桜色のフィルター越しに眺める


2018年3月15日(木)

朝から1日かけて、確定申告を淳子とそれぞれすすめる。まずは図解してみようと、タスクを細かく切ってフローチャートのようなものをつくってみる。ぼく自身の残りの作業としては、二重計上されてしまっている売上の調整、源泉徴収税のまとめ、口座残高とのずれの修正などがあった。昨晩に比べればだいぶマシに。昨日は過集中しすぎてしまい、自分がなんの作業をしているのかすらわからないような状態になり、パニックを起こしてしまった。いったいなんで2018年の最新の帳簿をきれいにするところに手を出してしまったのか。まったく自分でも理解できなかった。今日はペースを守りながら、着実に作業を進めようと固く決意した。

結局のところ、ぼくはやるなら完璧にやり遂げたいという思いが、なぜだかどんな小さな作業にも生まれてしまうということがよく理解できた。なんども自分に言い聞かせていかなければならないが、珠玉の一品より、生活を構成する力の抜けたものが尊い。サステナビリティは尊い。なぜならぼくらは(きっと)明日も生きていくのだから。刹那は美しいがその尊さに魅せられすぎると死を引き寄せる。きっとぼくはその力が強いから、だから余計に繰り返される日々の美しさの側に能動的な視線を送り続けたい。毎日経費を精算したい。日記をラフに書きたい。どんな作業もそんな気分で、軽く取り組みたい。そのためには土壇場の力に頼らなくてすむようにしたい。

14時に作業を終えて、プリントする。控えと間違えないよう入念に確認した上でわけて、捺印。すこし考えてせっかくなので(しかしこの「せっかくなので」って言葉の使い方が好きだ。大体そのあとに書かれるのは実際のところ、大したことではないことが多いことも含めて好ましい)実印を押した。駅前の郵便局までいって手続きを追えると、一気に疲労が抜けほのかに軽躁状態に。はるがきた、はるがきた!と淳子と駅前で小躍りする。目に映る景色すべてに、ソメイヨシノのあわいピンク色がかさなって、フィルターを通して見ているような感じ。どこかで祝杯をあげたいなと思い、高架下の寿司屋に入ってみる。その前に横の本屋でPOPEYEを買った。「味な店」という100Pちかくあるブックインブックが1番の目当てで、知り合いの編集者が平野さんと一緒にがんばってつくったものだ。平日の昼に飲める場所という点で、寿司かそばというのは常日頃から頭の中に置いておくべきアイディアだ、という気がした。

カウンターにはいったい何の仕事をしているのだろうか想像のしにくいおじさんが2人で日本酒を飲んでいて、テーブル席には一貫だけ残った鯖をちょっとぎょっとするような目で見つめながらガリをつまみに瓶ビールを飲んでいるおばあさんがいた。僕たちは1番奥のカウンター席に入って、僕はビールを頼んだ。たこの唐揚げ、茎わさびのつけもの、春の5貫盛り(さよりなど)、春の海老3貫(くるまえび、甘えび、桜えびの軍艦)、まぐろの3貫などを頼む。

春の盛りを頼んでとくに考えず人手にとって食べたものからサヨリの香りが鼻にぬけ、あこれはサヨリだと思ったらぴったり当たっていたので、うれしかった。自分の感覚の精度が高くキープされているとうれしく、安心する。だいじょうぶだ、という感じになって日本酒も一杯飲む。追加でとろたくとうにを頼む。しかしアルコールを入れても頭はバキバキな状態で、疲労がかなり蓄積されているはずがが休まらない。オーバーヒート気味になる。淳子と日本という国とデザインについて激論を交わしてしまい、ちょっとおっかない空気になる。それぞれがなにか自分の職業の代理戦争をしているような感じになってしまい、あ、この空間はまずいと思って会計をした。

外に出たら、ああ、はるはる!となって大丈夫になった。何が起こっていたんだろうと話し合った結果、ルサンチマンデザイナーおばさんと全共闘日本はもう俺たちの青春時代を境に終わっちまったんだよおじさんが、それぞれに憑依してしまった結果なのでは?という仮説を立てたら、だいぶ納得できるものだったのでそれでおしまいにして帰った。

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武田俊

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