広がりってか、計画的な犯行だとか、社会問題に通じる話だとか、テロとかなんかそういうノリじゃなかったらしくて、感想を求められたコメンテーター困ってて超どもっててかわいそうだった。パンダもパンダで、パンダが好きな人に見つかり次第拾われていったから、町じゅうのゴミ捨て場のパンダはあっという間に姿を消して、それに比例してパンダの話題はすぐ教室で上がらなくなって、えー、パンダ、ゴミ捨て場に捨てられるとか超かわいそうな思いしたのに、そのムードすぐ終わっちゃってめっちゃかわいそー、パンダ」

パンダ「はねるつみき 町じゅうのゴミ捨て場にパンダ」

なひこ「おい!」

 何も返答がない。

なひこ「おいって!」
拓斗「(遠くから)ちょっと待って!」
なひこ「おい! てめえ! 遅いな! そこじゃん! お前ってそこだよな! そののろさがさあ! のろさが全てのネックだよな! なんかさ! 今のさ! 私がお前を待ってるっていう! お前が私を待たせてるっていうさ! この時間がお前の人間性のさ! まさに全てを表してるよな! 別にいいんだよ私は! でもお前ってそうじゃん? なんか勿体無いよねそういうところ! いやいいんだけどさお前の人生だから! でも遅いよね! こんなに遅いとさ! むしろちょっと才能なのかもね! 短所もいくならとことんなのかもね! でもそいよね! てめーってそうだよね! おい!」

 パンダを背負った拓斗が現れる。

拓斗「死ね」
なひこ「は?」
拓斗「いやめっちゃ重いんだよ、これ」
なひこ「重そう」
拓斗「持たせてる分際で何さっきの? 酷くない?」
なひこ「てめえ男だろうがよ」
拓斗「いや男とか女とか関係ないだろ、時代遅れかよ」
なひこ「は? 男とか力あるだろ当たり前に。ばかじゃん?」
拓斗「いや明らかにお前のほうが体重重いんだから俺より重いもの持てるだろ。」

 なひこ、拓斗をカバドンする。

拓斗「(大きくよろけて、)まじでなんでそういうことするわけ」
なひこ「なんでそういうこというわけまじで!?」
拓斗「ねえめっちゃよろけたんだけど!」
なひこ「は? 何が?」
拓斗「なんで人のことそうやってさーカバドンすんの?」
なひこ「は?」
拓斗「え、なんなの? なんで今カバドンした?」
なひこ「は?」
拓斗「(舌打ち)え、マジで嫌い。ちょっとお前まじで嫌いだわ」
なひこ「ねえ、ここ置いて」

 拓斗、パンダを地面に置く。

なひこ「わー、パンダだ! 可愛いー!」
拓斗「……どうすんのこれ?」
なひこ「パンダってなに食うのかな」
拓斗「えっ。笹じゃない?」
なひこ「あー、笹かあ、」
拓斗「えっ飼うの?」
なひこ「飼うだろ、当たり前だろ」
拓斗「いやいや、本気?」
なひこ「本気だよ」
拓斗「マジかよ…」
なひこ「あのさ生き物が捨てられたっていう、これを見過ごせるのか君は」
拓斗「いい奴ぶんな」
なひこ「ぶってねーし、いい奴だし」
拓斗「いやこれ、どうすんのこれ」

 孝成が走ってやってくる。

孝成「おはよう! (パンダを見て)なんこれ? パンダ?」
なひこ「おっせーな」
孝成「少し寝坊したごめん 先行っててよかったのに」
拓斗「いや、」
孝成「ねえ、なにこれ?」
なひこ「見りゃわかるだろ」
孝成「え? (よく見る)うわ! 本物じゃん! どうしたの? これ」
拓斗「あっちのゴミ捨て場に落ちてた」
孝成「どういうこと?」
拓斗「落ちてたんだよ」
孝成「パンダが? なんで?」
なひこ「わからん、捨てられてた」
孝成「えええ。なんで拾ったの」
なひこ「飼うんだよ。捨てられてたからな」
孝成「飼うの!?」
なひこ「そう」
孝成「それさ めっちゃイイじゃん」
なひこ「だろ?」
拓斗「いやいや」
なひこ「ここら辺を、なんか飼える感じにしたいんだよね、葉っぱとか敷いてさ」
孝成「やろやろ」
なひこ「最高お前」
孝成「よっしゃじゃあやるか」
なひこ「私あっちから葉っぱ持ってくるわ」
拓斗「ねえ朝練は?」
なひこ「知るかよマジ」
拓斗「え、マジで言ってる?」
孝成「異常事態だぞお前」
なひこ「そうだろうがよ」
拓斗「朝練サボんの?」
なひこ「うっせーなつまんねー男だな この状況、状況だろうがよ」
拓斗「俺サボりとかごめんだぞ」
孝成「えー拓斗も手伝ってよ」
拓斗「勝手にやってろよ。(上の方へ)にーちゃん!」
なひこ「おいっ隠せ!」
拓斗「(上を向いて)にーちゃーん!」
稜「(上の方から)なに?」
拓斗「ちょ車出して!」
稜「車—?」
拓斗「朝練遅刻しそうー!」
稜「いや無理! 俺ももう仕事出るからー」
拓斗「頼むって!」
稜「無理なもんは無理ー」
拓斗「え! ちょっと! にーちゃん!」

 稜、部屋へと戻る。

拓斗「おい!」
なひこ「朝練は諦めるだな」
拓斗「殺すぞまじで」
なひこ「ウッセー ザーメン」
拓斗「は!? チッ あんだよ!(カバドン)」
なひこ「(倒れこむ)」
拓斗「…いやお前だかんな!」
孝成「ちょっとちょっと」
拓斗「俺は朝練行くからな!」
孝成「あっパンダうんこしてる!」
拓斗「知らねーよ!」

 拓斗、学校へと急ぐ。

なひこ「…クッソ! 死ね!」
孝成「どうするこれ?」
なひこ「飼うに決まってんだろ!」
孝成「だよなー」
なひこ「絶対あいつも手伝わせてやる お前も手伝え」
孝成「おう」
なひこ「早く葉っぱ拾ってこいよ」
孝成「あ、おう」

 孝成、葉っぱを探して草むらへといなくなる。

なひこ「むっかつく! 全員死ね!」

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