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Vol.009 焦点距離とは心の距離である 〜焦点距離と遠近感の話〜

今回お話するのは焦点距離ですが、皆さんはなんのことかご存知ですか?
「知ってるよ!レンズに書いてある『~mm』のことでしょ!」
「短いと広く写って、長いと望遠になるんだよね?」

そう、それで正解です。では、本日の講義は終了です。笑
冗談はさておき、テクニカルな部分に関してはある程度掘り下げて
書きますが、今回のポイントは
「どう使い分けりゃいいの?」
ということについて、僕なりの考えをお話したいと思います。

焦点距離とは?

焦点距離とは、レンズの中心である「主点」から、カメラのセンサーにピントが合う点(焦点)までの距離のことです。
単位は「~mm」で表されます。

カタログなどで「28mm」や「50mm」「85mm」の数字が書いてありますよね?あれです。レンズ本体にも書いてあります。
単一のmmが書いてあるレンズを「単焦点レンズ」といいます。
「18mm‐55mm」「24〜135mm」「70〜200mm」
という数字に幅のあるレンズもあり、そういったレンズを「ズームレンズ」と呼びます。

このレンズは「70から200mmの焦点距離ズームレンズです」と表しています。最初の4は「F値の開放は4です」という意味です。
このマークが大体のカメラにありますが、ここにイメージセンサーの面がありますという
位置が書いてあります。

焦点距離のポイントは3つ

  1. 距離の長さで画角が変わる

  2. 距離の長さで遠近感が変わる

  3. 距離の長さで被写界深度が変わる

ということです。

1.「距離の長さで画角が変わる」 とは?

簡単に言えば

焦点距離が短い→広い範囲を写すことができる
焦点距離が長い→遠くのものを大きく写すことができる

撮影できる範囲を決めるのが焦点距離なのです。
撮影できる範囲のことを「画角」​といいます。

よく、写真を撮る前や絵を書く前に指で四角を作ってフレーミングしてる人を見ませんか?
あれは、目の前で遠ざけたり近づけたりして、どこまでを画面内にいれるかの構成を考えている「広く撮るか、狭く撮るか」、まさに画角をどうしようかを考えているんですね。

このアクション、やってみると便利ですよ!

焦点距離の長さが変わることで、写る範囲がどれだけ変化するかを見てみましょう。
(前提として、カメラと椅子、背景の位置関係はすべて変わっていません。)

28mm
35mm
50mm
75mm
105mm


140mm
210mm

焦点距離が変わることで、写る範囲はこれだけ変わります。

a.イメージセンサーサイズと焦点距離

注意すべき点ですが、この焦点距離と画角の関係は
カメラのイメージセンサーサイズによって変化します。
「フルサイズ」とか「APS-C」「マイクロフォーサーズ」
という言葉を聞いたことありますよね?
カメラの中にあるセンサーのサイズにも、大小様々な大きさがあり、
それぞれ有利な点や苦手な点などがあります。

同じ「50mm」の焦点距離でも、それぞれセンサーサイズが異なるカメラだと同じ画角では写りません。

代表的なセンサーのサイズ(引用元はこちら

上の図を見るとよくわかりますが、フルサイズで50mmのレンズで撮影した時にちょうどフレームに収まって写せたとしても、APS-Cだとサイズが小さいので全部入りきらないのです。(つまり、その分画角が狭い=望遠になってしまう)
なので、同じ画角でもセンサーサイズが違うと異なる焦点距離のレンズになりますので、混同するポイントですが覚えておきましょう。

焦点距離を説明したり紹介する時は、通常はフルサイズ(昔の35mmフィルムと同じサイズ)で使用する場合の焦点距離の画角が用いられます。
他のセンサーサイズで使用されるレンズのスペック紹介のときに
フルサイズ換算(35mm判換算)」という表記があるのはそのためです。

今回の説明も、このフルサイズ換算でお話しします。

Adobeのソフトでも「35mm換算」という項目がありますね。
フルサイズとAPS-Cの焦点距離の比較(引用元はこちら

b.「標準レンズ」とは?


焦点距離が50mm前後のレンズのことを「標準レンズ」と表すことがあります。いったい、何が標準なのでしょうか?
標準レンズは画角が大体47°で、人間の目で見る感覚に近いからだと言われています。
もちろん、人間の視野はもっと広いのですが見えているものをすべて意識して見ているわけではなく、この標準レンズの画角くらいが意識して見ている範囲なのでは?という考えからきています。
また、次にお話する「遠近感」が肉眼とほぼ同じだからという説もあります。
肉眼に近い表現をしたいという場合、この標準レンズと呼ばれる画角あたりを使ってみるのがいいでしょう。また、

標準よりも大きい焦点距離(85mm、200mm、300mmなど)を
「中望遠レンズ」「望遠レンズ」「テレレンズ」
標準よりも小さい焦点距離(12mm、16㎜、28mmなど)を
「広角レンズ」「超広角レンズ」「ワイドレンズ」

 と呼びます。

2.「距離の長さで遠近感が変わる」とは?


焦点距離が変わると、写る範囲だけではなく遠近感(パースペクティブ)が変化します。
「近いものは大きく、遠いものは小さく見える」ことですね。

焦点距離が短い→画角が広くなればなるほど近いものと遠いものとの差がつきます。また、手前にあるものは形がデフォルメされやすくなります。(ゆがみがきつくなる)

焦点距離が長い→画角が狭くなるほど近くと遠くとの差がなくなったように 見えます。(圧縮効果といいます)


28mm(イス自体の形もゆがんでますね)
35m
50mm
75mm(このあたりからイス自体の形も正常に落ち着いてきました)


130mm


この写真のポイントは イスと背景の位置関係は変わらないのですが焦点距離が変わっても写るイスのサイズが同じになるように、カメラと被写体(イス)との距離が変わっているということです。

実は、焦点距離の長さそれ自体で遠近感に変化はないのです。
実際の話では、遠近感とは焦点距離ではなく被写体との「撮影距離」に依存しています。広角レンズで身近なものを撮ろうとすると、必然的に近づいて撮ることになる(そうしないと散りたいものが小さくなってしまう)ので、焦点距離が変わると遠近感も変化すると錯覚してしまうのです。
ただ、難しく考える必要もないので
「焦点距離≒遠近感の大小」という認識で大丈夫です。。

肉眼よりもパースを付けてダイナミックに見せることができる。
東京タワーと後ろのビルとの距離がぐっと圧縮しているように見えますね。

3.「距離の長さで被写界深度が変わる」とは?

被写界深度(ピントの合っているように見える範囲)は、絞り(F値)によって変化することはご存知だと思いますが、焦点距離の長短によっても変化します。

例えば、同じF値でも焦点距離の短いレンズはボケにくく、焦点距離の長いレンズはボケやすいです。

上のイスの写真を見返してみてもらうとわかるのですが、広角と望遠では屋上の後ろの壁のボケ具合が違って見えます。
広い絵がほしいので広角レンズを使うが、同時にボケを活かしたいという場合は、なるべく開放のF値が小さい(F1.4とか)レンズを用いる必要がありますが、単焦点で明るいレンズは値段が高いのが実際です。

焦点距離が短い(広角)=ボケにくい
焦点距離が長い(望遠)=ボケやすい

とまとめることができますね。よく、

「スマホはボケにくい。やはりちゃんとしたカメラでないと。」
「APS-Cよりフルサイズのほうがよくボケる。」

という話を聞きます。これこそ、焦点距離と被写界深度の関係を表しています。イメージセンサーサイズと焦点距離の関係を思い出してください。
センサーサイズが大きいほうが、焦点距離が長くなる→つまり、その分ボケやすくなるのです。
スマホについているレンズは、カタログなどでは「24mm相当」「50mm相当」という書き方をしています。〜相当なので、実際の焦点距離はセンサーサイズが小さいので3mmとか4mmなので、ボケにくいというわけです。
スマホのカメラも、最近はセンサーサイズの大きいもの(SONYのXperiaなど)が出てきたので、昔よりはボケ易くなってきました。


4.その他、焦点距離の短い長いでなにが違ってくるか?

これは遠近感にも関わってくることですが、焦点距離が短い広角レンズなほど、最短撮影距離が短いです。
最短撮影距離とは
「被写体にピントを合わせることができる最短の撮影距離」
のことで、ぎりぎり近づいてピントが合う距離です。
短ければ短いほど、寄ることができるので映したいものは大きく写せますし、寄ることでより背景はボケやすくなります。最短撮影距離は望遠レンズになるほど長くなるので、寄りたくてもそれ以上寄れない!ということが発生します。
その場合は、焦点距離を短くして寄ったり、寄る事の出来るマクロレンズを使用しましょう。
(寄ることでついてしまう遠近感を軽減したい時は、少し引いて撮影をして後でトリミングをするテクニックを使います。)

使っているレンズの最短撮影距離がどれだけなのかは、説明書やレンズの側面に書いてあるので、確認してみるといいでしょう。同じ焦点距離でも、レンズの違い、メーカー違いでバラバラです。

このレンズ(70~200mm)だと、「70mmのときは1mまで、200mmのときは1.5mまで寄ってもピントはぎりぎり合いますよ」と書いています。ズームレンズだとこういう変則的なのもあります。

もうひとつ、広角レンズのほうがイメージセンサーの四隅いっぱい使うので、F値を開放で使用する場合、どうしても周辺は少し画質が落ちたり、暗く写ったりします。その場合は、開放から絞りを1段絞ることで、かなり改善します。昔設計のレンズは、それが顕著です。

(暗く落ち込むことをビネットといいます。スマホのカメラでもわざと周辺を落とすビネットフィルターがあります。実際には欠点なんですが、なんとも言えない味もあるのでそれを求めて意図的に周辺を落とすこともあります。)
望遠レンズは、四隅に余裕があるのでビネットも広角に比べると出にくいです。
最近のレンズはそのあたりの対策もなされているので、開放からビネットが出にくくなりました。

下記の「南アルプスの天然水」のCMは、写真家の瀧本幹也さんが撮影していますが、40年以上前のオールドレンズで撮影したそうです。
なので、自然なビネットが写っていますね。


ところで、ズームレンズと単焦点レンズ、どちらも同じ焦点距離があります。例えば、50mmの単焦点と28〜70mmズームレンズの50mmは、
どちらも同じ50mmの焦点距離です。(どちらもフルサイズのカメラレンズを想定)
この場合、どちらも写る範囲に違いはありません。(画角は同じ)
ただ、開放のF値が単焦点のほうが明るかったり、最短撮影距離も違いが出ることが多いので、遠近感やボケの具合には違いが出るかもしれません。
28~70mmと70~200mmの2本のレンズの同じ「70mm」を撮り比べても
上記の理由で、微妙に違いが出ることもあります。どちらが良い悪いということもなく、このあたりは自身の使いやすい方を選ぶと良いでしょう。

実際に焦点距離はどう使いこなせばいいのか?

いろいろな撮影の現場で、どの焦点距離を使用すればいいのか?というのはかなり重要なポイントです。そしてそれは、撮るものや使用用途、そして現場の状況によっても異なります。大きく分けると、次のような理由で使い分けます。

  1. どうしても広く撮りたい、もしくはアップで使いたい、など画角を優先する時。

  2. (製品写真など)正確な形を表現しなくてはいけない時。

  3. 写したいものの後ろをどう扱うか?(パースペクティブ)

  4. 「パーソナルスペース」を意識する。


1.どうしても広く撮りたい、もしくはアップで使いたい、など画角を優先する時

「これ以上後ろに下がれないけど部屋をギリギリまで広く見せたい。」
「集合写真などで全員を入れなくてはいけない。」
こういった場合だと、必然的に焦点距離は短いワイドレンズで撮影することになります。反対に、
「スポーツの試合などで撮る位置は固定されているけど、顔の表情などをなるべく寄って撮りたい。」
そんな時は、当然焦点距離の長い望遠レンズで撮ることになると思います。
 
このように、その画角で撮らないといけない場合、それを最優先できる焦点距離のレンズを選択しましょう。その場合、遠近感やボケの具合にはある程度妥協する必要はあると思います。

お月さまを大きく撮ろうと思えば、必然的に焦点距離は長くなるでしょう。

2.製品写真など)正確な形を表現しなくてはいけない時

製品写真や自身の作品など、記録に残すなどの用途で撮影をする場合は、その色や形は正確に表現されなくてはいけません。
四角なものはちゃんと四角に、長辺と短辺のバランスもきちんと表現できていないと、見る人に誤解を生みます。
垂線もきちんと真っ直ぐで、上や下に遠近がつくのも良くないでしょう。

焦点距離の短いワイドレンズを使用するとそのあたり、どうしても形がデフォルメされてしまい、垂線も乱れます。
物の形を正確に出したい場合、焦点距離は長く(最低でも35mm換算のレンズで70mm以上)にして撮影しましょう。
そうすることで、形のデフォルメなどは解消されます。その場合、カメラを後ろに引かないと全体像が写らないことがありますので、なるべく広さのあるところで撮影する必要があります。
これは、スマホで撮影するときも同じです。広角レンズで近くでパチっと撮るのは楽ですが、正しい形を残したいなら、望遠レンズがあればそれを使って撮影をしましょう。


広角だと、どうしてもパースが強調されます。それがいいときもありますが、正確な形は変わってしまします。
長い焦点距離だと、同じ斜めからでもパースは緩やかで肉眼に近いですね。

3.写したいものの後ろをどう扱うか?(パースペクティブ)


イメージカットを撮影の場合、素敵な背景も重要なので被写体も見せたいけど背景の雰囲気も活かしたい!という状況はよくあります。
望遠レンズだと、たしかに写したいものは大きく形も正確に写り、ボケも強くなるのでいいのですが、その代わり背景はそこまで映らなくなります。(遠近感の作例を見返してみましょう。)
素敵な背景や小道具も一緒に写したいときには、少し焦点距離を短めにして(そしてその分撮りたいものに寄ることで)、適度に遠近感があり背景の雰囲気もボケ感も生かした写真を撮ることができます。
そのあたり、背景をどこまで入れるか?は現場で試行錯誤する必要はありますが、ある程度の予測と計画を用意して臨むといいでしょう。

焦点距離が長いと、被写体がメインの写真になる。
焦点距離が短いと、その現場の雰囲気も活かすことができる。


4.「パーソナルスペース」を意識する。


最後のポイントが、今回のタイトルと密接に関わります。
「パーソナルスペース」を意識して、焦点距離を使い分けましょうと言うことです。「パーソナルスペース」ってなんでしょうか?下記のリンクを御覧ください。

読んでみると、ああこれね!と思うでしょう。
当たり前ですが、見ず知らずの人に近寄られると「何だこの人は?」と、多少不快感を持つであろうし、警戒感も生み出すかもしれません。
取材撮影などは、初めてお会いする人がほとんどです。
いきなりあった人間に、ズカズカと近寄られてカメラを向けられて、はたしていい気がするでしょうか?

焦点距離の短いレンズを使って、被写体を大きく写そうと思うとどうしても寄らなくてはいけません。遠近感のある、迫真の写真は撮ることは可能です。でもそうなると、1m以内に侵入することになり、パーソナルスペースを破られて緊張したり、身構えたりしてしまいます。

もしくは、インタビューカットの撮影の際にあまりにも近づいて撮っていると、取材対象者やライターともに、(カメラマンが)視界に入ったり気配を意識して、気が散って集中できない恐れがあります。つまるところ、

撮影のエチケットとして、常識の範囲内の距離を保つ。

これが肝心です。
最初は望遠レンズなどで撮影をして、撮影の雰囲気に慣れてもらう。
世間話しなどをしながら、少しづつ心の距離を縮めていき、同時に実際の撮影距離も縮めていき、焦点距離の短い写真をトライしてみる。

コロナ禍ということもあり、以前にも増してこのあたりは敏感に考えてみましょう。

もう一つあるのは、

カメラの気配を消したほうがいいときは望遠レンズ
あえて「撮られている」状況を作って、意識を高揚させてみるときには広角レンズ

など、現場の雰囲気や被写体の感情などを配慮したり、あえて崩して演出する時に、焦点距離を切り替えて撮影します。 

職人タイプの方は、あまり撮られるのに慣れていないので気配を消した方がいい表情になりやすいとか、撮られ慣れてる人は、逆に撮られてる雰囲気でどんどんノッてくる、など
このあたりも、その人がどんな人かを観察して、臨機応変に切り替えて行きましょう。撮る順番なども重要です。
これも、遠くからのショット→手元などのカットの順番を組み立てると、うまくいきやすいです。
撮影スケジュールを組み立てる時、こういう観点から考えていくことも大切ですね。

最初は遠巻きに、現場に慣れてもらいましょう。
手元は、近づくことになるから空気が和らいだ後で撮りましょう。


まとめ

長々と、焦点距離のことを書いてきました。僕個人としては、商品撮影の時には、物理的要素(遠近感やボケ)を考慮して選択をしています。
ですが、それ以外の人物撮影や取材の時は、一番心がけているのが、最後に紹介した「心の距離」のことです。

どうしても、寄って撮りたくなるのがカメラマンの性です。
そして、写真を上達するコツは「寄ること」でもあります。
実際、寄るのは人の目もあるし、パーソナルスペースの問題もあるので、勇気がいります。でも、一歩でも前に出ることで世界が少し変わります。

自分や相手の心の距離と焦点距離をリンクさせてみると、これまでとは違った写真が撮れると思いますので、少しでもいいので意識してみましょう!



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