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光を掬って


あなたが暗闇の中で見つけた一条の光が、どうか私という存在でありますように。

あなたが迷ってしまわないように、躓いてしまわないように、ずっと光っているからね。


幸せってこの瞬間のことなんじゃないかな

はしゃぐ彼らの笑い声を聴きながら、ぽかぽかに温まった体温を感じながら、吐いた白い息を眺めながら、そんな風に思った。

「海に行きたい」って言ったら「今から?」とかじゃなくて「どこの?」って返ってきたから、不覚にも私の顔はほころんでしまっていたと思う。

静かな夜の街に私たちの歌声が響き渡って、真っ暗な道が明るく光って見えた。街もきっと喜んでいたよね。


真冬の海も彼らと一緒なら寒くなんてなかったし、静かな夜も彼らがいたらこわくなんてなかった。

ばかみたいに笑いながら、防波堤でグリコをした。真っ暗で手元なんて見えないから、声を頼りにして必死にじゃんけんをする。グーで勝っても3歩しか進めないのに、何度もグーを出してしまうのがおかしくって、また笑えた。

空に星が散らばっていて「綺麗だね」って私が言葉にするより先に、君が「見て!星見えるよ」って私に言うから、思わず口元が緩んでしまったよ。

夜のバスケットコートは、私たちの心を躍らせた。誰もいないコートの上で川の字になって寝転がって、星を眺めながら話をした。一人は静かに眠っている中で、生きてきた中で一番こわかった瞬間の話をした。

「死ぬことはこわくない」

君が言った。

私が彼の生きる理由の一つでいよう

そう、心の中で呟いた。


眠っていた一人が目を覚まして、今度は三人でたわいもない話をした。

この瞬間が永遠に続けばいいのに

そんなことを思いながら、ふと見た彼らの表情に「大丈夫だよ」って言われている気がして、安心した。


「帰ろっか」って駐車場に向かっている道の途中で、公園を見つけるや否や、全力で鬼ごっこを始める私たち。もしも言葉のない世界に生まれたとしても、私たちなら共存できるような気がする。

帰りの車では、あまりの居心地の良さにすやすやと眠ってしまった。目を覚ますと、運転手の彼が「着くまで寝てていいよ」って優しい声で言うから、私はまた眠ってしまった。彼らにはいつも無条件で甘えてしまう。そんな私も好きになれた。


目的地の私の家に着く頃には、外はすっかり明るくなっていて、オレンジと青の入り混じった綺麗な空が一面に広がっていた。なんだかすごくすっきりして「寝かせてくれてありがとう」と彼に伝えると「どういたしまして」って笑顔で返ってきた。ほっとした。


大切にしたい存在が増えて、大切にしたい瞬間も多くなって、こんなに抱えていられるのかと不安になった。両手では溢れてしまいそうなほどの愛情を、ほんの少しも溢さないように必死に抱き抱えて、私は車を降りた。


朝方の空は、いつにもまして綺麗に見えたよ。

ずっと笑っていてね。




それでは。




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