見出し画像

ネット上の精神科医療に関する批判は冷静に見た方が良い

ネット上では薬に対する批判、医師に対する批判、病院に対する批判にあふれている。

精神科病院に入院したときの体験として、
・ふん尿垂れ流しで放置された
・水がもらえず脱水で死ぬところだった
・性被害にあった
など。

クリニック批判には、
・長く待たされた上に話を全く聞いてくれない
・薬だけだされた
・自分のことを完全に否定された
など。

強く不満を感じた人だけが書き込みをする

経営のことしか考えていない精神科医、薬を出すことしか考えていない精神科医、十分な知識や経験ももっていない精神科医は確かに存在する。

しかしネットでの批判を見ていると、本人・家族の治療に対する過剰な期待、主治医の医療の限界を明確にしない態度が原因で引き起こされ泥沼化し、本人や家族が自分が悪かったのではという自責の念から逃れるために薬や精神科医を悪者扱いにする、という構図が多いように思える。

「あの・・・ それは・・・ 家族のその態度が悪かったのでは・・・・」
「治療する前はいい子だったというけど・・・ 本当にそう?・・・」
と言いたくなるものが多い。

こんなことを書くと、「自分たちの非を棚に上げて何を言っているんだ」という反感を買ってしまうものの、重要な点なので強調しておきたい。

「私たちは薬と精神科医にこんなひどい目にあいました」と主張しているネット情報に対して、否定的なコメントを書く人はそういない。

理由はともかくつらい状態にあることは間違いなく、そのような人たちに傷口に塩を塗るようなことはしない。

それが日本人的な美徳である。

そして同調する人だけがコメントを書く。

そうやって構築された薬批判と精神科医批判の記事を見ていると、あたかも世の中にある精神科の薬は全て危険で、精神科医は全て危険な存在であるかのように感じてしまうかもしれない。

医療の限界をしっかりと理解した上で、精神科の薬や精神科医を利用することで、多くの人は恩恵を受けることができる。

しかし全ての精神科医が安全な人とは限らず、優しく一生懸命取り組んでくれる精神科医が良い医師とは限らない、ということも事実である。

目の前の精神科医が優しくて話しやすいかは どうでも良い。

現在の治療が上手くいっているか、上手くいっていないか、が全てである。

病院は長く話を聞くところではなく、薬を出すところである

誤解されるかもしれないが、あえて断言する。

病院は長く話を聞いてあげる場所ではない。

基本的に薬を出して治療をする場所である(外科系なら 手術をすることもある)。

少なくとも現在の日本の医療制度はそのようになっている。

それを誤解してはいけない。

心療内科のクリニックのホームページには必ずと言っていいほど、「なんでも気軽に相談してください」と書かれているものの、大間違いである。

気軽に相談する前にまず自分でいろいろと努力をするべきである。

規則正しい生活をする
ストレスを減らす
気分転換をする
酒、たばこ、カフェイン、大量のお菓子を止める
軽めの運動をする
友だちに相談する
などの様々な自分でできることをまずやるべきである。

それでも良くならないときにはじめて病院を受診するべきである。

多面的に考えることが必要

またネット上には患者や家族の「体験談」が記載されるものの、医療側からすると全くことなる事態であることも良くある。

もちろんこれらの体験談が事実である可能性もある。

事実は多面的に見る・考える必要があり、当事者の話を鵜呑みにすることも、医療者の話を鵜呑みにすることも慎重にしないといけないということを強調しておきたい。

患者や家族はネット上に病院を個人名を明確にしたうえで批判することが可能ながら、病院や医師は治療関係が終了した後でも守秘義務があるため、「いや それはこういう状況だったんですけど」とはネット上に書き込むことができない。

そういう 一種のフェアではない状態での「言い分」である。

1)ふん尿垂れ流しで放置された

【当事者の言い分 】

抑制されているときにトイレに行きたいと言っても連れて行ってくれなかった。

おむつの中にするように言われた。

「便が出た」「尿が出た」と言っても、「待って」とそのまま放置された。

【医療者の言い分 】

・まだまだ抑制を解除するは危険。

大興奮してようやく5人がかりで抑制した。

少しだけ落ち着いて「トイレに行きたい」と言っているけれど、急に怒鳴りだしたり歌いだしたりすることがあり、いつ突発的な行動を取るか分からないので連れていけない。

・職員が少ない

ある程度は安定してきたけれど、夜勤帯で職員が女性2人しかいない。

この人の体格では対応はできない。

・トイレに行っても出ない

さっきから「トイレ」「トイレ」と言うものの、トイレに連れて行っても全然出ないし出そうともしない。

戻るとまた同じように「トイレ」という。

ちょっとこれ以上は無理。

・「尿が出た」「便が出た」と言うものの出ていない

何度も「出た」と言うものの、確認しても出ていない。

しばらくするとまた言ってくる。

今も言っているけれど、他の人の対応もしないといけないので1時間後に確認をしよう。

2)水がもらえず脱水で死ぬところだった

【当事者の言い分】

隔離室(保護室)に閉じ込められた。

何もない部屋で無性にのどが渇く。

ペットボトルの水はすぐに空っぽになった。

何度 水をくださいと言っても、「これで終わりです」「これ以上飲んではいけません」と飲ませてくれない。

大きな声で職員を呼んでも全く来てくれない。

脱水で死にそうだった。

【医療者の言い分】

・多飲がひどい

のどが渇くと水を一杯飲んでいる。

隔離する前も2L以上は確実に飲んでいる。

足元もふらふらして、言っていることもおかしい。

典型的な水中毒の症状があり水の制限が必要。

1日の水分量を計算して渡してもすぐに飲み切り「水をくれ、水をくれ」と、大声で水を要求する何度説明しても理解してくれない。

「脱水で死んでしまう」と叫んでいるが、飲ませると死ぬので飲ませられない。

3)性被害にあった

【当事者の言い分】

職員が部屋に入ってきて変なことをした。

怖くて何も言えなかった。

他の人に言っても誰も相手にしてくれない。

【医療者の言い分】

・あり得ない

そんなことするわけが無い。

本人のことを心配して親身になって話をしていたら、こんな話になってしまった。

以前より妄想的な発言を時々していたし、症状だから仕方ないとは思うものの、変なことをずっと言って落ち着かずに入院したのを見ているはずの親が本気にしてしまうのは本当に困る。

・していないという証明は難しい

本人の言う時間帯のビデオではその人の入室が無くても、「時間の記憶がずれているだけ」と言われる。

入室は数分だけでも「短くてもできる」と言われる。

していない という証明は難しい。

多面的に見る・考える必要性

繰返しになるものの「体験談」が全て事実ではないということを言いたいのでは無い。

事実は多面的に見る・考える必要があり、当事者の話を鵜呑みにすることも医療者の話を鵜呑みにすることも慎重にしないといけないということを知っておいて欲しい。

ネット上の精神科医療に関する批判は冷静に見た方が良い。

更に言ってしまえば、ネット上の評判や口コミは見ないほうが良い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?