見出し画像

勘ぐらせる政治 (中島岳志『保守と立憲』より)

安倍晋三・菅義偉内閣と続いた自民党政権は、どのような政治をおこなってきたのか。
いまあらためて振り返ることが必要なのではないでしょうか。

中島岳志『保守と立憲』(2018年刊)から、必読論考を5日連続で公開します。

第三弾は、「勘ぐらせる政治」(2017年)です。


保守軽い

『保守と立憲 世界によって私が変えられないために』(スタンド・ブックス/2018年)「勘ぐらせる政治」195p~196p

勘ぐらせる政治


「森友学園」の小学校設置認可をめぐる問題(二〇一七年)では、政治家の圧力の有無と共に、役人たちの「忖度」が話題になっている。現在の首相官邸は、懲罰的な人事を繰り返すことで、巧みに官僚をコントロールしている。官僚たちは、官邸からのまなざしを内面化し、官邸の意向を忖度して動く。官邸の思惑に従順な官僚組織ができ上がる。

 安倍首相はこの「忖度」のメカニズムを熟知している。
 二〇〇一年、NHKで番組改変問題が起こった。従軍慰安婦問題を取り上げた一月三十日のETV特集シリーズが、事前に右派から抗議を受けたことで改変され、当初とは大きく異なる内容となって放送された。

 この問題では政治家の介入の有無が議論になってきたが、二〇〇五年一月十二日、朝日新聞が松尾武放送総局長の証言を取り上げ、放送前の政治家との接触を報じた。松尾は、ある政治家と面会している。当時、内閣官房副長官だった安倍晋三だ。

 松尾はその時の面会の様子を、次のように語ったという。

「先生はなかなか頭がいい。抽象的な言い方で人を攻めてきて、いやな奴だなあと思った要素があった。ストレートに言わない要素が一方であった。『勘ぐれ、お前』みたいな言い方をした部分もある」(『月刊現代』講談社・二〇〇五年九月号)

 証言が事実であるとするならば、重要なのは、安倍が「勘ぐれ」と言ったことである。安倍は、直接的に番組の改変を指示していない。内容に踏み込んで、攻撃を加えてもいない。発した言葉はあくまでも「勘ぐれ」だ。

 これは人を服従させるための巧妙なテクニックである。言われたNHK幹部は、権力のまなざしを内面化し、安倍の意向を忖度して行動する。勝手にNHK予算の国会承認への悪影響を想起するのかもしれない。もちろん「勘ぐれ」と言った本人は、そのように仕向けるのである。圧力の証拠は残らない。結果、直接的な指示がないにもかかわらず、番組内容への政治介入が具体化する。権力への服従が加速する。

 安倍政治の本質は「勘ぐらせる政治」である。これは秘密保護法や共謀罪と連動して、いずれ一般市民に刃が向けられる。権力に対する自発的服従を生み出す。

 森友問題と共謀罪は、構造的に連動している。私たちは手遅れになる前に安倍政治の本質を打破しなければならない。

     ■『週刊金曜日』金曜日・一一二五号・二〇一七年二月二十四日

『保守と立憲 世界によって私が変えられないために』(スタンド・ブックス/2018年)「勘ぐらせる政治」195p~196p


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?