【小説】ラヴァーズロック2世 #28「プレゼント」
プレゼント
御者台にはふたりの女が座っている。
向かって左側、むっちりぷよぷよの二の腕で手綱を握っているのが、ブルーバードの母親。
息子に負けず劣らずの大女で、体を覆うグレンチェックのラシャワンピースはワンサイズ上の体型が隠せるタイプ。
色黒で眉毛は太く、低くかすれた野太い笑い声を前歯のない口から連射する。
本人は母親だと言い張っているが、息子のブルーバードには母親との思い出が全くないのだった。
右側に座る荷下ろし担当の姉は、母親より二回りほどデカく、ひっつめ髪にデニムのサルペットを着ている。
彼女のほうは母親とは対照的で、無口で無表情。姉との思い出も当然ながらないのだが、正直なところブルーバードにしてみれば、母親と姉というよりも、ただ単に食料を定期的に補充してくれるふたりの女であって、それ以上の価値は全く感じないのだった。
だから、彼女たちと自分は、はたして本当の家族なのだろうか、などと考えたことは一度もなかった。
そもそも、ブルーバードには過去の記憶がほとんどなく、昔どこで暮し、いつここにやって来て、何のためにこの仕事、荒れ地をパトロールするだけの仕事に就いているのかも、全くわかっていないのだから……。
「このチンポ野郎! 出ておいで!」
ここから先は
2,506字
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?