液‐液相分離の勉強ノート 1/n

液-液相分離がTwitter上の化学者や生物学者で人気を博していたので、なんじゃらほいと。

意味的には液相と液相とが分離している状態。
液体の中に別の液体が集まった液相が形成されてい状態。
簡単に言えばドレッシングのオイル。
ただしことは簡単ではなく、ドレッシングのオイルは水に溶けるやつと溶けないやつが分離している状態なんだけど、液‐液相分離は両方とも水に溶けるやつなんだけど密な相と疎な相で分離している状態。

このnoteは勉強している内容をアウトプット?メモしている、いわゆる勉強用のノートです。特に誰かに訴えたり広めたりするためのnoteではありません。

■ 細胞内は高濃度
細胞には100 g/L以上もの高濃度のタンパク質が含まれている(1)。このような高濃度のタンパク質は凝集しやすく,試験管では再現するのも困難だ。では細胞内には,いったいどのような仕組みがあるのだろうか? タンパク質凝集をふせぐためのシャペロンや,凝集したタンパク質をほぐすシャペロンなども細胞内では活躍しているが(2),もっと普遍的な仕組みがあるのかもしれない。
ヒントになるのは,特殊な細胞内に存在する「オスモライト」である。ある種の糖質やメチルアンモニウムなどのオスモライトは,細胞内のタンパク質の構造を安定化する働きがある(3)。試験管内では,カオトロープと呼ばれる無機イオン(4)や,アルギニン(5),アミン化合物(6)など,ありふれた低分子がタンパク質の凝集をふせぐことも知られている。そのため,細胞内にたくさん含まれる低分子が,実は,タンパク質の分散に役立っているのでは,と推測することも可能である。
1. Milo R. What is the total number of protein molecules per cell volume? A call to rethink some published values. Bioessays. 2013 Dec;35(12):1050-5.
2. Hartl FU, Hayer-Hartl M. Molecular chaperones in the cytosol: from nascent chain to folded protein. Science. 2002 Mar 8;295(5561):1852-8.
3. Yancey PH, Clark ME, Hand SC, Bowlus RD, Somero GN. Living with water stress: evolution of osmolyte systems. Science. 1982 Sep 24;217(4566):1214-22.
4. Zhang Y, Cremer PS. Chemistry of Hofmeister anions and osmolytes. Annu Rev Phys Chem. 2010;61:63-83.
5. Lange C, Rudolph R. Suppression of protein aggregation by L-arginine. Curr Pharm Biotechnol. 2009 Jun;10(4):408-14.
6. Shiraki K, Tomita S, Inoue N. Small Amine Molecules: Solvent Design Toward Facile Improvement of Protein Stability Against Aggregation and Inactivation. Curr Pharm Biotechnol. 2015;17(2):116-25.
カオトロープとは……より水に溶けやすくするための添加剤。水のエントロピー増加に寄与し疎水性相互作用を弱める。塩溶剤(対義語:コスモトロープ, 塩折剤)。

高濃度タンパクの凝集を防ぐために低分子化合物やイオンが関係しているということ。

そこでこの記事で注目されたのがATP(アデノシン三リン酸)である。
ATPは生物のエネルギー通貨として利用され、ATPを利用する酵素のミカエリス係数は数μMオーダー。対して細胞内のATPは数mMオーダーとATPが過剰であるといえる。

ATP……ATPの連続したリン酸基は不安定(マイナス電荷が連続していることから想像に難くない)。そのためATPがリン酸基を手放す際にエネルギーを放出する。それによってエネルギーが必要な反応を起こすことができる。
ATPがリン酸基を放出=エネルギーを支払う。そして例えばGFPなど発光タンパクが光(光エネルギー)を出す=エネルギーを使って何かする。
ミカエリス係数…酵素反応の速度が最大速度の半分になるときの基質濃度。低いほど反応しやすいと思えばいい。

ATPの構造式は両親媒性なので疎水性のものを水中に拡散させる、カオトロープのような効果がある。こういう物質をハイドロトープと呼ぶ。

ALSの原因となるFUSタンパクは細胞内で液滴のようになり凝集する性質を持つ。
試験管内でタンパクの水溶液にATPを添加したところ、液滴形成を阻害する効果が見られた。

FUSタンパク……Fused in Sarcoma, 別名TLS(Translocated in Liposarcoma)。Ewing Sarcoma原因遺伝子であるEWSと似た構造を持つ。ALS以外にも細胞のガン化にも関与している。大学・大学院で研究した。詳しくはコメント欄に書く。

アフリカツメガエルの卵母細胞にはタンパクとRNAで構成された核小体の存在が確認されている。
脂質二重層(リン脂質二重層)による生体膜で区切られた核小体ではなく、液‐液相分離によってできたと考えられる。

卵母細胞……卵子になる前の細胞。卵母細胞が減数分裂を経て卵子になる。
核小体……細胞内の核の中でも分子密度が高いところ。rRNAの合成やリボソーム複合体の形成が行われる。


加齢に伴って細胞内のATPが少なくなり、タンパクが凝集しやすくなり、アミロイド化し、神経変性疾患が起きるという仮説。

また代謝が活性なときは細胞質の流動性が高いということから、細胞質の流動性にATPが寄与し、ATPが少なくなると細胞質の流動性が低下し代謝が衰えてくるという仮説。

これまで単なるエネルギー通貨と考えられていたATPだが、ATPそのものが病理や代謝に関与しているのではないかという仮説。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?