親愛なるベネディクトへ


ベネディクトが部屋に戻ると、机の上に見慣れない便箋が置いてあることに気がついた。差出人の名前は、エマヌエル・ユルゲンス。逸る鼓動を抑えながら、ベネディクトは封を切った。

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やあ。突然の手紙でごめん。まずはこの手紙を書いたからと言って僕がどこかに旅立つということはないので心配しないで。ああ、君がすごく安堵する顔がみえるよ。それくらい君には沢山迷惑をかけているからね、しょうがないとは思う。

何故こうして手紙を書こうと思ったかは、正直僕にもよくわからないんだ。ただ、僕はあまり言葉を伝えることが上手ではないので、自分のことを伝えるとしたら文字に書き残すのが一番だと思った。だから照れくさいし、今更だけど、この手紙を贈ります。
僕には、3人の神様が居た。という話はもうしたよね。改めてその話がしたくて、手紙を書いた。
押し付けがましいことをしてしまって、すまないと思う。けれど、僕の今までの人生を、読んでくれると嬉しい。

初めの神様は、僕の父方の祖母だった。生まれついて顔に痣がある僕を気味悪がって、母は僕を施設に預けようとしたらしい。けれどそれはあまりにもかわいそうだと言ってくれた父方の祖母が僕を引き取ってくれたんだ。あの人はたまに顔を見せるくらいで僕に寄り付こうともしなかった。おかげで僕は母のことを良く覚えていない。
祖母は僕の母も同然だったし、人生の全てだった。幼いながらに僕を拾ってくれた祖母に深く感謝していた。もし彼女が居なかったら僕は一体どうなっていたのだろうと、考えただけで夜が長くなる。涙を流す度に頭をなでてくれる、抱きしめてくれる、そんな祖母のことが好きだった。
その頃はまだ、こんなマスクなんかしてなくて、痣を見せびらかすようにして学校に通っていたのだけど、大きくなるにつれてDVじゃないかって疑う大人が多くなってきたし、いちいち説明するのも面倒だからつけっぱなしになった。けれど僕は別に気にしていなかった。僕の顔を見て「悪魔」だと言うやつも居たけれど、そういうやつは大した奴じゃないとあしらっていたよ。書いててちょっと懐かしくなってきた。
義務教育が終わった15の時、祖母が亡くなった。その頃にはもう父も母も離婚していて、僕は父に引き取られることになった。しかし父には新しい家族が居て、僕の肩身はとても狭かった。幸いにして父のコレクションしていた日本のコミックが僕の心の拠り所だった。色んなコミックを読んだけれど、一番面白かったのは「らんま」かな。今度貸してあげる。結構面白いんだよ。あの頃の僕の生活は、すごく悲惨だったけれど、今日本に居るきっかけとなったものと出会えたから、そう悲観的にはなれないかなって、そう思う。
二人目の神様に出会ったのは、大学の頃だった。僕はそれはそれは勉強したので、それなりにいい大学に行ったんだ。彼女はとても優しく僕にいろんなことを教えてくれた。そう僕の二人目の神様は、大学のゼミの恩師。心理学に精通している心の綺麗な人だった。彼女は僕に色んな道を説いてくれた。その中の1つが、伍研だった。研究者への道に加えて、日本に興味があるということも汲んでくれた、とても優しい先生だった。彼女とは今でも連絡を取り合っている仲だよ。(後で聞いた話だと、先生と所長はやっぱり知り合いだったみたい!)
三人目は——君もよく知る「蒲田全」だ。彼はとても美しかった。人間でこんなに美しい人を、僕ははじめてこの眼にしたんだ。初めてのことも教えてくれた。僕にとって彼に触れるということは、新たな世界に触れることだったから。僕は初めて恋をしたんだ。経験のある君から見れば、取るに足らないことかもしれないけど(そういえばアリスにもそういう顔されたな)、こんな顔でも許されることがあるんだって思うと、身体がドキドキして晴れやかな気分になった。今思えば盲信にも似た何かだったと思う。そんな気持ちで彼のことを良く観察した。けれど、結局僕は彼のことは良くわからなかった。アリスが彼のことを良くわかっているようだったから、そこはとても安心してるんだ。本当だよ。ちょっと前までは憎くてたまらなかったけれど。でも、案外良いやつなんだってわかったし。あいつ、あんなことしても僕に話しかけてくれるんだ。本当に、ばかだよね。
僕は彼の事を酷く怯えさせてしまった事を、酷く後悔してる。色んな人にも迷惑をかけたし、一歩間違えれば人を殺してたかもしれない。君が止めてくれなかったら、今みたいな穏やかな気持ちにはなれなかっただろう。本当に、感謝してもしきれない。
君は言ってくれたね。この世界には対面よりも、顔よりも、もっといいものがあるって。僕の為に一生懸命になってくれた君の言葉だから、それを信じたい。
それが何なのか、僕には分からない愚かな僕だけれど、君となら見つけられるって。ずっとそれは思っている。
長くなってしまったけれど、感謝の気持ちを伝えたかったんだ。愚かな僕を許してくれてありがとう。
隣に立ってくれてありがとう。頼りない僕だけれど、君の為に色んな道を歩きたいと、そう思うよ。
願わくば君もそんな風に思っていてほしいな。なんて。これを読んだ後、どんな表情で僕と対面するのか、とっても楽しみにしているよ。それじゃあ。

君のエマヌエルより

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