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『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』 記事の思い出 (スズキナオ) その1

朝日新聞「天声人語」でも紹介されるなど話題となり、現在までに5刷と大好評の『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)。

著者・スズキナオさんが、収録の全6章29編についての思い出を語ります。

各章ごとに6日連続公開、第一章です!


第1章 さっきまで隣にいた人がまったく関係ない人になって消えていくその瞬間がいつも不思議だーー人


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① 東京―大阪、深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと

『デイリーポータルZ』の担当・古賀さんに「取材に行かず、回想を元にしたエピソード記事を書いてみませんか?」と提案していただき、自分が思い出せることで「へえ」と思ってもらえるようなものって何があるだろうと思って書いた記事。深夜高速バスに乗るたびにその時にあったこと、感じたことなどをメモするようにしていたので、それを見返しながら書いた。

高速バスとは、特に深夜の高速バスとは、つくづく不思議な乗り物だと思う。真っ暗な中、道路脇の明かりが流れていく車内が、宇宙船の内部のように思えてくる時がある。その宇宙船にはいろんな人が乗っている。みんな身を縮めて静かに到着を待っている。(28p)

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人生の記憶を全部順番に思い出そうとしてみる

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お母さんの知恵みたいなひと工夫


② 並んでも食べられないラーメン! 友達の家の「家系ラーメン」を食べてきた

自分で食べる用に適当に作ったラーメンの「うまくもマズくもない感じ」がおもしろいなと思った。どんなに雑でも、自分の料理だから仕方なく食べてあげられる。明らかな失敗でも許す。

家で作って食べるラーメンには、お店のラーメンにはない魅力がある。案外おいしくできる時もあれば、無の境地で食べ終わるような時もある。しかしどれもが、それぞれ一回きり、一期一会のラーメンなのだ。(40p)

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たいていこんなかんじのボーッとした表情で食べる

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ハナイさん(左)とそのお母さんのユキコさん(右)


③ あなたの知らない「昼スナック」の世界

昼間から営業している「昼スナック」というものが増えつつあると教わり、たずねてみた記録。取材後、近所にも同様の店があることに気づいて、自分が見ている町にまったく知らない地図が重なっているような気がした。お客さんが徐々に高齢化し「昼から飲んで歌って夕方には家に帰るのがちょうどいい」という需要にこたえたものだという。東京にも増えてきていると聞く。

あとから来た男性がカラオケを1曲予約したので、何が来るかなと思っていたら、きゃりーぱみゅぱみゅ「100%のじぶんに」という曲であった。本日2度目の意外曲である。
野太い声で歌われるきゃりーの歌。(49p)

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瓶ビールも1000円のセット料金で飲める

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ザ・スナックのつまみという感じで嬉しい


④ 銭湯の鏡に広告を出した話

銭湯の洗い場の鏡にくっついている広告(「鏡広告」という)がどうやって作られているかを追いかけた記録。大阪にあるミニコミ専門書店「シカク」千鳥温泉のおかげで書くことができた。現在、『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』の広告の掲載を発注しているところ。完成が楽しみ。

その後もツヤ子さんは他の鏡広告を次々取り付けていく。中には、古い鏡を取り外す際に劣化したネジが切れてしまうものもあるという。そんな場合は「ジャンピング」やドリルで切れたネジを搔き出す必要がある。それができたら、ドリルで穴をあけ直したところに、「埋め木」と呼ばれる道具を差し込み、ノコギリで削り取る。こうした作業ももちろん、全部ひとりでこなしている。千鳥温泉のタイルは質の高いものを使っているからその分硬くて、穴を開けるのが大変だとツヤ子さんは言っていた。(71p)

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タイルを傷つけないようにドリルで穴を開けるのはとても難しいという

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松井さんの手書き文字がやっぱりいい!


(第2章へつづく)

 『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』店舗限定購入特典ペーパーのための書き下ろしに、大幅に加筆・修正を加えた。


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