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直子さんの草木染めバッグと布小物

 私の働くトヨタ白川郷自然學校は世界遺産白川郷合掌集落にほど近い山の中にあります。訪れるお客様に白川郷や白山周辺で活動されている作家さんたちの作品をぜひご紹介したいと思い、自然學校のショップで販売させてもらっています。
 作家の皆さんそれぞれにものづくりに込められた思いや物語があって、とても店頭のPOPだけではお伝えしきれないので記事にしてご紹介させてもらうことにしました。

 今回ご紹介するのは佐藤直子さんの草木染バッグと布小物です。草木染めを始められたころのお話しを聞きたいとお願いしたところ快くOKしてくださったので、直子さんのカフェ「喫茶さとう」にお邪魔してお話を伺いました。


「喫茶さとう」へ

 白川郷バスターミナルの目の前、世界遺産白川郷合掌造り集落の入口にある「喫茶さとう」さんにはたくさんの人が集まります。海外からの観光客の方や、直子さんの人柄にひかれてご近所のご友人も次々に立ち寄っていかれます。こだわりの布のフィルターでドリップしたコーヒーと手づくりのお芋の砂糖菓子や郷土料理でおもてなしされ、気さくに話しかけてくれる店主の直子さんとの会話を皆さん楽しんでいらっしゃいました。

世界遺産集落荻町にある喫茶さとう
店主の佐藤直子さん

 店内は直子さん手作りのアート作品に囲まれています。桜の木のマユ細工は蚕のマユを染めてひとつずつ丁寧にお花がつくられています。様々な種類の草花の押し花で作った風景画はまさに白川郷の野山を感じられます。どの作品にも直子さんの草花と白川郷を愛する心が込められています。

マユ細工の桜

豪雪地域ならではの「雪さらし」

 草木染めのバッグや小物も販売されています。麻布を草木染めし、雪さらしを行った貴重な布で作られています。雪さらしは豪雪地域ならではの工程で、染めた布を雪の上に広げて置くと雪が汚れを取り除いてくれ、発色が良くなりきれいな仕上がりになります。その上、防虫効果もあるのだそうです。

雪さらしは白川郷の冬の風物詩でした

 赤やピンク色は茜(草の根)で染めたもの。黄色はコガヤという草で染めたものですが、このコガヤは白川郷の合掌造りの屋根の材料にもなるもので、まさに白川郷ならではの染め物です。コガヤはススキに似たような植物ですが、茎がストロー状になっており、乾きやすく屋根の材料として適しています。同じ材料できれいな黄色が出るなんて植物の持つ潜在能力と人の知恵はすごいです。
 それでも、はじめからきれいな色にはならず、ご苦労もあったのだそうです。

茜の赤とピンク


コガヤ染めの黄色


コガヤはこんな植物

全てが良い経験。染の会で多くのことを学んだ

 直子さんたちが草木染めを始めたのは30年ほど前、まだ白川郷の観光業が今ほど盛んではなかった頃のことで、冬の間は特に女性の仕事が無かったため、女性の仕事を作りたいという思いからだったそうです。大垣市から染め物の先生を招き、「白川郷シルクの里・染めの会」が始まりました。先生は手取り足取り教えてくれるのではなく、直子さんたちは先生の技を見ては自分たちで試行錯誤を繰り返したそうです。特にコガヤ染めは何度試してもきれいな黄色にならず、どうしても茶色くなってしまいました。8月~9月初めの青草の時期に刈ったものを使い、媒染方法をいつもと変えてみて、やっときれいな黄色に染まったときはメンバーで大喜びしたそうです。
「今思えば自分で考えなさいってことを教えてくれてた。全てが良い経験、染め物の技だけでなく、染めの会では人と人との関わりやいろんなことを学んだ。」とおっしゃっていました。

 染の会の仲間でロタ島へ染め物を学びに行ったり、石垣島へミンサー織を見に行ったりもしました。それはそれは楽しかった!のだそうです。それから20年続けてきましたが今は担い手不足で染め物の活動は休止中です。現在はこれまでに染めてこられた布をバッグやコースター等の小物にして、気に入ってくださる方に使ってほしいという思いでおられます。インターネット等で販売しないかというお誘いもあるそうですが、現在は喫茶さとうさんと自然學校でしか販売していないとのこと。
「どこでも買えたら面白くないやろ?」と笑っていましたが、大切な宝物のような商品をたくさん販売することよりも、商品との出会いを大切にしてくれる方に使ってほしいという気持ちが伝わってきました。


藍染めのコースター


今では貴重な白川郷産の麻の布は染めずにそのままの色で

 染の会の皆さんは染め物を復活したいと話されているそうです。文化を自分たちで生み出し、いろんなことに挑戦されてきたお話を聞けて、とても励まされた気持ちになりました。

 白川郷へお越しの際は、ぜひ雪さらしをした草木染めの色合いを手に取って、ご覧いただきたいです。喫茶さとうさんへもぜひお立ち寄りください。

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