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VRの焚き火を見ながら飲む (スズキナオ) 〜『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』より公開! ⑤〜

こんな状況でも、楽しいお酒の飲み方はあるはず

若手飲酒シーンを牽引する人気ライターのパリッコ(『酒場っ子』)とスズキナオ(『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』)が編集、執筆を務める飲酒と生活の本『のみタイム』
1杯目は100頁以上にわたり「家飲みを楽しむ100のアイデア」について考えました。日常を楽しくする、使えるアイデアが満載!

2020年の前半、わたしたちはこんな「のみタイム」を過ごしていました。

053 VRの焚き火を 見ながら飲む (スズキナオ)

(パリッコ/スズキナオ『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』より)

 1年ほど前、ふとした拍子にVRゴーグルを購入した。スマートフォンをはめ込んで使うタイプのもので、通販サイトで3000円ぐらいで買ったのだったと思う。その時は確かジェットコースターのVR映像や海の中を色とりどりの魚たちが泳ぐVR映像などを見て「おー! なるほどすごい。こういうものか」と思い、それで気が済んだ。元の箱にしまって部屋の隅に置いて、それから特に出番のないまま同じ場所にずっとあった。宝の持ち腐れ状態になっていたVRゴーグルだったが、「今こそ出番じゃないか!」と思い出した。

 すぐに箱から中身を取り出し、久々の再会。ゴーグルにセットしたスマートフォンで「VR 焚き火」と検索する。YouTube上で「VR」と検索するだけで、かなり多種多様なVR映像を無料で楽しめるのだが、そういったもののなかに焚き火のVR動画があるのを私は知っていたのだ。気の向くままに外に出ることが難しい今、VRで焚き火を楽しんだら心が晴れるんじゃないだろうか。準備も片づけもいらないのもいい。

 発泡酒を用意してジョッキに注ぐ。ゴーグルを装着し、「【VR180】焚火【ASMR】」と題された焚き火動画を再生する。パチパチと焚き木がはぜる音が聞こえ、目の前に暖かそうな炎が現れる。予想以上に臨場感があっていい感じだ。炎がゆらゆらと風にたなびいては時おり勢いを増す。その様子をぼーっと眺める。頭を動かすと斜め上方には夕暮れの空が見える。心が落ち着く……。

 しかしあれだな、ジョッキの発泡酒がゴクゴク進む! という感じではない。一旦ジョッキを床に置いて心ゆくまで焚き火動画を堪能したあと、ジェットコースターだのスカイダイビングだの派手なVR動画をやっぱり見てしまう。「うわー! こわ! あはは」などとひとりではしゃぎながらのほうがジョッキ酒にはマッチするかもしれない。中身をこぼさぬよう注意しないといけないが。

 さらに時間が経ち、いつしか私は「VRホラー映像」みたいなジャンルの動画を片っ端から見ていた。ギャーギャー騒いでそれはそれで楽しかったのだが、「静かに焚き火を楽しもうと思っていたあの時の気持ちはどこに行ったんだよ!」と自分で自分が不思議になるのだった。(ナ)

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パリッコ/スズキナオ(編著)
『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』
2020年8月5日発売 発行:スタンド・ブックス 本体1,500円(+税)ISBN:978-4-909048-09-7 C0095 A5変型判 並装 132p
カバーイラスト:石山さやか ロゴ:スケラッコ デザイン:戸塚泰雄
スズキナオ(編著)
1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、パリッコとの共著に『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

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