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お題企画小説

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皆さんからいただいたお題で書いた800字〜1000字未満の掌編小説集。 お題はいつでも募集中。 書き上げた小説は文字数を足して再掲することもあるかもしれない。
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記事一覧

真綿(お題:14歳で産んで生き別れた赤ちゃんと再会する)

真綿(お題:14歳で産んで生き別れた赤ちゃんと再会する)

 忘れられないことがある。それは、時が経てば経つほど、真綿のように優しくわたしの首を絞めていく。
 まだ子どもだった頃に起こった悪夢のような出来事。それから25年経ち、愛する人と、これから生まれてくる愛しい命に恵まれても、真綿の紐は、わたしの首を捉えて放すことはない。ふとした瞬間に、脳裏をよぎるのだ。あの子は、この世に生まれて幸せだったのだろうかと。いつも、いつも。
わたしの頭を悩ませていた疑問は

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穏やかな熱(お題:雪、手のひら)

穏やかな熱(お題:雪、手のひら)

「もう冬か」
「まだ夏だよ」

いや、秋か。と一人呟く男を見て、もう少し面白い返しはないのかと呆れた。真面目すぎる。

「0点」
「低すぎる」

返事をしただけなのに酷い仕打ちだな。男が存外楽しそうに言う。あなたの返しはちっとも面白くないのだけど。目で訴えると、男は苦笑を漏らした。

「わかりやすい?」
「結構、わかりやすいよ」

俺にとっては。
悪い気はしないな。
可愛げがないな。
可愛くなくて

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愛し君へ(掌編小説:お題「朝焼け 夕顔)

愛し君へ(掌編小説:お題「朝焼け 夕顔)

真っ赤に染まる雲は、燃え盛る炎にでも包まれているようだ。
ふ、と息を吐いて横の少年を見る。自分から「朝焼けが見たい」と言ったくせに、呑気に欠伸をしている。

呆れながら、朝焼けに視線を戻す。あの雲に触れたら熱そうだな、と思った。そりゃあ、あの綺麗な白い花も萎んでしまうわけだ。

「眠い」

隣の少年が呟く。人をこんな所まで連れてきて何を言っているのやら。失礼だと思わないのか、と溜息を吐く。

「呆

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小さな世界のお話(掌編小説:お題「雨降る日の怪談」)

小さな世界のお話(掌編小説:お題「雨降る日の怪談」)

梅雨の日だった。しとしと雨が降っていて、休業中のお店の屋根を借りて雨宿りをしていた。小雨なら傘がなくとも帰れはするのだが、その日は何となく、のんびりと雨が止むのを待とうと思った。

(……天気予報士はよく嘘を吐く)

全てはデータではないということか、はたまたデータの読み違いか。どちらでも構わないけれど、信じている身にもなって欲しい、と内心ごちる。

「こんにちは。雨、止まないね」

不意に、横か

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「人と同じものを見よ」(掌編小説 お題:クオリア)

「無理でしょ」

当たり前だといったトーンで、少女は言い捨てた。一蹴された少年は呆気に取られてから、ふっと息を吐いた。苦笑を浮かべる。

「冷たいな」
「そう?でも、無理なものは無理だわ」

「人は同じものを見られるか?」というのが、本日の二人のお題だった。少年が持ってきた題なのだが、それを口にした瞬間元も子もない結論を言われるのだから、少年は乾いた笑みを浮かべるしかない。

「だって

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