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美しくなりたい病

誰よりも美しい人だと思われたかった。

私がハイヒールを鳴らして街を歩くたび、男性に振り向いてほしかった。「可愛い」、「綺麗」とあれよあれよと褒め言葉を並べ、口説き落としてほしかった。ベッドの中では肌のキメひとつひとつに口づけを落とし、甘い言葉を並べられながら身体中愛してもらえるに値する美しい人になりたかった。

そう思うようになったのは、わたしがどのくらい醜い姿であるかを、絶望とも言える苦しい現実を理解したことから始まったのだと思う。わたしは昔ブサイクだった。おまけに太っていた。ブサイクで太っている現実を誤魔化すために、食べることに逃げていた時期もあった。服はだんだんと入らなくなり、腹は出て、足は太くなり、身体のいたるところに妊娠線ができる。顔はいつも浮腫んでいて、はち切れんばかりだ。

食べることがさらに私をブサイクにさせると、理解はしていた。しかし、日々の不安や、寂しさ、孤独、先の見えない将来、空虚感、ブサイクで醜い自分の姿。荒んで空っぽな心を満たし、一時的であれ幸せを与えてくれるのは、食べ物と呼べるのかわからない加工食品だけ。やめることはできない。

こんなブサイクの日常は辛い。誰からも愛されることはない。誰からも触れられることもない。誰からも中身を見てもらえることもない。悲しんでいようが、苦しんでいようが、誰も気にも留めない。唯一あるのは、醜いものとして扱われ、死んだ虫を見下ろすかのように、汚いものとして見られることだ。

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高校時代のある日のこと、放課後に公園で数人の同級生と共にたむろしていた。その公園は住宅街の中にポツンとある、公園にしては狭い場所で、中央に小さなすべり台が1つあるだけ。とりわけ用事はないが、いつものメンバーが数名が自然と集まるようになっている、お決まりのたむろ場所と化していた。

「王様ゲームをしよう」

悪ノリしたメンバーの1人がと提案する。王様ゲームって、合コンでよくあるやつじゃないか。王様が指定した番号同士がポッキーゲームをしたり、キスをしたり、ちょっと大人な行為をするお決まりのやつだ。王様ゲームと聞いて、ブサイクだから嫌がられるに違いない。私が参加すれば絶対に男子は嫌がるだろうと、瞬間的に悪い予感がした。しかし「ノリが悪いぞ」とあおられ、不参加は認められず参加するハメになった。

クジを用意している間、胸の鼓動が騒ぐ。クジを引こうと手を出した瞬間、ますます鼓動が早くなる。ドクドクドクドクと脈打つ。もし番号を指定されて、キスでもさせられたらどうすればいいのだろう。みんなの前で恥ずかしいことをさせられたら、ブサイクなだけで十分恥ずかしいことなのに、さらに恥ずかし目にあうじゃないか。悪い予感からじんわり冷や汗をかく。素早くクジを引く。

......王様じゃない。

引いたクジをみると、王様ではなかった。3番の札を手にしてしまった。これで恥ずかし目にあうターゲット候補が確定した。王様になった本人は「イェーイ」と高々と声をあげ、喜んでいる。当たり前だ、王様は王様だ。どんなこともさせることができる、権利を得たのだ。

いよいよ、王様が番号と罰ゲームを指示する時がきた。王様はニヤニヤと悪戯っ子のように笑いながら、メンバーの顔を眺め、品定めするように悩んでいる。とっさに取り乱してはいけない気がして、余裕の表情で高鳴る鼓動と冷や汗を隠しながら、指定される番号を待った。ブサイクが取り乱したら、それだけで醜さが倍増すると思ったからだ。

「えーっと…1番が3番の頭を撫でる!」

王様が勢いをつけて言った。1番はメンバーの友人にあたる他校の男子。長すぎず短すぎもしない適度な長さの黒髪で、トップに少しボリュームがある。何度かブリーチしたであろう髪のダメージも残っている。白いシャツを着て、ダボダボの腰履きしたズボン。そのズボンにはジャラジャラのチェーンまで付いている。地面に届きそうなほど長い。おまけに片手にはタバコをふかし、ヤンチャな今時の高校生という印象だ。

対して3番はこの私。ブサイクの私。番号を聞いた1番の男子は、嫌そうな顔をしながら「えぇ〜〜マジかよ」と言う。その言い方がやたら長ったらしく、嫌そうな感じを増幅させる。私はその言われように、苦笑いしかできない。身を引っ込めつつ、イヤイヤながら1番の男子が私の頭を撫でる。

「うわ〜こいつの髪の毛すんごい硬い、触ってみ?」

と、他の男子に勧める。気持ち悪るさと、馬鹿にしたのを半々にしたような物の言い方だ。その日の髪型はひとつ結びで、頭の形がハッキリと分かるようになっていたから、余計に硬く感じたかもしれない。しかし、彼が言うように、私の髪は本当に硬い。私はブサイクの顔の次に「髪」がコンプレックスになるほど、髪さえも美しくないのだ。的を突かれた気分がして、心の中で泣くハメになった。

髪の量が多く、チリチリとしたくせ毛。ごわごわと硬い髪質。この髪を解決するには縮毛矯正という方法があるが、ロングヘアーになると2万円近くはなる。高校生のお財布事情では、この金額の捻出は難しい。色々なシャンプーやトリートメントを試してみたり、ヘナも試したこともあった。

髪がコンプレックスなのに、ブサイクは気にしていることも知ってもらえない。ここで顔が可愛かったら「髪が硬いの悩んでいるんだよね」と明るく言えただろうか。そうしたら彼は「そうだったんだ、知らずにごめんね」と言ってくれただろうか。そもそも初めから顔が可愛かったら、イヤイヤ頭を撫でることもなく、その瞬間だけ疑似恋愛的な雰囲気になり、楽しい一幕で終わっただろうか。私がブサイクでなかったら、気持ち悪るがれることもなかったはずなのに。

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あの時あの公園で、王様ゲームをした話など、遠い過去となった。私を気持ち悪がった彼は、私のことなど覚えてもしないだろう。もしくは、あんな風に王様ゲームをしたことすら覚えていないのかもしれない。しかし、こう考えるときがある。あの時あなたが気持ち悪がった1人の女性が、長い時を経て顔を変えた。それも別人のように。その事実をもし知ったのなら、どんな顔をするのだろう。

そしてもし、王様ゲームをしたあの時に、昔よりも美しくなった私がそこにいたら、彼はどんな風に接してくるだろうか。きっと、気持ち悪がることはないはずだ。サラッと頭を撫で、普通に終わる。一言二言「いい匂いだね」「シャンプー何使ってるの」だとか、褒め言葉があってもおかしくはない。

当たり前だ。顔に大金をかけ、痛みを乗り越え、時間をかけ、顔を変えてきた。美しい髪の毛にするために縮毛矯正を定期的にかけ、高いシャンプーを使い、よい香りのするものを選んでいる。

想像の中で、手のひらを返したかのようにコロっと変わる彼の態度。現実世界でもありえるだろう。なぜ彼の態度は変わるのは、答えはシンプル。男は単純に、ブサイクよりも美人が好きだからだ。汚いものよりも美しいものが好きだからだ。

私は人生の中で、外見がいかに大切かを知っている。だから、美容整形を重ねることで、ブサイクな私を過去へ過去へと消し去ってきた。顔を変える私の旅は当面、終わりが見えそうにもない....


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