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【開運酒場】なにゆえ飛騨なのに東海道?怪しすぎる飲み屋街で開運札を奉納〜岐阜県・高山市〜

いまや、日本中のどこにでもいる、インバウンド。

外国人観光客を表すこの言葉、いつ誰が使い始めたのか知らないが、何となく語呂がいいからか、外国人観光客が落とす金がないとやって行けない後ろめたさがカタカナ言葉で薄まるからか、猫も杓子も「インバウンド」の多用で、もはやうんざりを通り越して、何か実態のない空想の生き物のことのようで、なんだかおかしい。

「インバウンドあらわる!」
「インバウンド、東京を席巻!」

おーい、地球防衛軍の出番だよ〜。
え、あまりに多すぎて人が足りない?
だったら移民に頼めばいいよ。目には目を歯には歯を、外国人には外国人を──。

えー、ブラックが過ぎました。

そんなことを思ったのは、旅した岐阜県の飛騨高山が、案の定外国人観光客で溢れていたから。

昼だけでなく夜の飲屋街まで。

飛騨高山で飲み屋街といえば、居酒屋が多い一番街と、スナック中心の二番街ということになるが、どちらにもインバウンドがわんさか。どこか違う国に来たようである。

しかし、そんなインバウンドの侵略もさすがに及んでいないだろうと思われるディープな酒場街を見つけた。

その名も「東海道」。

地元の友人によれば、呑んべえが最後に行き着く場所で、小さい頃は“近よっちゃダメ”と親に言われていたそうだ。

しかし岐阜といえば馬籠宿などがある中山道。なぜ東海道?

その場所はJR高山駅北口から徒歩5分ほど、一番街と二番街を抜けた奥にある。

目印は火除けの秋葉神社の小さな祠。民家の石垣の脇を抜け、薄暗い小道を少し進むと、ネオン輝く一角が見えてきた。

最初に目についた店は「ふじ川」。おそらく日本橋から37番目の宿場・藤川宿のことだろう。その隣には「濱松(同29番目)」「ひらつか(同7番目)」「亀山(同46番目)」と続く。ふじ川と浜松の間の路地にも店があり、こちらは「由比(同16番目)」「藤沢(同6番目)」「舞阪(同30番目)」「小田原(同9番目)」と並ぶ。後日グーグルマップで「大磯(同8番目)」と「日本橋(同起点)」も見つけたが、もしかしたら他にもあるのかもしれない。いずれにせよ全宿はなさそうで、順番もまちまちのようだ。

とりあえず一番入りやすそうな「濱松」に入ってみた。予想外に目新しく、奥にはソファ席が。

「なぜ東海道? なぜですかねえ? 実は今年4月にオープンしたばかりで。以前は吉原という店でした」

吉原は14番目の宿場だ。これはもっと古い店で聞くしかない。名物だという浜松餃子と九州出身のマスターイチ押しの焼酎で一杯やると、隣の「ふじ川」に突入した。

ふじ川はカウンターだけのスナック風で、壁には神社の木札のような板がビッシリ。あれ、電波系ですか?

「はは。これはお客さんの一言を貼ってるのよ。常連さんがやり始めたことなんだけど、今は初めてのお客さん全員にお願いしてるの。はい、書いて」

そう言って木札とペンを渡すママさん。11年前からこの店をやっているという。

「飲み屋街自体は60年くらい前からね。オーナーが東海道好きだったかららしいわよ。いまは全部で11軒」 

つまりこの飲み屋街は個人の持ち物で、今もそれは継続中というわけ。流行りの“横丁”の走りのようなものか。そりゃ60年もたてば商業施設っぽさも抜けるわな。

数多の呑んべえ達の“念”が、ひしひしと木札から滲み出てくるような店内。完全にパワースポットだ。いや、この東海道という飲屋街自体がそうだろう。いい酒場はある特定の人間を惹きつけるオーラがあり、と同時に、ある特定の人間を跳ね返す結界のようなものを兼ね備えている。

その特定の人間とはどういう人間のことを言うのか。また、自分はそのどちら側の人間なのか。

答えは簡単だ。

また来たいと思えれば、内側の人間である。結界で守られながら飲む酒はことさらに旨い。

岐阜に来て東海道の宿場めぐり。

さて、お次はどの宿で飲もうか……。


※日刊ゲンダイで毎週水曜日連載中の「東京ディープ酒場」の記事を著者自らが大幅に加筆修正しました。


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