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精神科医療の世界に弁護士が介入することによる弊害

最近 弁護士が精神科医療の世界に介入してくることが増えてきている。

弁護士が増えすぎて仕事が減ったせいなのか、精神科医療に理解と興味を示す弁護士が増えたためなのかわからない。

弁護士が介入することでいいところと悪いところの両方がある。


いいところ

強い立場から意見を言える

どうしても家族は病院に対して弱い立場になってしまうことが多い。

本人の言動に振り回され疲弊し何とか入院させたという経緯がある以上、どうしても助けてもらったという感覚を持ちやすく、病院の言うとおりになってしまう傾向がある。

弁護士が介入することで、必要なことを伝え、要求することができるようになる。

法律的な知識が豊富

精神保健福祉法などに詳しくない弁護士は多いものの、その他の多くの法律に対する知識は豊富で、本人が抱えているトラブルを適切に解決に導いてくれる。

病院もいい意味での緊張感が持てる

本人と家族だけであれば、病院はどうしても惰性に陥りやすく、「まあこんな感じでいいか」となってしまいやすい。

弁護士という第三者が介入することで、いい意味での緊張感をもって治療にあたることが可能である。

とくに油断するとすぐに「〇〇ちゃーん! だめじゃないーー!!」という風に叱り飛ばしてしまう中年以降の看護師さんには効果抜群である。

悪いところ

しかし いいことばかりではない。

介入する弁護士の数が増えてくるにつれて、弁護士のレベルの差が目立つようになってきた。

治療の邪魔をする

幻聴や妄想を抱いている人に対して、「その話は病院の人には言わないようにしなさい」とアドバイスする弁護士が結構いる。

司法の世界では黙秘権というものがある。

何人も、自己に不利益な供述を強要されない。(憲法第38条第1項)
被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。(刑事訴訟法第311条第1項)

ベリーベスト法律事務所

本人が、幻聴や妄想があることを話すと、なかなか退院できなくなる可能性がある以上、自分に不利益となる話はしないようにと口止めする。

弁護士の戦略としては間違ってはいないのかもしれないが、言動から幻聴や妄想が残存していると思われる人が、弁護士との面会後頑なに「聞こえません」「ありません」と答え、時に「答えたくありません」と言い出すと、完全に治療の場ではなくなっていく。

当然ながら主治医や病院に対する信頼感は形成されない。

治療の邪魔をするな! と言いたくなる。

無理な根拠を要求してくる

症状が残っている、病気の自覚が不十分、退院した後 すぐに薬をやめてしまう可能性が高い、などの治療に大切な判断の多くは、本人の行動、発言、様子などから感覚的にとらえるものである。

弁護士から「症状は話すな」「「必ず通院します」「薬は飲みます」といいなさい」と言われている人たちは、診察に対して機械的に答えてくる。

感覚的には大嘘を言っていることはわかるものの、「本人はこう言っているんですよ!」「どうして退院を認めないんですか?」「治療をやめてしまうという根拠は何ですか?」と弁護士が言い出すと反論するのは難しい。

刑事事件の裁判で、「こいつ またやるだろうな」と思っていても、「本人は深く反省しており、家族も同じ過ちを繰返さないように暖かく見守ると約束しています」と弁護するのと同じ感覚なのだと思う。

「あなたは、本当にこの人治療を続けると思っていますか?」と聞くと、ほとんどの人は「本人は治療続けると言っています」としか答えない。

比較的高額の金をとる

弁護士活動はボランティアではない。

当然ながら報酬を支払う。

多くの人は分割払いで退院後 払い続けることとなる。

ただしこれは、弁護士によっては非常に安い金額で本当に本人のために頑張ってくれている人もいることは強調しておきたい。

退院したら終了

「本人は必ず通院するといっています」「今回のことはしっかり反省しています」と言いながら、退院したらそれで契約が終了となり、報酬請求以外は関わらない人が多い。

退院した後 生活の相談をしたり、治療の援助をしたりする人はまずいない。

今後も弁護士の介入は続く(多分)

金になるようなら 今後も弁護士の介入は続くはずである。

しかしそれは本当に患者のためになるのかは正直分からない。

早く退院させることを最大の目的にするのではなく、長期間にわたり安定して生活できることを最大の目的として支援してくれる弁護士が増えることを願う。

少なくとも患者と病院の信頼関係の構築の邪魔だけはしないで欲しい。

「奴らには本当のことを話すな」と言い続ける介入だけはしないで欲しい。


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