揺れる秋からの冬の物語

細かく振動する秋が過ぎ
その震えはさらに細かく冬になる
そこに歯を当てれば振動で歯茎が痛み
耐えられない沁みに苦痛に奥歯を噛み締める
きっと来る春のことなど考えられずに
ただひたすらに痛みに耐える
何かを見ていられなくなり目を瞑り
ただ感覚を研ぎ澄まし
さらに大きくなる痛みに集中する
その痛みは刃物で肌を切り開き肉を抉る痛みとは違う
極寒の極地に投げ出されたかさぶたの禿げた傷口のような痛みだ
ああ嫌だ!
僕は冬を心底愛しているが
ああ嫌だ!
零下の世界にはびこる雪の結晶のような美しさが
厳冬の残酷さを隠している間に
残したくもない命の凍結が死を拒む
死ぬことさえも拒絶するこの寒さに
百万年前の生命のかけらが僕の上に降り積む
愛だと?
愛だと?
何度問いかけても吹雪の白みの奥は見えず
僕は立ち尽くしそのまま氷柱になるのか
愛だと?
凍るような愛だと?
それを受け止める器のかたちに僕の心はなることが出来ないから
背を向けて痛みを背負うことにするのだ
愛だと?
その文字を広大な半紙の上に書きたくもないと
唸りながら墨汁の海に沈むのだ
白と黒の冷徹な空よ
見上げても数cm先しか見えず
僕は音もなく倒れ込む
それは死か生か
誰もわからず
誰なのかもさえわからない

静寂

その世界に祈る


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