テークエム『THE TAKES』感想

初めて聴いた時の衝撃はもう薄れつつあって只々良いアルバムであることを噛み締める日々だけど、完全に自分に馴染んでしまう前に、刺さったとかエモいとかで片付けずに書いておきたい。

今年に入ってから梅田サイファーの楽曲を聞き始め、その圧倒的なスキルもずば抜けたメロディセンスも知っていた。
だけど今までのソロ曲は何曲かMVを見たことがある程度で正直あまりピンときていなかった。

きっかけは10/13新木場コーストでの梅田のライブだった。終盤メンバー紹介のMCでテークさんがアルバムについて零した「人生になったので」という言葉。
自分とさほど年齢の変わらない人がそこまで言えるってどんな作品なんだろうと気になった。

翌日背筋を伸ばして一聴し、この言い方はあまり好きじゃないのだけど、動けなくなるくらい喰らってしまった。2、3日は空腹も感じなかったんじゃないかな。

テークエムという名前の由来を知らないけど『THE TAKES』というのはほとんどセルフタイトルだと思った。

ラッパーは基本的に自分のことしか歌わないしこのアルバムも例外ではない。
生きてく上での葛藤や混乱、後悔が綴られ、中には聴いているだけで心臓を抉られるようなフレーズもある。だけどそれらの曲に自己憐憫の気配は微塵もなく、しっかり作品として成立している。BACHLOGICのトラックや心地よいフロウといった音の面も大きいのだろうけど、リリックにも理由がある気がしている。

大抵の人が満足してやめるところで彼は手を休めない。“深い”と手軽に形容される、こちらが勝手に感動してしまうようなラインを超えてくる。消費される物語で終わらせない強靭さと、何より軽妙さがある。

とは言えもちろん聴き手を突き放しているわけではない。むしろテークエム自身の話を聞いていたはずなのにいつの間にか自分の内面が引き摺り出されている。見ないようにしてやり過ごしてきたものを目の前に突きつけられる。

刺激的な作品ではあるが、目の前を通り過ぎていく一瞬の目新しさにハッとするような種類のものではなく、この先長い付き合いになるんだろうなと予感する、質量を伴った作品だった。

本当は全曲書きたいけど上手くまとめられたものだけいくつか。


My TAKES

俺はここにいるぞと叫んでいるような1曲目。特に前半。柔らかで危うい季節を過ぎ、今まさに自分の足で歩み出そうとする一人の人間の咆哮だった。

“ありのままのあなたでいい”と言ってくれる優しい音楽は素晴らしいものからクソなものまで山ほどあるけど、「作り物でも別にいいじゃん」と言ってくれるものは案外少ない。アルバム全体を表すような曲。最高。

Wake up on garbage

アルバムの少し前に出たEPにも入っていた曲。
救いがない曲だと思っていたけど、アルバムの流れの中で聞くとまた少し違う印象を受ける。

まるでキャバ嬢にせびられる
開業資金 aiooiin
娑婆像はfireしても
ダイオキシン  aioiin
デブな甘党はしゃぶってろ
フライドチキン  uaioiin
ダサいバースならば
I don't kick it  aio(n)iin

全てGetできてたんだろうな
偽物の自信 ieoooiin
一滴でも劇薬だ
テトロドキシン eoooiin
Wannabe big powerをぶち殺す
ボツリヌス菌 ouiuuin
喰ってみなよ
超リスキー ouiui

どこをどう切り取っても Yellow skin
正直に生きるだけで 敵が多過ぎる
ゴミ山で考える生きる意味
仲間と掴む Big city dream

「開業資金」~「I don't kick it」まで畳みかけるようにaioiinで踏んだ後、「偽物の自信」からは最後のiinは残しつつ微妙に変わって「get」「一滴」「big」「喰って」と呼応するように、(大袈裟に書くと)「偽ッ物の自信」「テットロドキシン」「ボッリヌス菌」と発音される。
音としての気持ちよさに寄る。

「超リスキー」以降は“ッ”の跳ねがなくなったことで、テンションやサウンドはそのままなのに急に歌詞が入ってくるようになる。坂道を転がり下りるようなリズムから、突然競歩になった感じ。

文章で書くのは限界がある。とにかく、音を優先する部分の発声と、歌詞として伝えたい部分の歌唱のバランスの取り方が凄い。


Yanpi

6拍子の曲だって最初気付かなかった。それぐらいキャッチー。「キラッキラッキラッ」がかなり好き。

スーパーフリーキーに生きるとバカボンはRIP SLYME?と思ったけど全然的外れかも。「My illな前髪」はそのままポジティブな意味で取ってたけど後続曲で出てくる歌詞でもしかしてそういう経緯?と思ったり。

作品と本人を結び付けすぎるのは危険だけどヒップホップはその塩梅が難しい。でもその演出の仕方も多分考えられていて、というか考えられてない訳なくて、受け取る側は変な罪悪感なんて感じずただ手のひらの上で転がされていれば良いのかもしれない。

Poltergeist

梅田メンバー参加曲。pekoさんのバースが好きだ。型通りのことをやってきちんとかっこいいのって何なんだろうな。
アルバムを通しで何度も聞くようになると、浮いてるとは違うけどこの曲だけちょっと異質に聞こえる。曲までの変換回数が少し多い感じ。

Mes(s) feat.Kvi Baba

非常にシリアスなエピソードが語られているがKvi Babaの伸びやかなフックが心地よくて救われた気分になる。癒すためのメスという視点が面白い。
「変わるなら今」という言葉が重い。

Ano word

最初に通して聴いた時、ちゃんと両面を、希望も歌ってくれてるんだなと明確に気付いたのはこの曲だった気がする。

Leave my planet feat.鋼田テフロン

いつかのcnann0でDJ松永が熱のこもった曲紹介をしていた曲。

わたしは落ちてもう本当に終わりにしようとした夜に死んだ友達に会って、最終的に戻ってくる曲だと思って聴いている。クソな日々とこんな苦しみとはさよならしたいし「君の隣へ」行けるしっていう。でも冒頭で「僕“ら”」と言ってるし違うかも。
色んな解釈ができるだけの厚みがある曲なんだと思う。

終始穏やかで残酷な美しさがある。2番の「森が燃えて」からの部分は白い光のような炎が浮かぶ。

先月ほとんど逃亡のような形で訪れた先で、銭湯から宿に帰る道すがら聴いていて何とも言えない妙な感覚に陥った。今ここにいるのを誰も知らないことへの安堵や解放感、少しの心細さで胸がいっぱいになって、その瞬間から自分にとって特別な曲になった。


Good Joe sleep in a taxi

初めはこの曲だけで記事を書くつもりだった。そのくらい好き。クリック音みたいなのがウインカー音に聞こえる。

アルバム最後のこの曲は「貴方じゃないの」とおそらく恋人に言い放たれるシーンから始まる。1曲目のMy Takesが「お前じゃないだろ」で始まるのと当然リンクしているわけで上手いなぁと思う。
同じような言葉でも状況と相手によって意味も変わってくる。ラッパーとして外野から投げ付けられるそれと、ひとりの人間として身内から言われるそれは全然違う。

1曲目からずっと現在の自分とそこに至るまでを歌ってきて、この曲では加えてこれからの展望が語られている。
Good Joe =いいヤツの内訳が「他人の変えられない部分を笑わない」と「良き世界をまだ諦めない」である温かさにグッとくる。

特に好きなフレーズがあって抜粋しようかとも思ったけど、歌詞だけ切り取って良さを伝えることは不可能なのでやめておく。実際に聴いてほしい。できたらアルバム通して。

最後の着地もすごい。それまでの曲が表情を変えるくらいの強度。この不甲斐ない人生も今からでも間に合うだろうかとおいおい泣いてしまった。

普遍的で答えが出ない、むしろ出ないのが普通であるような問いに、現時点での彼自身の答えが提示されていた。


きっと日本語ヒップホップのシーン上でどうとかも多分あるんだろうけど、もっと単純に、広く聴かれるべきアルバムだと思う。

音楽のことはわからないのでリリックのことばかり書いてしまったけど、単純に聴き心地がいい曲ばかりなのも凄い。

邦楽は星野源と藤井風しか聴かないな~みたいな人に聴いてほしいし、純文学が好きな人にも聴いてほしい。
CreepyNutsでR-指定が書く歌詞にやられてる人は絶対聴いた方がいい。

個人的には朝井リョウの『正欲』と並ぶくらい揺さぶられたし自分の中にずっと残る気がする。色んな人の感想が知りたい。

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