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本人の意思を尊重し死期が早くなるとき

最近 亡くなった人。


Aさん 70代男性

統合失調症で入院していたものの次第に認知症が進行。

歩行能力が低下し車椅子での生活となり、嚥下能力が低下し飲み込みもしずらくなってきた。

1年前に嚥下性肺炎を治療した後も、嚥下能力がなかなか回復せず、3か月ほど経鼻栄養(鼻から管を入れて栄養を取る)を行った。

その後 食事がとれるようになったものの、時々むせることがあり、熱が出たり呼吸状態が悪化することはなかったものの嚥下性肺炎を繰返し、栄養状態も次第に悪くなってきた。

精神的には比較的安定していたので、大分前から抗精神病薬は中止し介護と身体管理を行っていた。

本人に栄養状態が悪くなってきており、次に大きな肺炎になったら亡くなる可能性が高いこと、経鼻栄養や点滴などで少しでも身体状態の改善を目指すほうが良いことを繰返し説明したものの、「鼻から管はもう嫌だよ」「点滴も嫌だよ」と拒否をしていた。

認知症で判断能力が低下しているとして、体をしばって経鼻栄養や点滴を行い「治療」することは簡単である。

しかしAさんの場合は、嚥下能力が改善する可能性はほぼなく、認知症があり昨日の説明は完全に忘れてしまっているものの再度説明するとしっかりと理解した上で経鼻栄養などの治療を拒否するという本人の意思はぶれることがなかった。

また家族は本人の意思を尊重したいという意向であった。

そのためしっかり相談した上で経鼻栄養や点滴は行わず食べれる範囲で食べて、飲める範囲で飲んで、死を迎えることとした。

「このご飯まずいなー、もっとうまいもの出してよ」と軽口を叩きながらも、少量ながら自分のペースで食べ、そして数か月後 「水が飲みたい」と少量の水を飲んだ後、意識が無くなり亡くなった。

経鼻栄養や点滴をしている人はどうしても、全身がむくみ、体全体から特有のにおいが漂ってくることが多いものの、Aさんはやせは目立つものの「きれいな」亡くなり方だった。

Bさん 60代 男性

統合失調症で長期間入院していたものの、症状は強く怒ったり大声をあげたりすることもよくあった。

そんなBさんが食事があまり食べれなくなり、体重も減少してきた。

検査をしたところ、肺癌と多発性の肝転移が見つかった。

入院していたので定期的な検査をしていたものの以前の検査では全く異常を認めなかったので急速に進行したようである。

本人に肺癌で肝臓にも転移していること、治療しないと確実に死亡するものの治療を受けるにしても抗がん剤や放射線治療などなかなか大変なものになると思われることを説明したところ、治療を受けないことを希望した。

何回か意思を確認しても気持ちは変わらなかった。

次第に食事が食べれなくなり、点滴などの「治療」を勧めるも、これも拒否した。

家族は癌の治療は希望しなかったものの、「しばってでも点滴をすることはできないのか?」と当初は点滴などの治療は希望した。

点滴をすることで亡くなるまでの時間が長くなる可能性は高いものの、本人の意思を無視することになること、癌が治ることはなく死ぬのを遅らせるだけであること、長生きすることで今はない痛みや吐き気などの症状が出現してくる可能性があることを説明したところ、本人の希望を尊重することを希望した。

そうしてBさんは亡くなった。

点滴で命を伸ばすこと

個人的に点滴で命を伸ばすことは慎重に検討した上で行うべきだと思っている。

しかし現在の日本では食事が食べれないと、
・とりあえず点滴しよう
・長くなりそうだから経鼻栄養あるいは中心静脈栄養 はじめちゃおう
・食べれるようにならなそうだから胃ろうに変えよう
というコースをたどることが多い。

もちろん本人が希望する、あるいは 本人の意思を一時的に無視したとしても回復し元のように戻れる可能性が期待できるのであればやっていい。

本人が希望しているのか?
本人が嫌がっているけれどこれで回復し元に戻れるのか?

この視点で考えるということをするべきである。

ただ命を伸ばすだけで病院はもうかる

今の医療制度は、ただ命を伸ばしているだけで病院はもうかるようになっている。

Aさん、Bさんは 比較的早い段階で亡くなっており、経営の面からすると(次の入院患者が待っているという状況でない限り)マイナスである。

家族が「生きていて欲しい」と願い、病院が「生きていてくれたらお金が入る」と思い、本人の意思を無視して科学の力で生かし続けるという状況がまともだとは私には到底思えない。

厚労省と財務省にこのおかしな状態を何とか常識ある状態に変えて欲しいと切に願っている。


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