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【行政書士試験FIRST STEP】行政手続法の全体像を把握しよう! 前編

 行政手続法は全46条と条文の数的には少ないですが、どの条文も内容が濃いものばかりです。

 欲を言えば本番の試験前までに条文を全て暗記するくらいの勢いで行きたいところではありますが、今回も今までと同様、大枠を捉えるべく行政手続法の大枠を見ていきましょう。

 行政手続法は主に4本の柱+αで構成されている法律です。


行政手続法は事前救済のための法律

 まず、行政手続法は何のために存在しているのかを考えていきましょう。

 前回、行政手続法は事前救済のための法律であると解説しました。

 行政の活動によって国民が不利益を受けた場合、それを救済する方法として、行政不服審査法のような事後救済のための法律が存在します。

 しかし、そもそも救済を受けなければならない状態になること自体が間違っていますよね?

 救済が必要な状態にならないように行政はその活動が慎重であり、公正でないと困ってしまいます。

 そこで定められたのが、事前救済のための法律、行政手続法なのです。

行政手続法の目的条文を読んでみよう

 法律を勉強する際に重要なのは「目的条文を読むこと」です。

 目的条文を意識するだけで、問題を解くこともできますし、理解を早めることができると私は思います。

この法律は、処分行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

行政手続法1条1項

 行政手続法の目的は

  • 行政の手続きについて共通のルールを定めること

  • 行政運営において公正さの確保、透明性の向上を図ること

  • これらを決めることによって国民が不都合な目に合わないようにすること

 ざっくり言ってしまうとこの3点であると示しています。
 つまり、行政手続法は今の3点に反することはできないということです。

 仮にあなたが問題文を読んで、わからない選択肢が出てきた場合も焦ってはいけません。
 
 行政手続法の目的条文を思い出しましょう。
 公正の確保や、透明性の向上を蔑ろにするような選択肢が出た段階でその選択肢は間違っていることになります。

 目的条文はその法律全ての指針といっても過言ではありません。この条文を意識しながら行政手続法を勉強していきましょう。

行政手続法の4本柱と適用除外

 行政手続法の枠組みとして大きく4本の柱とその他(適用除外)で構成されています。それぞれについて見ていきましょう。

行政手続法の4本の柱と適用除外

1.処分

 行政手続法において処分とは

処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう

行政手続法2条2号

 と規定されています。 

 はい、何を言っているか分かりません。

 処分の説明なのに、なぜ説明文の中に処分という字が入っているのか。

 行政庁の処分とはお役所が国民に「こうしなさい」という義務を与えたり、「こうしてもいいですよ」という権利を与える行為のことを言います。

 その他公権力の行使についてもお役所の行動によって国民の権利義務を動かすことを指します。

 なぜ2つに分けて書いているかといえば、行政の活動に「処分」という名前がついていなくても、それは処分として扱うことができるようにしているためです。

 まとめると、国民の権利義務を動かすお役所の行動を処分と呼ぶイメージです。

 処分はさらに細分化されていまして申請に対する処分不利益処分に分けられます。

2.申請に対する処分

 申請とは国民が自己に対し、何らかの利益を付与する処分を求めることを言います。

申請 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

行政手続法2条3号

 申請に対する処分とどんなものか理解するためには、具体的なイメージを持つことが重要です。

 例えば、Aさんが飲食店を開業しようと考えます。
 Aさんが飲食店を開業するためにはお役所に「飲食店を開業したいので、許可してください」とお伺いを立てる必要があります。

 このAさんが行ったお伺いのことを営業許可申請といいますが、このような手続きをまとめて行政手続法では申請と呼びます。

 国民から申請を受けた後、その申請を認めるのか、それとも拒否するのか、そういった行政庁の一連の判断の過程についてのルールが申請に対する処分の条文です。

 なお、申請には諾否の応答が義務付けられています。

 国民が申請をしたら、お役所は無視することができず、何かしらのアクションをしなければいけないということです。
 この点において、後に説明する届出とは大きな違いがありますので覚えておきましょう。

3.不利益処分

 申請に対する処分の他に不利益処分というものもあります。

不利益処分 行政庁が、法令に基づき特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。(以下略)

行政手続法2条4号

 不利益処分の具体的なイメージとして、先ほど挙げた飲食店をイメージしてみましょう。

 無事に飲食店を開業することができたAさん。一生懸命働いた結果、地元で有名な人気店にまで成長しました。

 しかし、日々の忙しさが祟ってか、衛生管理ができておらず不衛生な状態のまま営業することが増えてしまいました。

 そんな日が続いたある日、Aさんの店が不衛生であるとタレコミを受けた行政庁が調査にやってきました。
 調査の結果、Aさんのお店は食品衛生法違反ということで営業停止処分を受けてしまいました。

 この営業停止処分のことを不利益処分といいます。

 悪いことをしたから、元々持っていた権利を制限されるみたいなイメージをなんとなく持っているといいと思います。

 しかし、悪いことをしたという事実もないのに不利益処分を受ける場合もあります。

 そんな処分は納得いかない! と我々の方から行政に対して反撃する機会も設けられているのです。

 それらの手続きのルールをまとめたものが不利益処分に関する条文なのです。

 さて、これまでの2つのモノのイメージをまとめてみました。

申請に対sる処分と不利益処分のイメージ

 このように飲食店の開業からそれ以降の手続きとしてイメージすると2つの内容の違いを理解できると思います。

4.行政指導

行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

行政手続法2条6号

 行政指導は、お役所からの「お願い」です。
 あくまでも「お願い」なわけですから、それに従う必要は無いという点が処分等とは大きく異なる点です。

 行政指導は「お願い」。行政処分は「命令」というイメージです。

 具体的な例を挙げるとすれば、Aさんが管理する土地に倒壊しそうな建造物が建っていたとします。

 お役所としては、今にも倒壊しそうな建物を何とかしてもらわなければならないと考えます。

 そうなった場合、

 「建物が倒壊しそうなので、撤去してくれませんか?」とお願いするのが行政指導です。
 
この行政指導に対し、Aさんは従う義務が無いため、無視しても問題ありません(実際には従わないとより厄介なことになるので従っておいた方がいいですが……)。

 一方で「今すぐにその建物を撤去しなさい」と命令するのが行政処分です。
 
こちらには法的拘束力がありますので従う義務がAさんには課せられます。

 しかし、ここで皆さんに考えて欲しいことが、行政指導の意義についてです。

 なぜ法的拘束力が無いにも関わらず行政指導なんてものが存在するのでしょうか。そもそも建物を撤去したいのであれば、全て行政処分にしてしまえばいいと思いませんか。

 その答えは、行政指導の自由さにあります。

 行政処分を行うには法律的根拠が必要になります。つまり、法律に書かれている内容の通りにしか行政処分を行うことができないのです。

 強力な拘束力の代償にそれだけの制限が掛かるのです。

 しかし、行政指導は法律的根拠は必要ありません。あくまでもお願いというスタンスですから必要無いのです。

 なので行政機関が自由に行政指導という形で国民に要求することができるということになります。

 行う際の自由さという点において、行政処分に勝っているため、行政指導にも存在意義があると考えるといいでしょう。

 次回は残りの「届出」と「命令」の2本の柱を開設する共に、行政手続法の「適用除外」について解説していきます。

 ではまた次回。

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