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PMFが札幌に遺したもの。


今年もPMFの季節がやってくる。

パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌。1990年にレナード・バーンスタインによって始められた国際教育音楽祭は今年で33回目を迎え、札幌の夏の風物詩としてすっかり定着した。

見どころはいくつもある。

なんといっても、厳しいオーディションを通過した世界中の若いアーティストの演奏が聴けるのが楽しみでならない。今年は22か国・地域の74人が選ばれた。こんな多彩な顔触れを持つオーケストラはたぶんどこにも存在しないと思う。

十数年前、初めて彼らの演奏を東京で聴いたとき、演奏の合間にオケのそこかしこで笑顔がはじけていたことに大きなショックを受けた。しかめ面しかしない在京オケとは雲泥の差だ。喜びにあふれた演奏は文句なく聴く人の心に迫る。その伝統はいまも微塵も変わっていない。毎回、音楽の原点に触れることができる、フレッシュで情熱的な演奏だ。
 
バーンスタインは一度しかステージに立てなかったが、その後のPMFを育てた指揮者たちの顔ぶれは豪華そのもの。クリストフ・エッシェンバッハ、ファビオ・ルイージ、ヴァレリー・ゲルギエフと枚挙にいとまがない。今年はクシシュトフ・ウルバンスキとトーマス・ダウスゴーのふたり。往年に比べてやや小粒だが、去年のイスラエルの指揮者ラハフ・シャニのように、これから世界を股にかけて活躍する俊英なのだろう。

川瀬賢太郎も原田慶太楼もPMFの指揮者だった。先物買いができるのも、大きな楽しみのひとつなのだ。

 ウィーン・フィル、ベルリン・フィルの首席奏者たちによるマスタークラスや演奏会も貴重だが、PMFの最大の魅力はやはり「ピクニック・コンサート」に尽きる。

札幌芸術の森の広大な野外ステージで行われるこのコンサートに、僕は去年初めて参加した。

芝生の上に思い思いにシートを敷き、ビール片手にのんびりステージを眺める。その日は炎天下で、ブラームスの第二シンフォニーの途中で思わず意識が飛びそうになった。よく見ると常連らしき人々は、しっかり陰になる場所を選んでいる。さすがだ。今年はぜひ見習いたい。

日が傾き始めると、頭上を鳥たちが行き交い、心地よい風が吹いてくる。バーンスタインがこよなく愛したタングルウッドもこんなふうだったに違いない。それは自然の中で音楽を満喫できる、贅沢な瞬間だった。


「ピクニック・コンサート」の会場になる
札幌芸術の森野外ステージ


 今年は縁あって、PMFガイドブックに文章を寄せることができた。

ピクニックとガラコンサートに主演する、ARK BRASS(アーク・ブラス)の佐藤友紀さん(トランペット)を取材した。彼は元PMFのアカデミー生でもあるし、高校の修学旅行のあとに指揮者の佐渡豊に呼ばれて、PMFジュニアフェローの一期生になったという経歴を持つ人。アカデミーのときに知り合った友人が世界各地にいて、そのことがいま心の支えのようになっていると言っていた。

取材をさせていただいた方の演奏を客席で聴くのはまた格別なこと。今年のPMFは僕にとっても忘れられないものになりそうだ。
 
ほかにもPMF関連イベントは盛りだくさん。

7月17日には北海道大学で、「レナード・バーンスタインの生きた世界と残したレガシー」という講演会がある。『親愛なるレニー』の著者、吉原真里さんと『そこにはいつも、音楽と言葉があった』の著者、林田直樹さんらが壇上に上がる。

そして翌7月18日には、僕が企画したイベント「林田直樹、PMFとバーンスタインを語る」が開催される。

林田さんがバーンスタインのDVDを持ってきてくれることになっている。残念ながら僕は生のバーンスタインを聴いたことがない。林田さんにとって「真実のバーンスタイン」とはなんなのか、興味深々だ。

当日、会場で「クリークホール」の案内チラシも置く。工事着工は8月のお盆明けに決まった。来年4月のオープンに向け、着々と準備を進めている。


「クリークホール」の新しいロゴ

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