教えるひと工夫

お絵描きの勉強で、シワをつけた紙をデッサンしました。よくある課題ですが、さらにわかりやすくするためにモチーフに線を入れてあります。このように線を入れたものを描かせると、作業が進めやすくなり、描いてる本人も上手くなった気になれます。

モチーフの紙に線が入ってると
このように表現しやすくなる

空気遠近法とは、地上において、空気の層により光が拡散して遠くのものはコントラストが薄らいで見えることを表現する方法です。乱暴に言えば、遠くのものほどテキトーに描く。物事にはメリハリというのがあって、こういうのは手抜きとは違うわけです。いい加減という言葉はネガティブに聞こえますが、良い加減という意味でもありますから。

薄らボケてると遠くに見える
わかれば子どもでもこの通り描ける

色鉛筆を使ってリンゴをデッサン。りんごは何色ですか?から入ります。大概は赤いと答えます。ここが重要です。赤は使います。他には色鉛筆のセットに入っている黒以外の色をほぼ全て使います。必ず使うことが前提です。使わなければいけないと思うと、その色を使う場所を探します。すると、おや?りんごは思ったより赤くない…と、モチーフには実際は想像以上に様々な色がある事に気づきます。
りんごは赤いのに他の色を使うなんてヤダな…と子どもは思います。その先入観が嘘だと知ること。素直にただ目の前にあるものに向き合うのです。

普通にうまい小学生
なかなか激しいけどパワフルで良き

この手の制作の過程には勉強になる事が多い事がわかりました。
普通の絵はその工程において完成の図を想像できます。それに向かって描くので当然といえば当然(それでも訓練した人でないと普通はできませんが)。
今回の課題の場合、完成図そのものは完成品ではないので、視点を変えた時の見え方を考えながらの作業となります。少しハードルが高い作業ですが達成感があります。

完成を想像するのが難しい課題
とは言え映えるよね

黒い紙に白ペンで描きます。すると、描いた当人でも意外に思うほど上手く描けます。もちろんコツと指導は必要ですが。成功体験が苦手意識を克服します。

なんか疑心暗鬼で描くけど
これがなかなか上手く見えるんだな

と、こんな感じで課題の一部を紹介しましたが、ぼくが考える教室っていうのは絵が上手くなるためだけの教室ではない。絵が上手くなるなんてオマケみたいなものでいいのかなと思う。
デザインの基礎課題もやっていますが、ある日鉛筆デッサンでリンゴを描きました。
子供たちはとても頑張ってくれて、学年の割にはまぁまぁのデッサンが描けました。でも実はデッサンの時、一人だけ、モチーフは同じでも、他の子と違うやり方で描かせている子がいました。
彼は論理的理解がかなり苦手なタイプなので、通常の指導はやめて、"見た通りに描がない"、"全部ホンモノと違う色で塗る"、"できるだけメチャクチャに"とだけ言うようにしました。
つまり、普通に上手な絵を描くための作業をすべて放棄させました。
鉛筆デッサンの課題でも、彼には色鉛筆やクレパスなどを使わせています。
ただし、"必ずしっかり頑張って描く事"、"メチャクチャといい加減は違う"という事だけは厳しく伝えています。
こんな事を続けていたら、画伯は最近ヒット作を連発しています。
学校の図画工作では、絶対にいい評価はされないでしょう。学校が教えるのは、学問でも創作でもなく、ただ『キチンと言われた事が出来る』という単なる作業なので、見た目の通りに描かないという行為は当然評価されません。
でも、いいと思います。当の描いた本人が、出来栄えを見ていつも満足そうにしてるのが何より素晴らしい。
画伯が描いたこの変なリンゴの絵を見て、皆さんはどう思いますか?
私はこう思います。自由とは尊いものだ、と。

これって最高だと思わない?

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