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国連大使の暗殺未遂

日本でも大きく報道されましたが、8月6日、アメリカのニューヨーク市で2人のミャンマー人が逮捕されました。

逮捕されたのは、28歳のピョーへイントゥッ(Phyo Hein Htut)と20歳のイェーへインゾー(Ye Hein Zaw)の両容疑者。

容疑は、ミャンマー国連大使であるチョーモートゥン氏の暗殺を計画したことによる「外国人公務員への暴行を共謀」したこと。

同大使は、ミャンマー国軍によるクーデターに批判的であったことから、2月27日付けで国軍によって国連大使の職を解任されています。しかし、国連が国軍による後任大使を承認していないことから、現在も「ミャンマー国連大使」として活動しているわけです。

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共謀された暗殺計画の詳細は、アメリカ捜査当局からまだ発表されていません。しかしミャンマーの民主運動を支持している現地の報道機関「Myanmar Now」によれば、タイ在住の武器商人(タイ国籍)がミャンマー国軍の誰かと接触。そしてこの武器商人が、イェーへインゾー容疑者と Facebook を通じて交信し、大使暗殺を依頼。当初は「大使を辞任に追い込むため暴行を加えて欲しい」「大使を支援する資金が、どこからどのように送られてくるのか調べて欲しい」という話だったのが、大使の身辺警護が強化されていることから、この実行は困難と判断。そのため、「暗殺も止むを得ない」と話がエスカレートしていったようです。これを受け、二人の容疑者は、大使の乗る自動車のタイヤに細工をし、事故に偽装しようと計画した…。

イェーへインゾー容疑者は、タイの武器商人から2回に分けて4,000ドル(約44万円)を受領。それをピョーへイントゥッ容疑者に「前金」として渡しています。そしてピョーへイントゥッ容疑者は、タイヤに細工をするために、チョーモートゥン国連大使に近いミャンマー人(複数)に協力を求めたようです。同大使には、ニューヨーク在住のミャンマー人コミュニティーによる強い支持があり、自主的に同大使を警護するボランティア・チームが発足しているのだとか。そのチームの誰かを、買収しようとしたようです。

ところが、この買収の試みは失敗。逆に、今回の謀議が発覚するきっかけとなりました。金銭提供の申し出を受けた警護チームのメンバーが、同大使と同僚に報告したからです。

そして、両容疑者の逮捕。まさに素人の行動が、暗殺計画発覚につながったわけです。

それはそうでしょう、二人とも、これまで諜報活動の訓練を受けてきたわけではありません。武器商人と連絡を取り合ったイェーへインゾー容疑者は、アメリカに留学中の青年。父親が警察の特別捜査機関に所属しているようですが幹部クラスではなく、そのため学費の工面に苦労していたようです。ピョーへイントゥッ容疑者も、成功を夢見てアメリカに渡ったのでしょう。父親がミャンマーの商業都市ヤンゴンで不動産業を営んでいるようですが、やはり経済的には苦しかったようです。さらに彼は、かつて国家元首に就き独裁者として君臨したタンシュエ退役上級大将の孫と親しかったとされていますから、ひょっとしたら、このつながりで暗殺計画に関わったのかも知れません。


さらに、資金的に支援したタイの武器商人。

Myanmar Now は、タイのパトゥムタニ―県にある「チャイセリ(Chaiseri)社」の関係者だと指摘しています(同社はタイのマスコミに対し、関与を強く否定)。この会社のことは、アメリカでも報道されていませんから、当局も慎重に捜査しているのではないでしょうか。

国連大使の暗殺を計画する…。しかも素人が、アメリカのニューヨークで。

それも、前金4,000ドル、成功した場合は追加で1,000ドル、合わせて5,000ドル((55万円)…。

タイ国内であれば、55万円で暗殺を請け負う人物は、おおぜいいることでしょう。なにしろタイは、ライフルや拳銃をオンラインで買える国ですから(これは明日、記事にします)。でも、アメリカでこれはないでしょう…。

ミャンマー国軍の情報機関は、上司に忖度して、上司が喜ぶように加工した情報しかあげてこない稚拙な組織として知られています。情報分析の無能力さが、タイの武器商人に付け込まれる隙を招いたのかも知れません。そしてタイの武器商人も、競争相手である中国やロシア、ウクライナ、インドなどと競り合うために、ミャンマー国軍の覚えをめでたくしておく必要があった…タイの民主化運動の影響で、タイ軍との癒着が暴かれる危険性が高まり、将来的には「旨味」の減少が見込まれます。そのため、代わりにミャンマー国軍からの「旨味」を確保しようとした…かなり飛躍した理屈ですが、可能性がゼロだともいえないような。

いずれにせよ、アメリカ当局による捜査の行方に注目しています。

民主主義を維持することは、実はたいへんな努力の積み重ね。放っておいたら、いつの間にか変わってしまう。

ミャンマーの人たちが、再び民主化を奪還することを願ってやみません。



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