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【2023TDLレビュー】NYMの賢明な撤退

 NYMは今回のトレードデッドラインでシャーザー、バーランダーをはじめ多くの主力を放出。トレードの際に年俸の大半を負担することで見返りのプロスペクトの質を大幅に向上させるという手法でファームシステムを大きく改善しました。ペイロールの推移を見ると、2025年に向けて補強を勧めたいところです。


〇NYMの主要なトレード一覧

※ Pro Rkはプロスペクトランキングの略。MLB公式のランキングを用いている。全は全体の順位。#は旧所属における順位。外は旧所属TOP30外

〇レビュー

 トレード全体を一言でまとめると、「賢明な撤退」と言えます。NYMは、2021年オフにマックス・シャーザーと3年110M+2023年オフオプトアウト、2022年オフにジャスティン・バーランダーと2年86.7M+1年条件付プレイヤーオプションといった大型契約を相次いで締結。2023年は330Mという類を見ない巨額のペイロールでコンテンダーとして開幕を迎えました。

 しかし、自慢のはずの先発ローテがバーランダーの出遅れやシャーザー、バーランダー、千賀に続く4番手以降の投手が極度に不振だったこと、リリーフ陣の機能不全、打線の不振等で夏場までにプレーオフ進出を目指すか、ブリッジイヤーにすべきか岐路に立たされていました。

 こうしたデッドライン前の状況下、当noteでは7月2日に「NYMの贅沢なブリッジイヤー」という記事でNYMが2023年をブリッジイヤーにする公算が大きいこと、デッドラインで売り手に回れば大きな成果を得ると指摘しました。実際にはデッドライン前後の動きは予想通りでしたが、得た成果は予想以上でした。というのもNYMが法外なまでの年俸負担を行ったことでプロスペクトの質が上がったためです。

 特にTEXから獲得したシャーザーの見返りルイスアンヘル・アクーニャ
、HOUから獲得したドリュー・ギルバート、ライアン・クリフォードはプレミアムなプロスペクト。前者の獲得に約35M、後者にも最大約52.5Mの負担を引き受けました。この他にもマルコ・バルガス、ジェレミー・ロドリゲスといったハイシーリングタレントの獲得でマイナー下位層を厚くしたのも大きな成果です。

 一方、7月下旬に復帰したキンタナや、リリーバーでソリッドなパフォーマンスを上げていたオッタビーノやレイリーを売らなかったのは不可解な印象です。カラスコやナルバエスと異なり、売れないわけではなかったとは思いますが、プロスペクトの質を追求していた点を踏まえると、キンタナらで得られるプロスペクトは不要という判断だったのでしょうか。

〇TDL直後のチーム状況

 主力の放出に伴い、ラファエル・オルテガの昇格、ビエンテス、D.J.ステュワートのレギュラー起用、スターリング・マーテの復帰と野手の入れ替えがありました。これまで出番の少なかったプロスペクトのビエンテス、レギュラー起用の続いていたアルバレス、ベイティに経験を積ませることで来季につなげたいところです。同時にあわよくばオルテガやステュワートが戦力になれば美味しいといったところでしょうか。

 また、マウリシオのコールアップ、現状ロスター枠が空いているところにトレードで獲得したジャスティン・ジャービスやジェレマイア・ジャクソンが加わるか注目したいところです。さらにリリーフ投手もビックフォードやコラレックといった保有権の長い投手を獲得しますので来年に向けてふるいに掛けると思われます。

〇2024年以降の見通し

 売り手として賢明に動いた結果として得られた成果は大きいものですが、個人的にはこれらの成果よりも大きなものをNYMに見たように感じます。一つは、「一貫した方針」、もう一つは「札束でプロスペクト」です。

 まず、「一貫した方針」についてですが、一見してコンテンドを目指したのに、すぐに方針転換したように見えますが、内容を見ると異なる見方ができます。NYMはシャーザー、マーテ、カンハらとの契約を連発した2021年オフに話題を集めましたが、いずれも期間は4年以下のと比較的短いものでした。特にFAで獲得した選手はマーテ、千賀を除くとオプション込みで3年以下の選手しかいません。

 これらの状況を踏まえると、元々NYMフロントには勝負してダメだったら即損切りする方針を当初から持っていたようにしか見えません。元々、長期契約のリンドーア、ニモ、エドウィン・ディアズらをコアにアルバレスやベイティらのプロスペクト、短期契約のFA組を想定していたと思われますが、今回はFA組を切ったということでしょう。そして今夏デッドラインでファームシステムを大幅に向上させました。

 上記を踏まえると、長期契約のコア選手に加え、今度はアルバレス、ベイティ、ビエンテス、マウリシオらの成長、さらにMLBデビューしていないプロスペクトの昇格と成長を待って勝負に出るという方針と思われます。未デビューのプロスペクトの質を大きく向上させたのが今夏の動きというワケです。

 また、次の勝負期は2025年と思われ、先発投手をはじめとしてプレミアムなFA選手も加えるでしょう。今後数年の支払いが確定している契約は2025年に123Mまで減少。調停で数十Mの支出があったとしても100M以上の補強余力が生まれるでしょう。

 そして、次の勝負で失敗してもNYMは比較的早く立て直せるでしょう。その理由が「札束でプロスペクト」です。今回、NYMは法外な短期高額で有力FA選手を獲得し、売り手として大半の年俸を負担することでプレミアムなプロスペクトを獲得できることを示しました。財力にモノを言わせれば、大物FA獲得も勝負とプロスペクト交換の両面に張れることを示しました。そして、現状この戦術を使えるのはNYMだけのように見えます。

 今夏のデッドライン。NYMは賢明なる撤退、速い損切り、冷徹な投資判断といった動きだったと思います。オーナーのコーエン氏はデッドライン後の会見で"Hope’s not a strategy."(「希望は戦略ではない」)と話しており、やはり世界屈指の投資家にしてMLBダントツの資産を有するオーナーであると感じさせられます。

※画像はMLB公式


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