ドキドキ!プリキュアについて【14】

 32話はドキプリで数少ない季節ネタ、文化祭のお話です。2話からモチーフとして使っている「幸福の王子」ですが、その物語の本質は悲劇です。貧しい人たちに金箔や宝石を分け与えた王子の像が輝きを失い、打ち捨てられてしまうように、マナもジコチューとの戦いで最後は命を落とすのではないかと考えていました。*1

 ヒーローは孤独です。特にドキプリは「大切な人たちを戦いに巻き込まないために正体を明かしてはならない」という大原則があるが故に、どんなに戦いが辛くても、その苦しみを誰にも打ち明けることは出来ません。勿論、マナには仲間がいますが、ジコチューという人間の心の闇から無限に生み出される怪物を相手に、たった五人(+妖精)で立ち向かっても、勝てるハズがないだろうと思っていたのです。

 そんな「悪い予感」が徐々に変化して来たのは、11、12話でしょうか。どちらも、マナが振り撒いた愛の種が人々の心に芽吹き、花を咲かせていくお話です。純くんやソフトボール部員たちのように、マナに感化された人たちが、誰かをいたわる優しい気持ちを持つことが出来たなら、世界は変わるのではないか……「幸福の王子」とは違うエンディングを迎えられるのではないかと思い、構成したのがこのお話です。人に厳しい亜久里と、優しいマナのコントラスト。これまでドラマのメインストリームに隠れがちだった二階堂や百田たちが、ここぞとばかり活躍しているのも見所のひとつです。復帰したジコチュートリオも張り切っています。

 33話は、ありすとマナ、六花の出会いのエピソードです。もともと映画『マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス』のために用意していた物語だったのですが、尺に収まらなかったので(汗)こちらに持ってきました。「ぼくらの七日間戦争」じゃないけれど、子供たちが砦を築いてありすを守るみたいなお話でしたが、流石にテレビではしんどいので、四葉家のセキュリティシステムを利用して大人たちを撹乱するお話になりました。ありすのパパ・星児は勝新のような男性味溢れるデザイン。健太郎や悠蔵とは明らかにラインが違ってる(笑)。ロゼッタバルーン初登場の話数でもありますが、40話以降は羽根が生えてしまうため、バンクの使用はこれ一話きり。是非ともその目に焼き付けてください。

 34話からは、これまでどちらかというとマスコット扱いだったアイちゃんとマナたちの絆を強化するためのイヤイヤ期シリーズです。ぐずるアイちゃんにお手上げ状態のマナ、六花に、あゆみと亮子がそれぞれ母の立場からアプローチする厚みは成田さんならでは。アイちゃんの眠りを妨げるジコチュー、「候補者の名前ばっかり連呼する選挙カーはどうですか? あれ、赤ん坊を寝かしつけた後に来ると腹が立つんですよねー」って実感がこもりまくったアイディアも出たんですけど、あえなくボツになりました(笑)。暴走族のアクセル空吹かしを完璧に再現する岩崎さんのジコチュー芝居にもご注目ください。

 35話は、まこぴー虫歯話。僕は幼い頃、はじめて連れて行かれた歯医者がただただ怖くて、口の中を覗くミラーを噛み割って逃げ出したことがあります(笑)。その体験を元に描いたエピソード。まこぴーアイドル設定は忘れがちなので、自分の担当話数の時は必ず押しておかないとという使命感。ちなみに「芸能人は歯が命」は東幹久と高岡早紀のCMですが、ラケルが知っていたかどうかは謎。

真琴がキュアエースに王女の面影を見るシーンは、それこそエース初登場の23話からでも入れておくべきなのではないかと悩んでいたのですが、このタイミングで入れることになりました。終盤に向けての伏線としては、ここしかないという感じです。ロゼッタの「響くのですね、虫歯に!」はアフレコブースの中で爆笑になっていました。おかしいな、真面目な台詞のハズなのに(笑)。

 実は、冒頭のイヤイヤ期の説明は、アン王女からではなく、突然舞い戻ったジョー岡田によって語られるプランもあったのです。プシュケー分離のくだりからなにから全部明かした上で「アイちゃんの育児がうまくいくかどうかで世界の命運が決まる」みたいな壮大なことを話す予定だったのですが、「ネタばれするには早すぎる」ということでナシになりました。

 36話はラケルの恋の話。閑話休題っぽいエピソードですが、その13でも触れた通り、本当はこっちがやりたかったのです。29話に引き続き、この話も高橋ナツコさんが担当。池田洋子さんの演出もあいまって妖精たちがいきいきと可愛らしく描かれています。「おいこら、おマル!」「おうともさ!」など名台詞も連発。「ピョン吉のようにダイヤモンドを引っ張って体当たり」という指示はこちらで出したものですが、頬が腫れてしまったラケルの姿はなんだか痛々しかったです、はい……。

 37話は亜久里のニンジン克服話。昔に比べて人参は美味しくなっているので、今の子供たちに共感を呼びにくいのではないか。別の野菜(たとえばピーマン)が良いのではという話も出たのですが、土にまみれる畑仕事の絵面が欲しいのと、放送時期(関東圏では10月20日でした)を考えて人参ということに決まりました。もちろん、亜久里と人参の組み合わせの良さも込みです。すんなりまとまる話かと思われたのですが、監督が「ドキプリらしさが足りない」と本読みで粘り、決定稿直前で大幅修正を指示! 田中仁君も脚本で見事に応えて「自分が育てた人参一本一本に名前をつける」「畑を守るためにジコチューに立ち向かう」角野秋という熱血キャラクターが誕生しました。ちなみに人参の着ぐるみは初稿から出ています。生天目さんは「指示はされなかったけど、ああいう芝居が求められているんだろうなー」ということでああなった(笑)そうです。

 38話は、アイちゃんグレる。ブルースブラザースばりにサングラスをかけたアイちゃんの絵面の面白さを頼りに作ったお話。米村さんがいろいろノッてくれて、アイちゃんを利用するつもりが逆に振り回されるベールたちの間抜けな様子を活写してくれたのと、小川さんが得意とする「ギャグと感動とアクションのメリハリ」で腕を振るってくれたおかげで、アイちゃんイヤイヤ期シリーズの総まとめとなるいいお話になりました。

 さて、次回はいよいよレジーナ復活編です。お楽しみに。

「レジーナ様! でしょ?」

*1 事実、一番最初に作ったシリーズ全体構成案には最終回に「マナ、死す!?」という衝撃の一言が書いてあります。キングジコチューとの戦いで力を使い果たして一度は命を落とすけれど、最後は奇跡で復活するとか、そんな展開を想定していたのです。安易な奇跡が嫌いな古賀監督のおかげで、実際はマナが自力で復活するという前代未聞の展開になりましたけど(笑)。

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