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パソコン音楽クラブ「DREAM WALK」によせて

音楽について語るとき、具体的な内容を語る事ができない。
音楽理論に関する知識も、背景となる文化の理解もほぼない。
ただ「良い!」とか「わからん!」とかそういう気持ちがあるだけだ。
それでも何か具体的な話をしようと足掻くと、自分の今まで触れてきた音楽(多くもなく、偏りもある)との共通点を必死に探す。
どこかで聞きかじったジャンル名やアーティスト名と無理矢理に紐づけて「○○っぽくて良い」なんて根拠のない偉そうなことを言うのだ。
アーティストのアティテュードや、実際のリファレンスなんかわからない。想像するだけだ。
過去の自分の発言があとになって「的外れだったなぁ」と思うことなんかはしょっちゅうだ。
本当に言い訳がましいが、この文章はそんな僕がパソコン音楽クラブのアルバム「DREAM WALK」を聴いて思ったこと(と便乗した自分語り)だ。

僕は今でこそクラブによく通うダンスミュージック好きな人種に分類されるようになった気がするが、ごく最近までロックなどのバンド音楽と、少しのヒップホップだけ聴くリスナーだった。
ダンスミュージックなんて、海外のDaft Punkのようなだれもが知る大御所や、日本じゃ音楽好きなら誰でも聴いてそうなtofubeats、もしくはNew Orderのようなロックとダンスが混ざったバンドくらいなもので、決して熱心なリスナーではなかったし、むしろ流行したEDMに対するネガティブな印象すら持っているくらいだった。
Hi-Hi-Whoopeeというブログを読んでいたのがきっかけで、AORやらアンビエントが好きだった部分からvaporwaveやfuturefunkにハマったりもしてダンスミュージックに興味が出始めたあと、ダンスミュージックにのめり込むきっかけになったのがのがCarpainter、Tomggg、Yunomiあたりだった。(Maltine Record関連作品を聴きまくった)

そんなダンスミュージックに本格的に聴くようになったころに、パソコン音楽クラブと出会った。

この不思議な名前のユニットを知ったのは2016年、確かTwitterだったか、今では曖昧だけど、「vaporwaveみたいな名前だ」と思ったことを覚えているし、実際に曲を聴いたときに思い出したのも、初めてリサフランクを聴いたときの感情に似ていた。郷愁的で、都市的で、無機質だった。でも、vaporwaveに感じた退廃や死、ナンセンスさは感じなかったし、より音楽的に近い?futurefunkと比べても、露悪的なまでの享楽主義や逃避性もなかった。
聴いたことがあるようでない音楽にすぐ大好きになり、他で得られない感覚を求めて取り憑かれたように聴きまくった。

そのあとHYPER POP CLUBで初めて彼らのライブを初めて見た。
ダンスをしながら聴いたというのもあるだろうが、初めに感じた無機質さではなく、ディスコ的な身体性を強く感じて、とにかく楽しかった。
完全にパソコン音楽クラブの音楽に夢中になり、それからというもの、彼らが東京でライブをするたびに足を運んだ。
彼らが出演するイベントは僕が知らない沢山の音楽に触れられてとても楽しかったし、なにより彼ら自身の毎回アップデートされていくライブが毎回新鮮な驚きをくれた。
飽きっぽい自分にしては珍しく、ずっと夢中でいられるのもこのライブあってのことだと思う。
毎回新曲を加えたライブセットを組んでいるらしい。すごいことだ。

自分語りはこれくらいにして、音楽の話をしよう。
パソコン音楽クラブの音楽を語るとき、一つの音楽ジャンルに紐付けるのがとても難しい。
近年のポップミュージックではとにかくクロスオーバーが進んでいて、あらゆるジャンルの音楽がボーダーレスに様々な異なるジャンルの音楽を取り入れている。
それでも大抵のアーティストはベースとなる音楽ジャンルがあり、そこに様々な要素を乗せている。
それに対し、パソコン音楽クラブの音楽は一体何がベースなんだろう?
ハウス、テクノ、AOR、ディスコ、フュージョン、アンビエント、vaporwave、J-POP?
僕個人の知識がないせいなのかもしれないが、そのどれもが正解でないように思える。
いわゆるデジタルネイティブ世代のアーティストであるパソコン音楽クラブはきっと様々な年代のこれらの音楽(もちろんそれ以外も)からボーダーレスに影響を受けてきたんだろうと思う。

大雑把な括りで言えばダンスミュージック、もう少し詳しく言えばvaporwave以降、ポスト・ヴェイパーウェイブと言えるような音楽なのかもしれない。
なにより聴いたときに想起される"懐かしさのようなもの"はvaporwaveのそれとよく似ているし、90年代の音源モジュールの音色の肌触りもvaporwave的だと思う。
しかし80〜90年台の曲のサンプリングなんかしていないし、基本的に大げさなスクリューもされていないので一般的なvaporwaveの定義からは外れるものだろう。
それでもvaporwaveの匂いを感じるのはアティテュードの部分が大きいのではないかな、と思う。

vaporwaveのアティテュードといえば、「消費社会の嘲笑」「逃避主義」 「退廃」「コンピューター」「エレベーター・ミュージック」といったキーワードで語られるような気がするが、僕にはそこら辺をうまく文章化できない。
パソコン音楽クラブの音楽はこういったキーワードのネガティブさをより感じさせないようにポップに落とし込み、さらに「日本、地方都市での暮らし」を濃厚に上塗りしたような雰囲気を感じている。

「日本、地方都市での暮らし」について言及しよう。
tofubeatsが今回のアルバムリリースに寄せたテキストを引用する。

山を切り開いた景色、無人のショッピングモール、
まっすぐな舗装された道、カタカナの名前のついた広場。
同じような形のマンション、区画整理が行き届いた住宅地。
ベッドタウンへと向かう線路。
それぞれの孤独が息づく町となぜかそんな町に感じるノスタルジー。
我々は今日も他の誰かの手放した機材を探し、再び鳴らす。
クールなのにエモーショナル。教科書にまだ載っていない歴史。
夢のようで夢じゃない。でもやっぱり夢かもしれない。

僕はこの文章を読んだときに「まさしく!」と膝を打った。
「ニュータウン」だ。
それも真新しいニュータウンではなく「OLDNEWTOWN」だ。
ニュータウンに感じる言葉にし難いあの郷愁のような、懐かしいような、寂しいような、でもなんだか少し違うような、そんな感情こそがパソコン音楽クラブの音楽じゃないか。
そしてこの感覚はまた違う形でtofubeats自身が表現してきたことにもつながるんじゃないか。
先進的なダンスミュージックと日本の伝統的なポップスの接続という点でも二者は共通しているような気がする。
パソコン音楽クラブはそういったtofubeatsのイズムを継承しているのだ!と勝手に思った。(dj newtown...)

だからこの際、勝手に言ってしまおう、パソコン音楽クラブの音楽は「ニュータウンポップ」だ。
最近濫用される「シティポップ」にも嫌気がさしていたし、パソコン音楽クラブは本来「シティポップ」と呼ばれていた80年代の音楽群の影響を強く感じるし、アンチテーゼとしてもなんかかっこいいじゃないか。
都会的なシティにはなんだか馴染めない、シティボーイなんていうほど垢抜けていない、ニュータウンキッズの音楽だ。

パソコン音楽クラブのアルバム「DREAM WALK」はそんなニュータウンポップ節(?)全開だ。

1曲目の「走在」ではインダストリアル的な硬質なビートからスタートし、少しスクリューされた不穏な、それでいてとても人懐っこいメロディが印象的なシンセが乗ってくる。
チップチューンのような質感もあり、メロディも相まってゲームのスタート画面のような印象で、アルバムの世界に一気に引き込まれる。

続く「Virtual TV」では一転してメロウなトークボックスのメロディと「Mobile Dog House¥」を分解したようなビートが特徴的なポップスが飛び出す。
トークボックスは柴田氏が英語で歌っているとのことで、歌詞の内容が非常に気になる・・・
どことなくヒップホップ的な匂いも感じるのは僕だけかもしれない・・・

3曲目はライブでは定番の人気曲「ウォーターフロントの暮らし」のアルバムバージョンとなる「Warterfront」だ。
アルバム内屈指のダンスナンバーで個人的にはじっとして聴くのは不可能。
SoundCloudのバージョンよりブラッシュアップされており、アルバムに馴染む音色になっているし、付け足されている細かい音がなんとも気が利いている。

4曲目も既発曲の「OLDNEWTOWN」、SoundCloudでは「OLD NEWTOWN」だった、ここの変更にはどんな意味があるのだろうか?
SoundCloud版はパキっとした音色だったが、より柔らかく、アルバム全体のトーンによく馴染んでいる。
しかし「OLDNEWTOWN」という曲名、本当にパソコン音楽クラブの音楽性をよく表しているなぁ〜・・・

5曲目はToxic(Interlude)、ザッピングのように切り替わる序盤はvaporwaveぽく、その後のパートではアシッドハウス!
これもぜひクラブで聴いて踊りたいダンスナンバーだ。

6曲目の「Inner Blue」は間違いなくこのアルバムのピークだろう。
シンセの音色と哀愁漂うメロディー、イノウエワラビ氏の絶妙な熱量のボーカルで涙腺をぐいぐい刺激してくる。

7曲目もイノウエワラビ氏のボーカルが映える「Once More」だ。
こちらはオートチューンと4つ打ちが特徴的でfuturefunkっぽいナンバーだ。

最後の8曲目「Beyond」はアルバムの中でもっともvaporwave的。
メロウなフュージョンに深いリバーブがかかっており、ジャケットの写真と最も親和性が高いかもしれない。
最後に挿入される一瞬のアンビエントが深い余韻を残して幕を下ろす、完璧なエンディングだ。

風景・心象風景の描写を徹底しながらアルバム全体としては内省的と感じる不思議さ。
いわゆる内省的な歌詞はほぼ登場しないのに聴くと内省と享楽を促されるような、そんな感覚。
一歩間違えれば「ダサい」と評されそうなギリギリの部分をユーモアと絶妙なバランス感覚で新しい音楽として提示している。
多くの人が指摘するように「懐かしさは感じるが、古さは全く感じない」そんな音楽だ。
デジタルの懐かしさと新しさ、「DREAM WALK」とにかく最高だ。
みんなで聴きまくりましょう。

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