見出し画像

パリッコ『酒場っ子』刊行記念 メテオ×スズキナオ×パリッコ鼎談 「飲んで、恋して、おしゃれして!」

メテオ:「秘密結社MMR」や「青い果実」などのユニットでも活躍する、業界支持率の異常に高いラッパー。
スズキナオ:テクノラップバンド「チミドロ」のリーダー。パリッコと酒を飲むだけのユニット「酒の穴」も組んでいる。

パリッコ:1978年東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター、他。酒好きが高じ、2000年代後半よりお酒と酒場関連の記事の執筆を始める。雑誌でのコラムや漫画連載、WEBサイトへの寄稿も多数。著書に、スズキナオとの共著『酒の穴』(シカク出版)、11人の著名人との対談集『晩酌百景』(シンコーミュージック)など。雑誌『酒場人』(オークラ出版)監修。趣味は酒と徘徊。(プロフィールは刊行時のものです)

画像1


人が「オシャレ」と口にする時、同時に「酒」とも言っている

ナ オ:昨日の夜、「よし、仕事しなきゃ!」と机に向かったんですが、結構酔っぱらっちゃってて。
パ リ:まず、よく飲んだあとに机に向かえますね。
ナ オ:やんなきゃいけないのにやってないことがあって、絶対に向かわなきゃいけなかったんです。そんで、YouTubeでBGMでもかけるかな、つって、曲聴いてたら、泣けてきて。
パ リ:たまにある。妙に多感になってる時。
ナ オ:そんで、「あー泣いた泣いた」と。満足して、寝ました。
パ リ:仕事してねー。
ナ オ:してねー。
メテオ:それはその、生まれてきたことが悲しいからとかですかな? それとも、今まで会った人たちの優しさに気づいてしまった喜びの涙でしょうか。
パリ:聴いてた曲にもよりそうですが。
ナ オ:どちらかというと悲しみっすね。
メテオ:なるほど、悲しみの。間違いない。
パ リ:そもそも人間って、悲しすぎますよね。いったん全裸になって鏡の前に立ってみてくださいよ。
メテオ:悲しすぎます……。
ナ オ:3歳ぐらいの子どもの大きさが一番可愛いのに、なんだろうね、妙に背が伸びて、ヒゲが生えて。
パ リ:年々不完全に向かっていく。
ナ オ:そして酒を飲んで。それもおしっこになるだけでしょう。
パ リ:「なにやってんの?」っていうね。
メテオ:金もなくなりますな。
ナ オ:そうっす。働いて得た紙で、飲んで。
パ リ:1枚でもなくそうもんなら発狂ですよね。まさに紙切れひとつに右往左往。
ナ オ:そんな大切な紙を汁に替えて。
メテオ:酒飲まない人は、メルカリで服買ったり、自分を磨いてるわけですよな。
パ リ:そういえば昨日、メテオさんと原宿を歩いていたんですけど、もう、がむしゃらなまでにオシャレな人がいっぱいいるんすよ。
メテオ:はい。すごかった。
パ リ:それで、「そういえば『お洒落』って、『酒』って文字入ってますね」と。語源が気になりましたね。
メテオ:僕のイメージは、平安時代の何枚も服着てるような貴族が、酒飲んで落ちてたから。それであって欲しいです。
パ リ:当時は酒を飲むこと自体がシャレてたのかも。
メテオ:洒脱ということばもありますな。
パ リ:それもオシャレに通じる。
ナ オ:酒が抜ける的な雰囲ありますね。でも調べてみたんだけど、気が利いている、垢抜けているという意味の「戯(さ)れる」という言葉が変化して、そこに「洒落」という字を当てたようだね。
パ リ:急に学習漫画みたいな口調に。
メテオ:ハカセ!
ナ オ:はは。つまり、酒は直接関係ないっぽい。でも酒っていう字を当てた誰かはいるんだから……。
パ リ:僕も調べてみました。「洒落:心・ふるまいなどがさっぱりしていて、深く執着しないさま」
ナ オ:酒が落ちる、酒が脱げるという状態がサッパリしてるってニュアンスなのかな。
メテオ:酒、飲んでる時のほうがサッパリしてますよな。どうでもよくなる。
ナ オ:確かに。飲んだ翌日、一番サッパリしてない。あーでも、完全に二日酔いが去った時の「洒脱」状態は確かにいいな。水がうまくて。
パ リ:そもそも、「洋服がオシャレ」とかって、そっからさらに意味が進んでる感じですね。「粋な奴だ」とかそういうイメージから派生したんだろうな。
ナ オ:いくら原宿の人が「あ、その服オシャレー!」とか言ってても、字は「お洒落」だからね。
パ リ:つまり無意識に「酒」と言っている。都民が「東京都」と書く時、無意識に「京都」とも書いているのと同じですね。
メテオ:確かに!
ナ オ:そうそう。「たけし」と書く時、「こけし」とも書いている。
パ リ:ははは! それはちょっと違う……って否定しようとおもったけど、確かに書いてるな。ただ、たけしと書く時があまりないけど。
ナ オ:書かないですね、だって、たけしじゃないもんな。

※編集注:正確には「洒」。「すすぐ」という意味だそうです。

画像2

紙 → 汁 → 紙

パ リ:とにかくですよ、いくらオシャレな人たちがオシャレに尽力して生きてても、無意識に「酒」と言ってるし、服を脱げば誰もが悲しい存在である。そしてそんな、悲しい存在のひとりである僕が、紙を汁に替えまくった記録を1冊の本にしました。その特典ペーパーの鼎談を今日はよろしくお願いします。
ナ オ:あ!
メテオ:おお!
ナ オ:汁がまた紙に変わったんだね。
パ リ:紙 → 汁 → 紙。
メテオ:すごい。
ナ オ:普通は汁で終わりなのに、紙に戻し
たのは本当に偉いです。
メテオ:転んでもタダで起きない。
パ リ:はは、独特な褒められ方。
ナ オ:『酒場っ子』って、「あかちょうちん」とか「細雪」とか、すでにない店のことも書かれてますよね。
パ リ:はい。自分の思い入れだけを基準に、気にせず書いてしまいました。
ナ オ:現役の店も記憶の中の店も並列に置かれていて。だから、ガイドブック的に読むこともできなくはないけど、それよりはなんだろう、自分も何かを思い出したり。
パ リ:そうなんですよ。この本を読んで「この店行きてー!」って思ってもらえるのも嬉しいんだけど、それよりも「自分の好きな店はあそこだな。今夜いってみっか」っていうほうがより。
メテオ:一生その店に行かない人でも楽しめますな。
パ リ:それが理想ですね。
ナ オ:紀行文を読んでるような、冒険記を読んでるような、普通に読み物としておもしろかったっす。
メテオ:頭脳旅行ですな。
ナ オ:頭脳旅行です。
パ リ:ありがとうございます。逆に、ガイドとしてはあんまり参考にしないでほしい。味の感想とか、とんちんかんなこと言ってるかもだから。「豚肉」って書いてあっても「牛肉」かもしれないから!
ナ オ:はは。

ポジティブ&オシャレな飲酒ライフを

ナ オ:でも、なくなった店のことをよくあんな詳しく書けますね。
パ リ:全部自分の好きな店なわけで、自分がネットに書いた記事や、撮っていた写真が一番の資料になりました。
ナ オ:それってどんな気持ちなんだろう。過去の自分との共同作業ですよね。
パ リ:なんか、日々酒を飲んでると、記憶とか曖昧になっちゃう部分があるじゃないですか。特に「最近飲み過ぎてるな〜」って時期。「あれはいつだっけ? っていうか夢だっけ?」
ナ オ:うんうん。
パ リ:そんなあやふや感が、少しありましたね。現役の店と二度と行けない店が並んでいるっていう。
メテオ:吉永小百合の若い頃に惚れるような感覚ですかな
パ リ:あー! それも不思議。昔の日本映画の美女、今はおばあさんなのか、亡くなってるのか。しかし、考えるのも無粋だし。
メテオ:「ヤングジャンプ」のグラビアに急に吉永小百合の若い頃が出てきたり。
ナ オ:おもしろい。
パ リ:時間軸ぐちゃぐちゃ。
ナ オ:「めっちゃかわいいけど水着が古い!」
メテオ:酒も水着みたいに昔と違うんですかね? 最近どんどんうまくなってる気がして。
ナ オ:よく、昔は焼酎に独特の臭みがあって、それを消すべく色々工夫したみたいに言いますね。
パ リ:下町ハイボールのエキスが開発されたり、ホッピーで割るというのもそうだろうし。そう考えると酒は、かなりの勢いで変わっているものですよね。90年代なんて我々からすると最近だけど、その頃まで一級二級とかの等級が残ってたし。
ナ オ:あー。それでいて、最近の酒、安いですし。
パ リ:安い! 自分にも手が出るもんなー。
メテオ:最高であります。しかも少し歩けば買える。自販機なんかもある。自販機飲みもいつかしましょう。
パ リ:やりたいっすね。自販機の横にゴミ箱があって、よく「持ち込みはご遠慮ください」と書いてありますよね。ということは、缶を捨てたいならば、そこで飲むしかないということになる。
ナ オ:「ここで飲め」と書いてるようなものですな。
パ リ:そこで自販機飲みですよ。
メテオ:飲みたいですな。カッ! と。
パ リ:カッと飲んで颯爽と去る。
メテオ:オシャレすぎる。
パ リ:その間、ひととき自販機と対話してみる。
メテオ:「いやー、機械もオレらと変わんないね」とか言って。「お前に何がわかる!」とか怒られたりして。
パ リ:対話があれば、説教されることもあるでしょうね。仕事は自分よりできるわけだし。
メテオ:真面目ですからな。
ナ オ:俺が自販機なら違うの出しちゃうな。
パ リ:あたふたしてね。ちゃんと補充の人が正しいラインに入れてくれてるのに、中で余計なことしちゃう。
メテオ:ははは。良いですな。そのほうが人間味があります。
パ リ:人間と自販機の境界というのも、意外と曖昧なもんですね。AIはどんどん神経が細分化されて人間に近づいて、我々は酒でどんどん細かいことそぎ落として。
ナ オ:機械に近づいてね。単純な機械。ボタン押すとビーと鳴る。それぐらいならやれそうだ。
パ リ:はは、でも寝てたら起きないでしょう。押されたくらいじゃ。
ナ オ:起きない起きない。
パ リ:夜はたっぷり寝る、ボタン押すとビーとなる機械。それが我々の限界。この対談、何が結論なんだ。
メテオ:若い人は酒を飲まなくなり、我々は加齢プラス飲酒で倍のスピードで使い物にならなくなっていく。
ナ オ:うん。若い人や機械の世話になっていく。
メテオ:悲しい。
ナ オ:だけどそんな悲しい酒を涙に変えずに「本」にした男がいたと。
パ リ:は! 『酒場っ子』だ! うまくつながるもんですな〜。しかし、これだけ悲しい悲しいと言っといてなんですけど、お酒は楽しく適量を! ポジティブに!
メテオ:そう。絶対ポジティブですよ。
ナ オ:オシャレにね。

パリッコ『酒場っ子』刊行記念 特典ペーパー より転載
メテオ×スズキナオ×パリッコ鼎談 「飲んで、恋して、おしゃれして!」 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?